「英語の公用語化って何?」

本当の危機だからこそ必要だった英語でのコミュニケーション

東日本大震災後になぜ外国人は日本から逃げ出したのか

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2011年4月6日(水)

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 東日本大震災で亡くなられた方に心よりお悔やみを申し上げ、行方不明の方々のご無事と、震災の早期復興を心よりお祈りいたします。

 私のように日本に住んでいない者にも震災後はメールや電話で外国の友人や知人から、日本の家族や友人は無事であったかとひっきりなしに連絡があった。長い間会っていない人からもメールで連絡があるなど、世界中が日本での災害の被災者に心から悲しみ、同情し、心配しているのを感じた。

 友人たちとのメールや会話は日本人に対する賞賛で話が終わる。すべてのものを失うという大変な悲劇に襲われた人たちが取り乱さず、自分たちの運命を受け入れているのが信じられないという。
 テレビでは地震が起きた時に、逃げ出さずに自分の職務を果たそうとした人たちの映像が流れている。このような状態でも道徳的な行動をとることは驚くべきだと報じられている。ほかの先進国ではありえない風景なのだそうだ。米ルイジアナ州を襲ったハリケーン、カトリーナの際に起きたスーパーでの食料品の略奪風景とは対照的である。

 日本人がこのように悲惨な状況の中で「辛抱強く、規律を守って、困難に立ち向かう力の秘訣は何かと?」と多くの人に尋ねられた。経済や政治問題で悩む日本のことを最近『落ち目』と見ていた人たちも、日本人の強さに感銘していた。自分が被害にあっているのに、救助されてお礼とお詫びをいう慎み深い国民性。わずかな食料の配給に列を作って並び、皆で分け合う姿が印象的だったのだろう。

 マレーシア人の元同僚からも、日本人の強さ、美徳は「道徳教育のためか」と聞かれた。今回の震災を受けた日本人の映像は世界中に流れ、テレビドラマ「おしん」のような日本人の忍耐強さ、たくましさが感動を呼んでいる。「仏教徒だから運命を受け入れる」「狭い土地で住んでいるので周りに気をつかって生活している」などの彼らなりに解釈していた。1980年代後半からのバブル期に起きた日本人優秀論の再来のようである。そういう意味では、被災者の方々は世界の道徳的なお手本となっている面もあるようだ。

 しかし、今回の災害を振り返ってみると、震災、原発情報のほとんどが日本語でしか流れていないため、日本にいる多くの外国人が不安に陥っていた。情報不足により海外のマスコミは悲観的なニュースを流した。もちろんNHKなどは英語でも情報を流しているので、日本からの外国人向けの情報はゼロだったわけではない。だが、もし政府が福島第1原子力発電所での事故の発生直後に、いち早く英語で明快な公式説明をきちんとしていれば、在日外国人の「日本脱出」がここまで広がることは避けられたかもしれない。

タイムリーな英語での情報発信は?

 地震、津波、原発事故と重なる危機対応に追われる政府の中で、英語での発信は優先度が低いと考えられたのだろうか。もしくは、日本語での情報発信すら十分でなかったのかもしれないし、重要性は分かっていたけれどそのキャパシティが不足していたのかもしれない。
 しかし、観光立国を標榜し、国際金融センターを目指し、優秀な外国人に安心して日本で仕事をしてもらうためには、緊急時での英語での情報発信は不可欠である。各国の旅行者の立場からすれば英語だけでなく中国語、韓国語、フランス語、スペイン語など多言語で情報を流せば流すほど安心感につながるだろう。様々なNPO(非営利団体)などがそうした活動を地震後に始めたものの、知名度は低かった。

 無意味な混乱を避けるためにも国家危機管理の一部として、重要な情報を政府要人が話す際には、同時通訳だけなく、英語の文書として情報開示することが大切になってくるだろう。今後の危機に備えて日本政府の情報を英語で発信するプロセスをきちっと作り上げてほしい。政府発表の最後に英語の要約をつけてもいい。間違えがあったら大変なことなので、正確な翻訳だけでなく、ニュアンスなどに充分気をつけてコミュニケーションのスペシャリストが編集するぐらいの注意が必要だと思う。

 特に原子力は特殊な知識を要する分野だ。原子力に対する知識の少ない人が翻訳や通訳をすると不正確になり、誤解を招くリスクもある。日本語をある程度理解できる外国人記者でも原子力問題にまでは精通していないだろう。日本政府の発言を正しく海外に届けるためには、自分たちから正式見解を英語で発信するべきである。

 こうしたタイムリーな英語での情報の発信が少なかったことに、在日外人たちは不安を掻き立てられた。彼らを取材した海外のマスコミがそれを書き、その記事がまたパニックを起こして、多くの外国人が日本脱出をはかるという連鎖に陥った。うわさがうわさを呼ぶ最悪の状態になってしまったようだ。

 フェイスブックやTwitterなどにも正しい情報と誤った情報が混在し、友人の「日本をこれから脱出する」という書き込みを読んで、あわてて同じ行動をとった人が多い。誰もが情報発信できる状況では、情報が正しいかどうかを「誰がどのような状況で発信しているか」により推し量ることが大切となる。

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著者プロフィール

河合 江理子(かわい・えりこ)

河合 江理子筑波大学付属高校を卒業後、米ハーバード大学に留学(環境学特別専攻)、フランスの国際経営大学院「INSEAD(インシアード)」でMBA(経営学修士)を取得。パリのマッキンゼー、ロンドンのシティーでファンドマネジャー、ポーランドで民営化に携る。その後、スイスのBIS(国際決済銀行)フランスのOECD(経済協力開発機構)で職員年金基金の運用責任者を経て、現在スイスで資産運用活動に従事。 日本のファミリーオフィスの海外投資戦略、社会貢献活動に対するアドバイスも行っている。



このコラムについて

英語の公用語化って何?

社内の公用語を「英語」とする方針を打ち出す日本企業が続々と登場している。これに賛否両論が渦巻く。グローバルでの取り組みを考えて「言語を同じにしなければならない」という主張がある一方で、「正確なコミュニケーションができないのではないか」「仕事よりも英語ができる人材が評価されるのではないか」という意見も出てきている。英語の公用語化をどう考えればいいのか。そもそもは英語が必ずしも公用語ではない地域であるフランスやスイスといった欧州で働くビジネスパースンの経験から、英語との上手な付き合い方を学ぶ。

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