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029|「人がつくる」ということ
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2011年3月8日(火)

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 少し前の話題になりますが、昨年12月、アメリカのSF映画「トロン:レガシー」が公開されました。すべての場面が凄まじいまでにCG(コンピューターグラフィックス)加工されたこの作品は、約30年前の映画「トロン」の続編でした。

 オリジナル「トロン」が公開されたのは1982年のこと。美大生であった私が初めてコンピューターとデザインの関係性を学んだ映画であり、コンピューターの仮想世界を体験する入り口であったと思います。世界で初めて全編に渡ってCGを使用した映画として話題を集め、コンピューターの内部世界を美麗な映像とプログラムの擬人化という手法で表現した点が特徴でした。

 1982年と言えばスティーヴン・スピルバーグの名作「E.T.」と公開時期が重なったこともあり、興行的には失敗に終わったものの、CG映像表現の可能性を示した作品であり、実際、本作を見てCG関連の仕事への道を志した者は多かったと思われます。

 そのストーリーはともかくとして、仮想のグリッドシーンを初めて見た時の衝撃はいまだに忘れられません。コンピューターというものの大きな力を感じるとともに、仮想世界という得体の知れないものの怖さを予感させるものでした。

人間として大切な何かを失ってしまった

 当時の技術的限界や、あくまでもコンピューター内の仮想世界を表現するというコンセプトから、ワイヤーフレームなどシンプルなタッチの手法が多く用いられていましたが、コストや納期の都合ですべてをCGで作成することは出来ず、多くのシーンでは手描きのアニメーションが使われていたようです。

 CGのキャラクターや背景と役者などの実写素材との合成は、従来のアナログ光学合成で行われました。コンセプトデザインには、業界では有名なフランスの漫画家ジャン・ジロー・メビウスや、SFドローイングで著名なアメリカの工業デザイナー、シド・ミードも参加しています。

 世界で初めて全面的にCGを導入した映画として評価されるものの、実際にはCG化は始まったばかりの赤ちゃんのようなもので、多くの作業は手作業で行われたのです。しかしその未知なる世界への好奇心と挑戦が名作「トロン」を生んだのだと思います。

 それから30年が経ち、コンピューター技術やインターネットは私たちを底なしの仮想世界へと導きました。実際に何がリアルで何がリアルでないかわからないような時代、そんな時代の中で続編「トロン:レガシー」は公開されたのです。

 「人間として大切な何かを失ってしまった」

 続編を見た印象はそんな感覚でした。私はこの20年あまりハリウッドのSF映画を好意的に受け止めることはできませんでした。あまりにも短絡的な未来像や行き過ぎたCGの効果は、技術が進めば進むほど心地良さを失っていくように感じてきたからです。数年前に「トロン」の続編がつくられていると聞いた時に、こうなるであろうことは予測できていました。

 30年前のオリジナル「トロン」も、その評価は厳しいものでした。「CGからは人間味が感じられない」「テクノロジーと比較してストーリーがない」という声が多かったようです。

 しかしまだ赤ちゃんだったコンピューター技術の未来には、宇宙のような広大な広がりがあり、だからこそ、そのイメージを追い求める表現には、CGでは表しきれないものを補足する手段として多くの手作業が必要であったのだと思います。言い換えれば、そこには純粋なロマンとスピリットがあったのだと思います。そしてコンピューターと人間の関係というものがどうあるべきかという問いかけであったのかもしれません。

 コンピューターと人間の関係。これがオリジナル「トロン」と続編「トロン:レガシー」の違いであると感じました。これはもちろんこの映画に限ったことではありません。そしてCGの技術に限ったことでもないのです。

 我々はこの30年、技術の進化の過程にあった利益至上主義の消費社会の中で、多くの「人間として大切なもの」を失ってきているのだと思います。

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