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武田鉄矢、「当たる要素ゼロ」の映画を語る(動画あり)

超ローカル映画が、奇跡のロングランを続ける理由

2011年6月10日(金)

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 映画館で上映しない。

 そんな映画が、すでに2年間で300回にも及ぶ上映を続けている。広告宣伝は一切打たない。「うちの町で上映してほしい」。そんな人がいると、町の集会場などに映画を持って出かける。そして話題が人づてに広まって、今では上映依頼が殺到している。今後の上映が決まっている場所が約30地域あり、6月は兵庫県神戸市(18日)、愛知県安城市(19日)、千葉県柏市(28日)で上映会が組まれている。その他に約100地域が手を上げている。

ノーギャラで舞台に上がる理由

 タイトルは「降りてゆく生き方」。主演の武田鉄矢は、1979年にテレビドラマの金八先生役に抜擢され、俳優として脚光を浴びた。スター街道を歩んできた武田が、2007年、この小さな映画の主演を引き受けた。

 「私はシノプシス(あらすじ)に目を通してから、出演を引き受けるかどうか決めるんですけど、この映画のシノプシスを見た時に、はっきり分かったことは、『当たる要素が全くない』ということでした」

 武田はそう振り返る。これは作り話のジョークではない。

 「この映画はハリーポッターの真逆でして、当たる要素が全くない。そんな映画に、むやみに張り切っている人たちというのがいて、それが非常に奇特で変わり者に見えまして…。そんな変わり者と1本やってみるか、と」

 武田は2周年記念の上映会で壇上に上がり、トークや司会を続けた。その日、まる1日使ってステージをこなしたが、ノーギャラである。

 これまでも、全てそうだった。映画を作成した時の出演料だけで、その後はカネが入ってくるわけではない。それでも、節目となる上映会に足を運び、絶妙なトークで集まった人々を引きつける。

 武田をはじめ、出演者や制作者たちはこの映画に強い思い入れを持っている。その理由は、映画のコンセプトと、そのベースとなっている実在する人々の物語だった。この映画は2005年のプロジェクト開始以降、プロデューサー陣が2年間かけて日本各地で300人もの人々にインタビューしている。そして、地方で輝く人々に心を動かされ、「効率化」や「弱肉強食」に対するアンチテーゼを描いている。

 「降りてゆく生き方」。タイトルに象徴されるコンセプトを聞いて、武田はこう感じたという。

 「私も金八先生でトップに上がった。でも、頂上って行ってみると結構、寂しいんですよね」

 しかし、人生も登山も降りていく時に、様々なものが見えてくるという。上を目指してがむしゃらにもがいている時には見えない景色が、降りるときに眼前に広がる。

 「競争社会の限界」とも言い換えられる。そして、日本を見渡せば、地方では「未来」を感じさせる「降りてゆく生き方」が実践されている。

 「ストーリーを作るにあたって、参考にしている人たちは当たっているなと思ったんですね」。節目の上映会には、そうした地方の人々が集結する。武田は、彼らと話すことを楽しみにしている。青森県で無農薬のリンゴを作る木村秋則、千葉県で自然作物と伝統製法で酒を造る寺田啓佐、北海道で精神障害者を集めて事業を続ける向谷地生良…。

 そこで、上映会の日、武田鉄矢に映画に対する思い、そしてこの特異な映画がロングランを続けている背景にある「社会の変化」について聞いた。

―― 今日も武田さん、ノーギャラですよね。なぜ、俳優として上りつめた武田さんが、「当たらない」と分かっていた映画に出演しようと思ったんですか。

武田 タイトルとコンセプトに引きつけられるものがあったんですよね。ただ、やっぱり難しいですよね、エンタテイメントを欲して騒いでいる世の中では。CG(コンピューター・グラフィクス)が映画に不可能をなくしたわけです。思い通りに妖怪や怪獣を作ることができる時代です。それから、人間を万単位で殺すシーンが、一瞬で作れるわけですよ。そうやって作ったものを柱に物語を作るのが、グローバルな映画作りの流れです。

 ところが、これはグローバルと真反対の、「ローカリズムの象徴」みたいな作り方と内容でしょう。真逆に走ったわけです。

 でも、この間の地震でもそうだけど、つくづく考えるのは、私は個人として「降りてゆく生き方」という言葉そのものに、少し胸に響くものがある。それは人に強要することじゃないし、共感を求めるものでもないと思ってたんです。だけど、こうして共感して下さる人がいる。これは最初に計算していた浮力ではないんです。なんか、見た人の浮力みたいなものが、映画に加わって、今、力となっているんじゃないかな。

 これは自分の力じゃなくて、やっぱり映画を見た人の感性ですよね。もしかしたら、グローバリズムというのが限界にきてしまって、ローカリズムっていうのが、あろうことか日本を浮上させるかもしれないという状況が出てきた。

 だって、東京には巨大なメディアがいっぱいあるのに、ニューヨークが注目した新聞が石巻日日新聞ですからね。「そこにジャーナリズムのスピリッツがある」ってアメリカが評価しているという。

 何か、すごく大きな流れの転換点にきている。そして、この小さな映画が嵐にも風にも波にもさらわれず、まだ垂直に立って居る。この奇跡を今、見ているような気がしているんですよね。

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「武田鉄矢、「当たる要素ゼロ」の映画を語る(動画あり)」の著者

金田 信一郎

金田 信一郎(かねだ・しんいちろう)

日経ビジネス編集委員

日経ビジネス記者、ニューヨーク特派員、日経ビジネス副編集長、日本経済新聞編集委員を経て、2017年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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