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狙いは中国! TPPに引き込め!

国際政治のパワーバランスから見てみよう

2011年11月17日(木)

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 日本では、いまだにTPPで騒いでいる。私自身、とても驚いている。

ただ、米国内でもTPPの重要性はここにきて少しずつ上がっている。それは、退任間近と言われる、ヒラリークリントン国務長官の花道としてである。通常、貿易は、USTR(米通商代表部)や商務省の所管だ。それが国務省マターになっているというのはどういうことか? 米政府内では、今やTPPは、完全に外交安全保障政策として扱われているのだ。

 今回はTPPの背後にある国際政治上のパワーバランスと安全保障上の意味合い、そして日本の交渉力について書く。結論から言えば、TPPはアメリカの対中戦略の一環でもある。そして、日本は、米国に対して史上最大級の交渉力を持っており、アメリカに大いに物申すチャンスである。

TPPってトイレット・ペーパー・パーティー?

 日本でのTPP騒ぎに驚き、米国に住む日本人の知人に伝えたところ、彼女が米国人の配偶者に「TPPって何か知っている?」と尋ねた。彼は「トイレット・ペーパー・パーティーのこと?」と答えたそうだ。このカップルは相当高い教育を受けた、情報に敏感なアッパークラスである。それでもTPPに対する米国人の認識はこの程度なのだ。米国人がこれだけ知らない政策に、米政府が力を入れているわけがない。

 報道の優先順位は、政府がそれぞれの政策に与える重要度を暗示している。海外メディアでは、本社から注目されることの少ない東京支局の記者たちが、TPP大騒ぎに関する原稿を本社に送り続けている。だが、世界ではもっと大きなニュースが連続している。よって、TPPの記事は、国際面の片隅で小さく扱われるのがせいぜいだ。国民の関心と認知は、報道の優先順位に影響される。

 日本は「TPPはアメリカの陰謀」とか「日本には交渉力がない」とか被害妄想から来る思い込みから脱する必要がある。ワシントンにいるアメリカ政府関係者やシンクタンクの連中に聞くと、「日本が被害妄想に陥っていることに驚いている。日本を狙う打ちなんかするわけないのに」と戸惑いを隠さない。恐怖をあおるばかりで、建設的な代替案を何ら持たない悪質評論家に左右されてはならない。

 政府は血税で賄われている。自国の国益のために国際交渉をリードするのは、どの国でも当然のことだ。その点だけをことさらに強調して、陰謀よばわりするのは大人気ないと思う。また、逆提案や撤退が許されない国際交渉などあるはずがない。そんな当たり前過ぎることを、交渉に参加する前から「できる」「できない」と大騒ぎするほうが国益を損ねる。

 外交交渉は、手の内を明かさないのが鉄則だ。逆提案の内容や撤退について、政府の代表が明言できるはずがない。世界で最も常識的で民度の高い日本人が、少なくともメディアの報道の中では、自国の国益を損ねかねない議論をしている。これが知れると世界中から驚かれるだろう。不幸中の幸いというか、皮肉なことにTPPは、米国では日本国内ほどにニュースになっていないが。

リー・クワン・ユーの憂鬱と米国の利益

 アメリカにおける数少ないTPP専門家に聞くと「そもそもTPPの発端は、シンガポールのリー・クワン・ユー前顧問相である」と漏らしてくれた。

 敬愛するリー氏とは毎年1回、直接お会いして話を伺う機会を頂いている。彼は会うたびに「日本がもっとしっかりしてくれないと、アジアは中国に席巻されてしまう。頼むよ」と冗談まじりに繰り返す。

 リー氏は中国でも絶大な人気だ。中国国内にいくつもの“シンガポール”をつくろうとしている中国政府や地方政府の関係者に呼ばれて、中国で政策の講義をしている。リー氏によれば、行くたびにその真摯な姿勢と改革のスピードに驚嘆するという。同氏は「このままでは中国が共産党支配体制の下で進める国家資本主義が、アジアのスタンダードになりかねない」と思っている

 アジアの貿易のハブとして継続した発展を目指すシンガポールは、アジア全体のバランスを常に考えている。ある1国がルールや基準を独占することを極端に恐れる。さらに、中国の国家資本主義的なルール(国営企業の腐敗、知的所有権の無視など)がアジアを席巻するようでは都合が悪い。

 リー氏は最近、お会いするたびに「中国の継続的な発展は重要で不可欠だ。しかし、中国に対するカウンターバランスが必要だ。中国の経済や企業をもっとオープンでフェアな方向に導く力がアジア太平洋に今こそ必要だ」と声高に叫んでいる、

 アメリカ政府関係者によると、ブッシュ政権が着手したTPPの元々のアイデアは、リー氏の「アメリカが、中国に対するカウンターバランスになれる唯一の存在だ。貿易のルールづくりを一緒にやろう」との提言から始まったという。「中国囲い込み」というより、「流れをつくって中国も引き込んでいこう」と考えている

 今回のAPECにおいて、カナダとメキシコもTPP交渉への参加を決定した。日本も加えれば、これで世界経済の4割(GDP換算)が参加する枠組みになる。輸出金額がGDPの25%に達するほどの貿易立国・中国は、TPPに加わらないと交易条件が悪化して、厳しい立場に陥る。実際、中国政府は「TPPには入らない」と公式に宣言しているわけではない。

 アメリカにとって今後、中東、中南米にも増してアジアの重要性が高まっていくのは間違いない。その中で経済面でも、政治・安全保障面でもカギを握るのが中国だ。対中国政策はアメリカ政府にとってトップ3に入る懸案事項だ。サイバーテロ、台湾海峡、北朝鮮などの安全保障事案に加えて、人民元為替管理、知的所有権保護、国営企業の商慣行などの経済問題もアジェンダに入っている。これら中国独自の経済慣行をよりフェアでオープンなものに改めさせる場をアジア太平洋につくろうというのがTPPの戦略的意図である。

 リー氏の懸念と提言が、アメリカの利害に一致して、マイナーながらも始まったのがTPPだ。自由貿易に懐疑的だったオバマ大統領は、ブッシュ政権で始まったこの政策を事実上放置してきた。ここにきて、対中政策の一環として腰を上げつつあるというのが事実に近いところだろう。

 GDPに対するアメリカの輸出額の割合はわずか7%である。シンガポールの220%、韓国の50%、中国の25%、日本の11%に比べてはるかに低い。喫緊の課題である雇用を押し上げる効果も限定的だ。しかしながら「国際政治と安全保障政策が背景にある通商政策です」なんて、たとえ相手が日米政府であっても、米政府が公式に言える話ではない。

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「狙いは中国! TPPに引き込め!」の著者

田村 耕太郎

田村 耕太郎(たむら・こうたろう)

前参議院議員

早稲田大学卒業、慶応大学大学院修了(MBA取得)、米デューク大学ロースクール修了(証券規制・会社法専攻)(法学修士号取得)、エール大学大学院修了(国際経済学科及び開発経済学科)経済学修士号。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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