「ニュースを斬る」

【日本版】欧州救済構想〜円建てでユーロ共同債を購入

円の国際化と円高防止にも寄与

バックナンバー

2011年12月20日(火)

1/3ページ

印刷ページ

 ギリシャの財政危機に端を発した欧州危機は深刻の度合いを高めている。欧州連合(EU)は果たして、財政規律の強化と経済統合の解決策を自力で提示できるのか、世界はかたずをのんで見守っている。

 過去に起きた欧州の経済危機といえば、1931年に中欧で発生した金融危機に遡ることができる。1929年にアメリカで始まった大恐慌の影響は世界中に波及し、ヨーロッパ経済をも直撃した。第1次世界大戦の後遺症が続き、金融システムがいまだ脆弱な状態にあったドイツとオーストリアの銀行で取り付けが発生し、金融パニックは瞬く間に広がった。

 基軸通貨国であるイギリスは金の流出が著しく、「最後の貸し手」として墺独を救済することはできなかった。一方、当時既に経済力でイギリスを逆転し、世界中の金が集中していた債権国・アメリカは、欧州を救済する意思を持たなかった。かくして、欧州経済は大不況に陥り、各国はブロック経済化と通貨安競争に突き進んだ。国際貿易と世界経済の収縮を発端として、第2次世界大戦の悲劇へと歴史は舵を切ったのである。

 1931年の中欧通貨危機と今回の欧州危機との大きな共通点の1つは、欧州が自力で問題を解決する資金がないことである。欧州連合は、財政危機を鎮静化させるために、国債を買い支える機関として欧州金融安定基金(EFSF)を設立しようとしている。4400億ユーロ(約45兆円)の出資金を集める考えだ。しかしながら、イタリアやスペインなどの大国が財政破たんした場合に備えようとすると、総額2兆ユーロ(約200兆円)規模の資金が必要とみられている。

 そもそも欧州各国は、ドイツを除く主要国のすべてで経常収支が赤字であり、対外純資産もドイツを除いて赤字である。ユーロ連合全体として、対外信用力は決して高くない。4400億ユーロの基金をもとに5600億ユーロの借り入れをおこない、レバレッジを効かせて1兆ユーロ(約100兆円)規模に資金量を拡大させることを目指しているが、シナリオ通りに事は進んでいない。欧州中央銀行(ECB)がギリシャやイタリアの国債購入に二の足を踏んでいるのも、対外信用力の弱いユーロが暴落することを懸念しているからである。「最後の貸し手」として、欧州に資金援助をする大国が現れず、果たして歴史は繰り返し、欧州経済は深刻な状態に陥ることになるのだろうか。

IMFは欧州を救えるか?

 前回の危機と異なるのは、国際通貨基金(IMF)が存在することである。そもそもIMFは、1930年代の欧州危機では「最後の貸し手」の不在が悲劇をもたらしたという反省から、危機発生から13年の時を経て生まれた。

 しかしながら、IMFの出資金総額(クォーター)は50兆円程度であり、EUのような大国の経済を救済できる資金力を持ち合わせているわけではない。そこで、欧州経済を救済するために、現在4000億ドル強(約30兆円)あるIMFの融資余力を約1兆ドル強(約75兆円)に拡大する案が、欧州諸国主導で取り沙汰されている。日米中など主要加盟国を中心に資金を供給することが前提だ。

 この案が実行されると、日本は数十兆円規模で資金提供を求められる可能性が高い。IMFを軸とした調整といえば中立のように聞こえるが、実は、欧州主導で欧州経済の救済がなされ、大口の資金供与者である日本の発言権は軽視される恐れがある。IMFの主要な人事ポストは欧州諸国が占めているからだ。

 欧州の危機が世界経済へ拡大するのを防ぐために、そして、世界最大の債権国として応分の義務を果たすためには、日本にできることはあるのか? あるとしたらどのような手法なのかを考えてみたい。

岩田案が抱える可能性と問題

 議論の出発点として参考になるのが、10月下旬の国家戦略会議で、岩田一政日本経済研究センター理事長が提案した「金融危機予防基金」構想である。この構想は、日銀が50兆円規模の円資金を供給して、欧州金融安定基金(EFSF)が発行する債券を中心にユーロ建てで購入することを提唱している。このスキームが実現されれば、EFSFの資金不足がかなり解消し、市場に安心感を与える効果が期待できる。50兆円という規模は、現在の資金不足の状況からいって、適当な規模であろう。さらに、大規模な円売り・ユーロ買いを通じて円高是正を図り、我が国の円高不況が深刻化するのを防ぐ効果もある。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント12 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

桜川 昌哉(さくらがわ・まさや)

1959年福井県生まれ。経済学博士。
早稲田大学政治経済学部卒業。
大阪大学経済学部助手、イエール大学客員研究員、名古屋市立大学大学院経済学研究科教授を経て、2003年より慶応義塾大学経済学部教授。
日本金融学会誌『金融経済研究』編集責任者。
著書に『金融危機の経済分析』(東京大学出版会)、『金融立国試論』『経済を動かす単純な論理』(ともに光文社)など。英文学術論文多数。



このコラムについて

ニュースを斬る

日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン