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米国の新国防戦略が日本にもたらす“危機”

大統領選向けの「強気」と、「軍事費削減」は両立しない

  • 川上 高司

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2012年1月13日(金)

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 オバマ大統領は1月5日に、米国の新国防戦略「全世界における米国のリーダシップの堅持-21世紀の国防戦略の優先事項」(国防戦略の指針)を発表した。この新国防戦略はイラク戦争とアフガニスタン戦争が終了した後の状況、そして軍事費を大幅に削減する必要を受けて出したもの。「今後10年間を視野に入れた米軍の新戦略を示す、非常に重要な指針となる」(パネッタ国防長官)。歴史的転換となる新国防戦略には3つのポイントがある。第1は、米軍の2正面戦略からの後退とアジア・シフト。第2はアジア地域の同盟国(日本、韓国)への影響。第3は米大統領選挙と中東への影響である。

2正面戦略から撤退し、中国ヘッジにシフト

 まず、2正面戦略からの撤退とその影響である。オバマ大統領は政権を発足させた時、「米国は、同時に生起する2つの大規模戦争に対処する」(QDR2010)と述べ、冷戦後の政権が一貫して採用してきた2正面戦略(2MRCs)を踏襲した。だが、これを撤回し、「1正面プラス(ワンプラス)」戦略への移行を宣言した。これは、「1つの地域での大規模戦争対処と、同時に生起する1つの地域での敵の意志と能力を粉砕する」もの。

 この撤退の背景には、言うまでもなく米軍事費の大幅削減がある。2011年8月に成立した予算管理法で、これまで削減に関しては聖域であった国防費を、今後10年間で4870億ドル(約37兆5000億円)以上削減せねばならなくなった。このため、激動する世界情勢における「米国の戦略的利益がある地域」で、「米軍が軍事的優越を効率的に確保する」必要が生じたのである。

 オバマ政権は新国防戦略に基づいて国防費削減案をとりまとめ、2012年2月初旬に公表する予定である。予算を配分する最優先分野として、特殊作戦部隊や、無人機を使った偵察能力向上を挙げている。これは、南シナ海やホルムズ海峡などの地域で、米軍の戦力展開を阻止する動きを見せている中国やイランに対して「米軍が効率的に優位を確保する」ためだ。また新国防戦略は「戦略的利益がある地域」として、アジアと中東であると明記した。北朝鮮とイランに対して、誤ったシグナル――米国がこれらの国への関与をやめる――を送らないためだ。

 しかしながら実態は、米国の「戦略基軸」(ストラテジック・ピボット)のシフト――イラクとアフガニスタンに展開していた米軍兵力をアジアへ移動させる――となる(クリントン国務長官)。この決断は、オバマ大統領が2011年11月にオーストラリア議会で既に宣言している。

 ゲーム・チェンジャーとして台頭する中国をヘッジすることが狙いだ。中国は、対艦弾道ミサイルを増強するなど、米軍の接近を阻止する能力(A2AD)を増強させている。これに対して新国防戦略は「長期的に見て、地域大国としての中国の台頭は米国の経済及び安全保障に影響を及ぼす」と明記。台頭する中国をヘッジしながらアジア地域での地域覇権を維持しようとする米国の強い戦略的意図が見てとれる。具体的には、A2ADの動向をにらみながら、陸軍と海兵隊の人数を削減する一方、Air-Sea(空軍力と海軍力)とサイバー及び宇宙における戦備を増強する。

米国は日本と韓国を本当に守れるのか~重要性を増す普天間基地と在沖海兵隊

 米国の新国防戦略は、同盟国にも様々な影響を及ぼす。特に、韓国では議論が噴出している。2011年12月に北朝鮮で金正日総書記が死去したのを受け、緊迫感が極度に高まっているからだ。このため、米国は北朝鮮に誤ったメッセージを送らないよう、新国防戦略の中で、北朝鮮に対するヘッジと朝鮮半島の平和維持に言及した。さらに、米国防総省は、新国防戦略が「韓国に(否定的な)影響を与えない」と韓国政府に対して事前に伝え、動揺が起きないようにした。

 しかしながら新戦略は、今後、主要な戦争において同盟国や友好国を支援する際、オフショアー戦略に重きを置くと考えられる。これまでのように大規模な地上軍を投入するのではなく、Air-Sea(空海軍)主体の巡航ミサイルなどの遠距離精密打撃による支援に重きを置く方針だ。

 この方針転換により、朝鮮半島の安全保障戦略を見直す必要が生じるかもしれない。例えば、朝鮮半島有事を想定した作戦計画 (OPLAN5027)は、米軍総兵力69万人を派遣することになっている。もし、OPLAN5027を見直すことになれば、北朝鮮のゲリラなど非対称戦力に対応可能な精密打撃兵器や情報・監視体制を早急に整えねばならなくなる。

 こうした体制を整えるために、韓国は国防費を膨大に増額する必要に迫られる。「国防費を増額するよりも、朝鮮半島の平和を中国とともに維持した方が現実的だ」という見解や、「この機に乗じて北朝鮮との融和政策を推し進めた方がよい」という議論まで出てきている。このため米国は、「韓米共同局地挑発対処計画」――北朝鮮が韓国に対して局地的な挑発行動をとった場合の対応策――に署名する。想定される事態が生じた場合、米軍はE3ジョイントスターズ偵察機や、在韓米空軍及び砲兵部隊、在日米軍のFA18戦闘機、在日海兵隊を出動させる。

 従って、日本への影響も大きい。新国防戦略が米軍のアジア・シフトを決定したのに加えて、朝鮮半島が有事対応状況となっている現在、沖縄の普天間基地と海兵隊の役割が一気に増した。朝鮮半島有事に備えて、また台頭する中国の軍事力に対して抑止力を高めるために、両者はより重要となった。それに加えて、米議会が2012年度の米軍グアム移転費用を認めなかったため、普天間飛行場の辺野古移転は非現実的なものとなった。

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