「時事深層」

日本を揺らす科学研究危機

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2011年4月26日(火)

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東日本大震災は東北や関東の研究施設にも大きな爪痕を残した。茨城県つくば市などの研究施設では復旧に数年かかる設備もある。震災が招いた科学研究の停滞は、日本の国力低下をも招きかねない。

 日本の科学研究が危機にある。

 東日本大震災の発生から1カ月半が過ぎた。被災地の復旧が少しずつ進む一方、ようやく深刻な被害が明らかになってきたものもある。その1つが科学研究分野の損失だ。

東北大学 井上明久 総長
【東北大学の概要】
学生数:1万8225人
科学研究費補助金(2010年度):91億円
ノーベル賞受賞の関係者:田中耕一氏(2002年、化学賞)
主な研究施設:金属材料研究所・電気通信研究所

 「もう研究ができないほどの壊滅的な被害を受けたという印象を持たれては困るが、大きな支障が生じているのは事実だ」。東北大学の井上明久総長は言葉を選びながら、こう切り出した。

 震源地に近い東北大では、工学部や理学部のある青葉山キャンパスが特に大きな揺れに襲われた。一部の施設は足の踏み場もないほどのあり様だ。28棟は建て替えが必要で、改修も含めた建物の復旧に440億円がかかる。物質の原子配列を見る電子顕微鏡など、1台60万円を超える高額機器の損害は全部で約330億円。60万円を下回るパソコンやビーカー、試薬などの損害はいまだ把握できないほどだ。

 東北大が受けた被害の一端を聞いた経済産業省幹部は、「あまり注目されていないが、とてつもなく大きな損失のような気がしてならない」と語る。

高エネルギー加速器研究機構では装置への電源供給施設の床が抜け(左)、電子が通る金属管が壊れた(右上)。東北大では高価な機器が軒並み倒れた(右下)
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 懸念は大げさではない。東北大が金属材料研究所を置いて力を入れる材料研究。米調査会社のトムソン・ロイターが4月13日に発表した研究機関の論文引用ランキングで東北大は世界3位となり、大阪大学(12位)や東京大学(19位)を押さえて日本勢でトップだった。世界の評価で東大を上回る研究機関が、大きな損害を受けているのだ。

 データがなくなり、実験を初めからやり直さなければならないといった事例もこれから出てくるだろう。「復旧と言っても、失った時間は取り戻せない」と井上総長は事態の深刻さを表現する。

 茨城県つくば市に集まる公的研究機関の被害も深刻だ。

「はやぶさ」の研究できず

 「今秋には宇宙から持ち帰った微粒子の解析を再開したいのだが…」

 7年に及ぶ宇宙の旅を終えて2010年6月に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」。はやぶさが持ち帰った微粒子から太陽系誕生の謎を探ろうと、今年1月から解析を始めたつくば市の大学共同利用機関法人、高エネルギー加速器研究機構が被害を受けた。2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠氏、益川敏英氏の研究にも貢献した世界的な研究機関だが、下村理・理事によると、震災から1カ月が過ぎても解析再開のメドは立たない。

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著者プロフィール

加藤 修平(かとう・しゅうへい)

日経ビジネス記者。日本経済新聞社に入社後、大阪経済部、東京産業部、東京経済部を経て2009年4月より日経ビジネス記者。

伊藤 正倫(いとう・まさのり)

日経ビジネス記者。



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