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日立・三菱重工の「英断」は成果を出せるか?

統合を巡る3つの疑問と提言

2011年8月9日(火)

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 8月4日に報道された日立製作所と三菱重工業の統合に関して、市場もマスコミもおおむね好感をもって受け止めているようである。両社の強みを持ち寄ることで、発電や環境など、今後新興国を中心に大きな成長が想定される社会的なインフラ事業で一段の競争力強化が可能であると、当日の株価はそれぞれ1.7%、3.4%上昇した。日本経済新聞は翌日の社説でも取り上げ、こうした中核事業の再編を通じて「産業再興の一歩に」と、他企業もこれに続くことへの期待を表明している。

 海外のマスコミも同様な評価はするものの、今後の見通しに対してははるかに辛口である。米ウォールストリートジャーナル紙は複数の記事で日本企業の合併は「厄介」(awkward)であるとし、その理由として「それぞれが持つ強い企業文化の融合」「(たすき掛け人事に象徴される)シナジー発揮に思い切った手を打てない」ことなどを指摘している。

 個人的な見解では、戦略としては極めてまっとうなものであると思うし、市場のポジティブな期待も当然だと思う。失礼を顧みずに言えば、「当たり前のこと」であり、もっと早くそうした決断ができなかったのかとすら思うが、実際インフラ部門の統合、あるいは合弁会社作りに関しては過去から検討されてきたという報道もあり、何はともあれその「英断」には敬意を表したい。

 しかし、いずれにせよ統合という戦略自体は特段すごいことではない。やはり問題はその実行であり、成果を上げることである。2007年からの金融危機を乗り切った米JPモルガン・チェースのジェームス・ディーモンCEO(最高経営責任者)が「ありきたりの戦略をきっちり実行する方が、素晴らしい戦略を立てて実行につまずくよりもはるかに意味がある」と発言したのは、2002年のことであったことは記憶されてよいと思う。

3つの疑問:実はリスクが大きい補完シナジー狙いの統合

 限られた報道と個人の知識をベースに、実行という面からから見てみると、今回の統合についてはいくつか気になる点がある。まず1つ目は「補完」「重複がない」という点が、ポジティブに強調されすぎている。確かに、シナジーという面では「補完」的であることは有利であるが、逆に言えば取り組んできた事業が「違う」ということである。メガバンクのように「同じ」事業を統合することでさえ、あれだけ苦労しているのである。「違う」事業をシナジーが生まれるように統合することは容易ではない。

 今回の統合以上に世界を騒がせた米タイムワーナーと米AOL、独ダイムラーと米クライスラーの統合を思い出していただければよいと思う。いずれも「完璧な補完関係」であると報じられ、前者に対しては「もはやこの企業に対抗するにはディズニーとマイクロソフトが合併するしかない」という記事もあったし、後者に関しては「年間に30億ドルのプラス効果(注:合併時の純利益の総額は46億ドル)」「ホンダ、BMWはどこかと合併しないと生き残れない」と大々的に報道された。10年後にどうなったかは読者もよくご存じの通りである。その意味で、「補完」によるシナジーを狙った統合とはリスクも極めて大きい。

 2つ目は、2社とも「ヒトを大切にする」という日本的な経営文化が強いことである。資格ではなく場によって集団を構成し、その「場」を別の「場」と区別するために「同じグループ成員という情的な結びつきを持たせる」ことが日本の組織の特徴である。社会人類学者の中根千枝氏(東京大学名誉教授)が著書『タテ社会の人間関係』(講談社現代新書)でこう指摘されたのは40年以上前のことである。その特徴は、国際化が進んだと言われながらもそれほど大きく変わっているとは思われない。

 むしろ「能力主義人事制度」が一世を風靡し、様々な批判を受けてもう一度日本的な「現場力」「企業文化」が見直される中で、「同じグループ成員という情的な結びつき」、つまり企業文化とかプライドとかというものはより重視されているのではないかとすら思われる。そうした2つのタテ社会をどのような基準で統合していくのであろうか?

 米国型の評価主義をそのまま取り入れろと言うつもりは全くない。しかし、多くの日本企業は国際化に伴って否応なしに突き付けられた「能力主義」という宿題を、「文化に合わない」「役に立たない」などという理由で真剣に取り組まなかったり、あるいは葬り去ってしまった。その結果、企業と企業をつなぐ客観的な基準作りの機会をうまく生かし、日本型経営を進化させることができなかったように思われる。

 最後に、子会社の多さも気になる。日本を代表する大企業だからというのは確かであるが、日立が913社、三菱重工が317社の連結子会社を持つという。こうした数の子会社群が統合という中でどうなるのか、気が遠くなりそうである。

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「日立・三菱重工の「英断」は成果を出せるか?」の著者

清水 勝彦

清水 勝彦(しみず・かつひこ)

慶應義塾大学大学院教授

東京大学法学部卒業。ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)、テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D)。戦略系コンサルティング会社のコーポレィトディレクションを経て研究者に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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