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ワードウォッチングで探る「ジョブズの思想」(後編)

ファンもアンチも無視できない存在

2011年11月1日(火)

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 前編に引き続き、ジョブズの足跡を「ワードウォッチング」で振り返ってみましょう。後編は「アップルが既存市場に切り込むためにどんな言葉を使ったのか?」「アップルが時折持ち出す“hello”という言葉にはどういう意味があるのか?」「Stay hungry, stay foolishの“foolish”とは何を意味するのか?」などについて分析します。

買い換え需要に切り込んだMac mini

 今でこそアップルは「追われる立場」と認識されています。でも同社の歴史のほとんどは、「追う立場」でした。例えば、コンピューターと言えば業務用の大型機が当たり前だった時代に個人向けコンピューターのApple IIを販売した時。IBM互換PCが隆盛だった時代に、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)がウリのMacintoshを販売した時。さらにはウィンテル体制(インテルのプロセッサとマイクロソフトの基本ソフトの組み合わせ)の時代にiMacを販売した時。いずれの場面でも、アップルは「追う立場」でした。

 「追う立場」であるということは、既存市場に食い込む「戦略」が必要になります。アップルが実際に採用した戦略の中には「ジョブズやアップルの哲学には相いれない戦略」も存在したのではないか、と筆者は見ています。

 例えば2005年に発売したMac miniがその一つ。縦横のサイズがCDケースよりやや大きく、厚さが数センチという小型デスクトップパソコンです。ちなみに「mini」という名前は、当時の人気音楽プレーヤーであったiPod miniから引き継いだものでした。実際、ジョブズ氏は製品発表の場で、Mac miniとiPod miniの大きさを比べる写真を見せています。

 この製品が狙った市場は、すでにパソコンを持っている利用者の「買い換え需要」もしくは「2台目需要」でした。ところが当時のアップルには、この市場を狙うのに適切な商品ラインが存在しませんでした。

 例えばウィンドウズが稼働するデスクトップ機を持っている人にとって、手持ちの周辺機器(キーボードやディプレイなど)を捨てて一体型機のiMacを購入することは、消費者心理として抵抗があります。また手持ちの周辺機器を生かしてMacintoshの本体のみを購入する場合、同機の定価は20万円以上だったので、これも敷居の高い選択肢でした。アップルは当時、Power Mac G5というプロ仕様のデスクトップ機(現在のMac Proに相当する製品ライン)しか持っていませんでした。

 そこでMac miniは「周辺機器を既に持っている人が気軽にMac環境を利用できる」商品づくりを志向しました。例えばMac miniはディスプレイ、キーボード、マウスを標準装備していません。これは利用者が既に所有している周辺機器を流用できるようにするための措置です。また定価も6万円弱からと安価に抑えました。

 前編で示した通り、非一体型の製品はアップルにとって「主流」ではありません。しかしながら「追う立場」として市場に挑戦するには、一体型ではない製品づくりも必要だったのでしょう。

切り込みの合言葉は「BYODKM」

 さてスティーブ・ジョブズはMac miniを紹介するプレゼンテーションにおいて「この製品はBYODKMです。意味は分かりますか?」という謎の発言をしました。そして「BYODKMとは、bring your own display, keyboard, and mouse(手持ちの周辺機器を使ってください)という意味です」と続けて、その場にいた聴衆を笑わせました。

 英語に詳しい人の中には、元ネタを知っている人がいるかもしれません。おそらくBYODKMの元ネタは、BYO(またはBYOB)という略語だと思われます。これはbring your own(bottle)の略で「お酒の持ち込みOKです」を意味します。オーストラリアやニュージーランドの一部レストランが、客による酒(ワイン)の持ち込みを許可する場合に、広告や看板などにBYOと記すことがあるのです(少額ながら持ち込み料金は発生する)。この習慣の背景には、酒類販売のライセンスを取得することが困難な現地事情があるようです。

 広大な市場に切り込むために戦略が必要になる構造は、BYOもBYODKMも一緒だと言えます。酒の販売ライセンスを持たないレストランが酒好きの人を取り込むにはBYOが必要ですし、アップルが他社機の利用者を取り込むにはBYODKMが必要だったのです。ジョブズの戦略の中には、このBYODKMのような「追う立場」としての泥臭さも存在しました。

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「ワードウォッチングで探る「ジョブズの思想」(後編)」の著者

もり ひろし

もり ひろし(もり・ひろし)

新語ウォッチャー(フリーライター)

CSK総合研究所を経て、1998年から新語専門のフリーライターに。辞書・雑誌・新聞・ウェブサイトなどに原稿を提供中。2009年より『現代用語の基礎知識』(自由国民社)で「流行現象」のコーナーを担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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