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心はいつから「折れる」ようになったのか?

簡単には修復できない気力

2011年12月13日(火)

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 筆者は、今年の隠れた流行語の1つが「心が折れる」だったと思っています。震災後の苦労を語る場面で、多くの被災者がこの表現を使いました。例えば毎日新聞の2011年3月25日付けの記事は、津波被害に見舞われた福島県相馬市の様子を写真で記録し続ける地元の学校教諭を紹介。教諭が語る切実な言葉を掲載しました。「こんなことしたって無駄だという人もいる。でも寂しくて“心が折れそう”。何かしていないと不安なんだよ」(注:引用符は筆者が追加)

 こんな記事もありました。読売新聞の2011年4月24日付けの記事です。京都から仙台へ応援取材に入った記者が、仙台市内で余震に遭遇した時の記録です。「自分は単に『怖い』との単語しか思い浮かばなかったが、被災者は口々に『心が折れる』と言う。余震が起きれば、振り出しに戻されるかのように、わずかに見え始めた復興への希望が薄れてゆくのだ」。

 このように最近、それまで維持してきた精神的な支えが途絶えてしまう場面に「心が折れる」という表現をよく使うようになりました。そこで今回の「社会を映し出すコトバたち」は「心が折れる」という表現について分析します。この表現が普及した経緯やルーツ、ニュアンスなどを探ってみましょう。

かつての意味は「気持ちを相手に曲げる」こと

 実は「心が折れる」は古くからある表現です。もっともその意味は現在とは異なるものでした。例を挙げましょう。芥川龍之介が今昔物語集に出典を仰いで執筆した「好色」(1921年)という短編小説です。

 主人公はプレイボーイの「平中」(へいちゅう)。女性を落とすことに関しては百戦錬磨の彼が、なぜか「侍従」と呼ばれる女性にだけは翻弄され、やがては侍従の虜(とりこ)になってしまいます。激しい雨の日、哀れみを誘うべく雨に打たれた姿をさらして侍従の家に向かった平中は、ようやく面会の約束を取りつけます。そして平中はこんな独り言を言うのです。

 「さすがの侍従も今度と云(い)ふ今度は、とうとう“心が折れた”と見える。兎角(とかく)女と云ふやつは、ものの哀れを感じ易いからな。其処(そこ)へ親切気を見せさへすれば、すぐにころりと落ちてしまふ」(注:引用符、ふりがなは筆者が追加)

 平中は「侍従の気持ちがやっと自分に“向いてきた”ようだな」と語っています。現代的な「心が折れる」の意味に従えば「侍従の抵抗心がなくなった」という意味を表してもよい状況です。しかし、この作品では「気持ちが主人公に向くこと」を示します。ちなみに日本国語大辞典(小学館)は「心折れる」の意味として「気持を相手側に曲げる」という解釈を掲載しています。この意味は少なくとも江戸時代には登場していました。

 余談ながらこの物語。平中の思い通りに物事が進まないばかりか、最後にはかなり倒錯した結末を迎えることになります。興味のある方は、是非「好色」をお読みください。青空文庫でも閲覧できます。倒錯のヒントとして「決して食事中には読まないでください」とだけ書き添えておきます。

現代的意味は「挫折」に近い

 いっぽう最近の「心が折れる」は、「くじける」とか「めげる」とか「挫折する」といった言葉で代替できると思います。

 ためしにAmazon.co.jpで「心が折れる」を検索すると、次のような書籍を見付けることができました。「心が折れそうなビジネスマンが読む本」(中森勇人著)、「折れない心の作り方」(齋藤孝著)、「『心が折れない人』の習慣」(PHP編集部編)。2000年代の後半から、自己啓発分野において「心が折れる(折れない)」という表現を使った書籍が増えました。

 そして書籍名に登場する「心が折れる」は「挫折」などの言葉に置き換えることが可能です。例えば「挫折しそうなビジネスマンが読む本」「くじけない心の作り方」「『めげない人』の習慣」といった感じです。言い換えによって「何か大切なニュアンス」を失った気分が残るものの、大筋では本来の意味をうまく伝えられるのではないでしょうか。

 最近、新しい意味の「心が折れる」を項目として掲載する事典も登場しました。例えば「現代用語の基礎知識2011」(自由国民社・2010年末発行)は、若者語欄に「心が折れる」を掲載。その中で「集中力が途切れる。へこたれる。やる気を失う。落ちこむ」といった解説を加えています。

 まとめると「心が折れる」の現代的意味は「くじける」「めげる」「挫折する」に近いことが分かります。

新聞の用例は「スポーツの話題」が先行していた

 では現代的意味の「心が折れる」は、どのように普及したのでしょうか。

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「心はいつから「折れる」ようになったのか?」の著者

もり ひろし

もり ひろし(もり・ひろし)

新語ウォッチャー(フリーライター)

CSK総合研究所を経て、1998年から新語専門のフリーライターに。辞書・雑誌・新聞・ウェブサイトなどに原稿を提供中。2009年より『現代用語の基礎知識』(自由国民社)で「流行現象」のコーナーを担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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