「三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」」

自動車・家電輸出がそんなに重要か

この産業を救うのは「適切なデフレ対策」しかない

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2011年2月21日(月)

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 予めお断りしておくが、筆者は国内の「誰か」(特定産業や企業など)を「悪者化」し、別の産業や国民が「得をしよう」などという発想について、決して健全だとは思わない。何しろ、国民経済とは「つながっている」のである。特定産業や企業をことさらに叩いた結果、失業者が増え、国民経済全体の景気が悪化した結果、最終的には自分たちの産業がダメージを受けるケースが多々ある。

 具体的な例を1つ書いておくと、メディア業界だ。日本のメディア業界は、ひたすら企業を叩き、政府を叩き、官僚を叩き、政党を叩き、業界を叩き、国内のデフレが継続する方向に、国民の危機感を煽り続けている。結果、現在は大手新聞社やテレビ局の業績が悪化し、自分たちの職や給与が危なくなってきているわけである。

 当たり前の話を1つ書いておくと、メディア企業に勤めている人々の給料を払っているのは、会社でもなければ社長でもない。購読者やスポンサー企業などの「顧客」である。日本のデフレ深刻化を煽り、経済全体が沈滞化した結果、結局はメディア企業に勤める日本人も損をするというわけである。

農水省と経産省、セクショナリズム丸出しの理由

 さて、今回の「平成の開国」すなわちTPPに関する検討手法が問題だと思うのは、まさしく前述の「誰かを悪者化し、他者が得をしようとしている」を、政府自ら実践している点である。具体的に書くと、悪者化されているのが「農業」で、「得をしようとしている」のは自動車や家電などの大手輸出企業である。

 何しろ、TPPに参加した場合、農林水産省が、
「全国で農産物の生産額が4兆1000億円減る」
と試算し、悲鳴を上げている。

 同時に、経済産業省がTPPに参加しない場合
「自動車、電気電子、機械産業の3業種について、2020年にGDP換算10.5兆円の減少となり、実質GDPを1.53%押し下げる」
と、日本国民の危機感を煽る数値を掲げているわけである。

 農林水産省と経産省が、まさしくセクショナリズム丸出しで「参加するべき!」「いや、参加するべきではない!」とやっている以上、TPPに参加した場合、「農産業が損をし、家電や自動車などの輸出産業が得をする」と考えて構わないだろう。

「車が来るなんて想定外でした」とでも言うのか

 それでは、農産業にも輸出産業にも従事していない、多数派の日本国民にとって、TPP参加はどのような影響を与えるのか。実は、現時点では「不明」なままである。TPP推進派にしても、せいぜい
「国民生活や日本の諸制度に影響を与えるような、大幅な完全自由化は、TPPでは想定していない」
 などと、アメリカの戦略を無視した説明をする程度だ。

 要するに、農産業や輸出産業への影響以外に、例えばアメリカが「どこまでの自由化を望んでいるのか」などについては不明、というのが現状なのだ。無論、アメリカがサービスや官需について完全自由化(非関税障壁の撤廃を含む)を要求してきた場合、日本側が「NO!」と言うことはできる。とはいえ、実際には他国よりも関税が低いにも関わらず、国際会議の場で首相がわざわざ「我が国は開国いたします」などと発言し、自虐的な態度で交渉に臨む日本政府が、アメリカ相手に強硬姿勢を貫けるとは思えない。

 日本が「NO!」と言った日には、
「貴国の総理大臣が『平成の開国を致します』と言ったじゃないか。つまり、日本は国を開いていないということだろう」
 などと反論されるのが関の山である。

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著者プロフィール

三橋 貴明(みつはし・たかあき)

三橋 貴明作家、経済評論家、中小企業診断士
1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業ノーテル、NEC、日本IBMなどでの勤務を経て2008年に中小企業診断士として独立、三橋貴明診断士事務所を設立した。現在は、経済評論家、作家としても活躍中。2007年、インターネットの公開データを詳細に分析し、韓国経済の脆弱な実態を暴く。これが反響を呼んで『本当はヤバい!韓国経済』(彩図社)として書籍化され、ベストセラーとなった。既存の言論人とは一線を画する形で論壇デビューを果たした異色の経済評論家。ブログ「新世紀のビッグブラザーへ」の1日のアクセスユーザー数は4万人を超え、推定ユーザ数は12万人に達している。2010年参議院選挙の全国比例区に自由民主党公認で立候補したが落選した。『日本の未来、ほんとは明るい!』(ワック)、『いつまでも経済がわからない日本人−「借金大国」というウソに騙されるな−』(徳間書店)など著書多数。



このコラムについて

三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」

 「平成の開国!」などと、イメージ優先で進むTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。マスコミではTPPがあたかも「日本の国民経済全体のために素晴らしいこと」といった報道がなされ、「農業だけが問題」と議論が矮小化されている。しかし、TPPは単なる農業の輸入問題ではない。日本社会のあり方や「国の形」を変える可能性を持ち、かつ日本のデフレを深刻化させる恐るべし政策なのだ。そもそもTPPにせよ、自由貿易にせよ、その本質はインフレ対策である。TPP、緊縮財政など、デフレ期にインフレ対策ばかりを推進する民主党政権により、日本経済は更なるデフレ不況の谷底へと、叩き落とされるのか?

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