• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

武田鉄矢、「当たる要素ゼロ」の映画を語る(動画あり)

超ローカル映画が、奇跡のロングランを続ける理由

2011年6月10日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

「嘘からしか『まこと』は出てこない」

 さっきの原子力の話もそうですけど、やっぱりね安全神話と暗黒神話、両方とも神話なんですよ。その神話のなれの果てが、小学校で行われている「放射能浴びた子、あっちに行け」でしょ。それは原発反対派の人たちの神話の行き過ぎですよね。だから、やっぱり彼らが言う「排除しない」、「共生していく」。で、すごみがあるのは、彼らは「共生」を謳うんですけど、でも「共死」も引き受けようと。共に生きるっていうことは、共に死ぬっていう覚悟も必要だっていう論者なんですよね。それが、3・11の時にばーっと日本の中に発酵したんじゃないかな。

 つまり、ものすごく儲かってらっしゃる方が、ドカーンと義援金出されましたよね。あの人たち投げたんですね、「経済ゲーム」を。やっぱりね、こんな目にあってるのに、儲けて何が楽しいっていうね、そこですよね。アメリカの学生が驚いてた。「水を買いだめに走る人、当然じゃないか。そんな人がいるのはアメリカでは当然なんだ」と。「日本の最大の謎は、その水の値段がなぜ値上がりしないんだ」と。アメリカっていうのは、なんかある度に、全部値上がりしているんですよね。値上げしてまで儲けようという人が、あの瞬間、登場しなかったんですよね。もちろん、ガソリンの闇とかあったかもしれませんよ。でも、大手のメーカーが、これを機に値上げしてモノを売ろうっていう所は1つもなかった。

 つまり、あの瞬間に、経済というモノの見方がね、なんか「出し抜くんじゃないんだ」っていうね。「一緒に笑わない限り、経済っていうのは上に登っていかない。楽しくない」っていう、それが実感として露出してきたっていうことじゃないかなと思いますね。

 いっぱい驚くことがありましたよね。なんだか便利だかどうか分からない家電製品ばかり甲高い声で売っているおじさんが、「儲けなんかいらない」なんてことを言い出したでしょ。あれショックでしたよね。僕がキャラクターになっている麺の会社なんかも、必死だったみたいですね。品切れを起こさないように。ものすごく努力しているんですよね。

―― それはこれまでの経済原理ではないですよね。

武田 いやあ、違う原理ですよね。

―― それが本当のこれからの企業の在り方、企業という言い方が続くのかどうかも分からないですけど、組織として人が何かを1つの目的で集まる時に、やはりそういう発想が根底にないと続かない。

武田 そうですよね。なんかこう、みんなが一瞬のうちに身もだえするばかりに叫んだ「役に立ちたいんです」ていうのと、「優しいことがしたいんです」っていう、なんか子供の雄叫びのような、それっていうのは、実はものすごく大きな経済原理だったんじゃないかっていう気がするんですよね。

―― 今、武田さんの話を聞いていて、今回、うちでも多くの震災原稿を出したんですけど、「これはすごいな」と思った話があって。アメリカの人って義援金はくれるけど、それで終わりかなと思ってました。でも今、全米各地で、日本人のために千羽鶴を折っているんですって。なぜかっていうとサダコっていう、広島の原爆で亡くなった佐々木禎子さんの物語を、実はアメリカ人は小学生の副読本として読んでいると。それで、原爆によって白血病で亡くなるサダコに、友だちが鶴を折って救おうとする物語を知っている。

 アメリカ人にとっては複雑ですよね。自分たちが原爆を落として、それであの物語が生まれている。でも、この瞬間、日本が大変だと知った時、小学生から大学生、大人までが黙々と鶴を折る。これが何かの支えになるんじゃないかという。アメリカ人が鶴を折って、それがものすごい数になっている。あ、そういう日本人のいい部分が時間を超えて通じたのかな、と。

武田 やっぱりファンタジーなんですよ。

―― そうですね。

武田 おとぎ話の言葉なんですよ。

―― それが通じるんですね。

武田 それが力を持つんですよ。「嘘から出たまこと」っていう言葉がありますけど、嘘からしか「まこと」は出てこないんですよ。「まこと」ばっかり言う人って疲れるんですよ(笑)。

 そうでしょう。どんなに原子力の線量とか汚染度を正直に言ったところで、やっぱり記者さんは全員、「まだ隠している」って言い続ける。つまり、「まこと」っていうのは、それぐらい耳に入ってこない言葉の塊なんですよ。でも嘘って入ってくるんですよ。

 だから、やっぱり「降りてゆく生き方」の映画そのものがね、見事な嘘なんですよ。これは嘘ですという切り口で始まっているから、見ているお客さんが、「まこと」を探して下さるんですよね。これは僕の発想じゃなくて、養老(孟司・東京大学名誉教授)先生っていう脳の学者先生がおっしゃった言葉でね、「人間はね、嘘って書いてある本しか開かないんです」って。最初から「真実」って書いてある本は絶対に開かないんですって。そんなのすぐ退屈しちゃうから。だから、嘘が書いてある本を人間は読みたがる。

 だから、映画で私(の役柄)はペテン師だったんですよ。だって架空の町「青空市」って、名前からして「嘘です」って言ってる。俺の主人公の名前(川本五十六)にしたって、いないだろうってね。

 でも、あの男の戸惑いって、それですよね、嘘八百ついていくんですよね。それが、村の人たちに真実としてすっと吸い寄せられてゆくと、彼が狼狽するでしょ。「いけねえ、馴染んじゃってる」っていうね。

 それから、この映画を振り返って時々思ったんだけど、苅谷(俊介・俳優)さんが無農薬農家の役として出てくるでしょ。それで、彼が「俺の田んぼを見ろ」と言う。「肥料も農薬も使わない、電気も何にも使わない。だから、俺の田んぼの作り方は永遠不変だ」「限界集落にしか未来への明るい道はないんだよ」と。あの時、「この台詞、リアリティーねえな」って思ったよ。だって電気使わない農業の人なんているわけないだろう、って。

 ところがね、3・11以降、苅谷さんの台詞が、急に頭の中ででかくなってきちゃってね。つまりね、苅谷さんが演じた役(二宮常一)も嘘から出た人物像なんだけど、この3・11以降の世界の中で、彼(二宮常一)のみがリアリティーを持っているんですよ。つまり、彼(二宮常一)だけが、この世界で、全く動揺してないんですよ。たぶん囲炉裏に枯れ木か何かくべながら、明日も田んぼにいくであろう彼は、何一つ作業を変えなくていい訳ですよね。あれも完璧に嘘で作った人だけど、ある真実味を持って迫ってくるんですよね。

 つまり、彼の言っていた通りだったなっていうね。だからこの映画の最後に、捨て台詞で、「これから先は水が儲かる」って出てくる。まさか、こんなに早く当たるとは思わなかったな。現実に、異国の資本が日本の水を狙っている。で、今度の放射能問題があって、その資本がばーっと逃げていると思うんだけど、莫大なお金だよね。でも、逆に言うと、彼らには信じられるファンタジーが全くないんだね。だから、私たちはそこでファンタジーの言葉を編み出していく。映画も含めて、今こそ、ファンタジーの言葉が必要で、やっぱり岩手県を励ます作家がいるとすれば、宮沢賢治しかいないよね。宮沢賢治の童話の中には、今度の震災を乗り切れるだけの力強い言葉が、もう全て用意されているんですよ。実際に、あの中で、「雨ニモマケズ」を朗読するわけでしょう。あれしかないですよね。

―― すごい映画でしたね。

武田 やっぱり俺たちがのびのびと嘘をついたせいだろうね(笑)。嘘っていうのは金儲けを目指すと苦しくなっちゃうんだよ。つく嘘も限られてくるから。

 宗教の言葉はファンタジーじゃないですか。そこから人間は「まこと」を引っぱり出していくんだよ。1行目から「本当のことです」って書いてあるのは、原子力安全委員会とかそういうところが出すあれで(笑)。だってもう、読まないもん。

―― しかも、そっちの方が嘘だと思いますよね。

武田 そうそう。やってもやっても嘘っぽい。だって1文字間違えただけでも、えらい騒ぎになるわけでしょ。「本当しか書いてない」ということになっているから。

―― そう考えると、やっぱりこの映画のテーマは深い。

武田 ありがとうございます。

※映画「降りてゆく生き方」の上映情報はこちら

動画へのリンク
画像をクリックすると動画をご覧いただけます。(WMV形式)
早坂 潔
(はやさか・きよし)

精神障害者の活動拠点「べてるの家」のメンバーで、昆布事業を立ち上げた功労者。だが重度の解離性障害のため、作業が3分しかもたなかった。30年ほどべてるで過ごし、ユニークな人柄から「ミスターべてる」と呼ばれる。
寺田 啓佐
(てらだ・けいすけ)

自然酒蔵元「寺田本家」23代目当主。300年続く千葉県の造り酒屋に婿入りするが、1985年に破綻寸前となり、自然酒作りに転向。無農薬で伝統的な酒造りによって、人気酒蔵に飛躍する。
向谷地 生良
(むかいやち・いくよし)

ソーシャルワーカー。浦河赤十字病院精神科医の川村敏明とともに、べてるの家の活動を支えてきたことで知られ、精神障害を持つ人同士が病気の解決法を話し合う「当事者研究」を実践した第一人者。著書に『安心して絶望できる人生』(NHK出版)他。
■変更履歴
本文中で「刈谷」は「苅谷」の誤りでした。お詫びして訂正いたします [2011/06/10 13:59]

コメント10

「ニュースを斬る」のバックナンバー

一覧

「武田鉄矢、「当たる要素ゼロ」の映画を語る(動画あり)」の著者

金田 信一郎

金田 信一郎(かねだ・しんいちろう)

日経ビジネス編集委員

日経ビジネス記者、ニューヨーク特派員、日経ビジネス副編集長、日本経済新聞編集委員を経て、2017年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

企業や官公庁の幹部のメールボックスの内容が、まるごと数十万〜数百万円で売られている事例もある。

名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官