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「暗黙の債務」の推計から議論を始めよ

年金支給年齢引上げで衝撃広がる

2011年11月2日(水)

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 厚労省が2011年10月中旬に打ち出した「年金支給年齢引上げ」案について衝撃が広がっている。支給開始年齢は、1994年や2000年の法改正により、「3年ごとに1歳引き上げる」ペースで最終的に65歳まで引き上げることが決まっていた。しかし、厚労省は「急速に進む少子高齢化に対応し、年金財政の持続可能性を高めるには、支給開始年齢のさらなる引き上げが必要」と判断した。

 具体的には、以下の3つの案を提示した。(1)引き上げペース加速案(「2年ごとに1歳引き上げる」ペースで65歳まで、(2)支給開始年齢引き上げ案(「3年ごとに1歳引き上げる」ペースで68歳まで)、(3)両案の合成案(「2年ごとに1歳引き上げる」ペースで68歳から70歳まで)の3案である。

 今回の支給開始年齢引き上げ案について、メディアなどの報道を見る限り、退職間近の世代を中心に厚労省批判が高まっている。だが、支給開始年齢は若い世代ほど遅くなるから、多くの損失を被るのはむしろ今の若い世代である、という視点が重要である。つまり厚労省は、世代間の公平性を勘案していない。

 年金制度を改革するに当たって重要な視点は、年金財政の持続可能性のみでなく、世代間の公平性である。この両者を達成するために、まず、今の年金が抱える「暗黙の債務」を明らかにするべきだ。そのうえで、この暗黙の債務について将来世代を含む各世代でどう負担していくのか、方法を議論するのが望ましい。

 年金改革の議論は、今の福島原発に対する東電賠償問題と似ている。賠償を負担するのは、まず東電である。だが、現行の収益や資産売却で賠償を賄いきれない場合、その株主や債権者、あるいは、(電気料金引き上げで)電力需要者、(公的資金注入で)納税者が負担するケースも考えられる。しかし、こういったプレイヤーが最終的にいくら負担するのが望ましいのかについて議論するためには、賠償金額を推計し、東電の債務超過額を把握する必要がある。そうでないと、いつの間にか納税者が過重な負担を強いられる、というケースが発生しかねない。

政府のバランスシートを見てみよう

 暗黙の債務を議論する際の出発点となるのは、年金のバランスシートである。今、政府は、一般政府(国・地方+社会保障基金)のバランスシート(以下「政府BS」という)を公表している。ただし、その中では、公的年金の給付債務と資産の一部を記載しているにすぎない(注:内閣府「平成23年 年次経済財政報告」第1章第3節)。経済学的な視点では、日本の公的年金は対GDPで約150%もの「暗黙の債務」を抱えているとの試算がある。債務の一部しか計上しないと、公的年金が抱える債務を過小評価してしまうリスクがある。

 他方、先進国では通常、公会計ベースで、政府BSとは別に、年金会計のバランスシートを作成し、公的年金の給付債務と資産の全部を公表している。例えば、アメリカの連邦財務諸表(Financial Statementsの項)では、政府BSとは別に、社会保険報告書(SOSI:Statement of Social Insurance)を公表している。アメリカは、社会保険報告書は、政府BSと並んで連邦財務諸表における基本財務諸表の一つに位置づけており、この中で年金のバランスシートを公表しているのである。

 「暗黙の債務」は「積立方式であれば存在していた積立金と、実際の積立金との差額」として定義する(関連記事「世代間格差は事前積立の導入で解決できる」)。詳しい説明は、拙書「2020年、日本が破綻する日」(日経プレミアシリーズ)をお読みいただきたい。

 公的年金において、政府は、保険料の拠出に応じて年金を支給する義務、すなわち「給付債務」を持つ。その際、「積立方式であれば存在していた積立金」とは、下記の図表1の給付債務のうち、いわゆる「過去債務」(現時点の年金受給者に対する給付額と、将来の年金受給者に対して、現時点までの年金加入期間に対応して支払う給付額を現在価値に割り引いた額の合計)に相当する。そして、定義から、図表1左側の過去債務と積立金(1)の差が「暗黙の債務」に対応する。

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「「暗黙の債務」の推計から議論を始めよ」の著者

小黒 一正

小黒 一正(おぐろ・かずまさ)

法政大学経済学部教授

1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。専門は公共経済学。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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