• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

黒毛和牛が消える日

2011年2月22日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

消費者の霜降り信仰によって、種牛の集約化が進みつつある。繁殖力や改良余地の低下といった懸念もささやかれ始めた。多様性の喪失が活力を損なう。これは対岸の火事ではない。

 黒毛和牛が消える――。そんな悪夢が現実のものになるかもしれない。

 長野県松本市の牧場で約50頭の黒毛和牛を飼育している百瀬和男氏はこの数年、将来に強い懸念を抱くようになった。「血が混ざりすぎると、逃げ場がなくなってしまう」。そう語る百瀬氏の懸念は、和牛の近親交配が進みすぎていることだ。

半数の雌牛に「平茂勝」の血

 同様の懸念を抱えているのは百瀬氏だけではない。

 「鹿児島の『平茂勝(ひらしげかつ)』、岐阜の『安福(やすふく)』、島根の『北国7の8』。血統をさかのぼれば、この3頭の血が現役の種牛や雌牛、子牛のほとんどに入っている」

 肉用牛の専門誌、「肉牛ジャーナル」を発行している肉牛新報社の荒木太郎社長は語る。特に、平茂勝の血は全国の半数の雌牛に入っているという。

 先の種牛に共通しているのは脂肪交雑に優れているところだ。脂肪交雑とはいわゆる「サシ」であり、この3頭の血を引く牛には優れたサシが入りやすい。きめ細かいサシが入った枝肉は市場の評価が高いため、多くの生産者はこの系統の種牛を競うようにつけた。

 もっとも、その代償として、黒毛和牛の近親交配は進み、系統間の差異が失われつつある。

 各地で生産される黒毛和牛。そのルーツをたどると、中国山地の山あいで飼育されていた蔓牛(つるうし)に行き当たる。

 骨締まりがよく、体格が大きい。性格もおとなしく、よく子供を産む。こういった優れた特徴を持った蔓牛は全国の産地に導入された。

 その後、それぞれの地域が県単位で品種改良に尽力し、今に続くブランド和牛の基礎を築いた。各県が固有に黒毛和牛の品種を持っていたということだ。

 ところが、昭和30年代に凍結精液の技術が開発されると、県の垣根は徐々に消えていく。それまでは地域を超えた交配は物理的な制約を受けていたが、凍結精液の普及とともに壁は消滅。優れた種牛を交配する動きが全国で加速した。

 消費者の霜降り信仰も種牛の偏りに拍車をかけた。国民の生活水準が向上すると、霜降り信仰が消費者や小売りに広がり、サシが入りやすい一部の種牛に人気が集中する事態を招いた。

 2000年代初頭に起きたBSE(牛海綿状脳症)問題が“血の平準化”に与えた影響も無視できない。

 BSEの影響で枝肉価格が急落すると、価格下落を量で補うため、生産者は枝肉の量がより多く取れる種牛を求めた。それが平茂勝である。通常、去勢牛の枝肉重量は450kg程度だが、平茂勝の子供は500kgもザラ。それでいて、サシもしっかり入る。「質量兼備」の平茂勝に生産者の人気が集中した。

 そして、質の低い母牛の淘汰が起きた。黒毛和牛の質を高めるため、枝肉評価が低い子牛の母牛を排除する動きが加速。「(一部の系統に偏る動きは)この10年で顕著になった」。肉牛新報社の荒木社長は振り返る。

 本来、家畜に求められる機能は肉質だけではない。繁殖力が高く、健康な子牛を安定的に産むという要素も重要だ。だが、市場の要請で改良は肉質に偏重。今では、名の通った種牛の枝肉でなければ高い値もつかない。

 地域ごとの差異が失われたのは、こういった一連の動きの結果である。

コメント0

「時事深層」のバックナンバー

一覧

「黒毛和牛が消える日」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

企業や官公庁の幹部のメールボックスの内容が、まるごと数十万〜数百万円で売られている事例もある。

名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官