「国債の92%が国内消化だから大丈夫」という神話は本当か?

急速に高まる海外投資家の影響力

 毎年1兆円のスピードで膨張する社会保障予算や、恒常化している財政赤字によって、日本の財政は急速に悪化している。将来世代に、担いきれないほどの税負担を背負わせつつある。公的債務残高(対GDP)はいまや200%に迫る。

 前回のコラムで述べたように、国民貯蓄は減る一方だ。もはや日本が選択できる解決策は限られている。財政の持続可能性を高め、世代間格差を是正するためには、抜本的な財政・社会保障の改革を推進していくほかない。

 であるにもかかわらず、「日本の国債はその多くが国内で消化されているから何も問題ない」との意見がいまだに根強くある。確かに、日本銀行「資金循環統計」(2011年9月末時点)を見ると、国債残高(財投債を含む)の92%を国内の投資家が保有している。内訳は、銀行などの金融仲介機関が65%、公的金融機関が12%、中央銀行が9%、家計が3%だ。海外投資家の保有割合は8%にすぎない。

 この議論は一見したところ説得力があるように聞こえるが、厳密に議論を始めると若干疑問がわいてくる。というのは、国債利回り(価格)には、「ストック」だけでなく、「フロー」も影響を及ぼすからである。もし「ストック」だけが影響を及ぼすならば、海外投資家が日本の国債利回りに及ぼす影響はごくわずかだ。しかし、「フロー」も影響を及ぼすのであれば状況は異なる。

 実は、似た議論が住宅市場の構造を巡る議論でも存在する。1つはPeterba(1984)、Kearl(1979)やDiPasquale and Wheaton(1994)に代表されるストック・フロー・モデルであり、もう1つはMuth(1960)に代表されるフロー・モデルである。前者は、ある時点の住宅価格は、フローとストックの両方を合わせた住宅に対する需要と供給によって決定される、というもの。後者のフロー・モデルは、ある時点の住宅価格は、フローの住宅に対する需要と供給によって決定されるとするものである。
 もっとも、住宅市場は建設期間などを含めてストック調整に様々なコストがかかる。これに対して、国債などの債券市場ではこのコストが低い。このため、国債利回りがフロー取引から受ける影響の度合いは、その流通市場における「流動性」がどの程度あるかにも関連する。流動性が高い場合、例えば国債価格の上昇時には国債ストックを売却して利益を稼ぐことができので、国債ストックも国債利回りに影響を及ぼす。

 しかし、実際には、銀行・郵貯や生保・年金基金といった金融機関は、1997年の金融危機の教訓を踏まえ、ALM管理(Asset Liability Management)を推進・強化している。ALM管理とは、資産と負債を総合的に管理するリスク管理手法をいう。資産側と負債側の平均償還年限や、資産側の利回りと負債側の金利コストをある程度マッチさせておけば、負債側の金利コストが急激に変動しても、資産利回りと負債利回りの差が相殺されて損失をヘッジできる。その際、資産側の償還年限などの調整に、国債が必要となる。ALM管理を目的として、銀行・郵貯や生保・年金基金といった金融機関が保有する国債ストックが多いことから、国債のフロー取引の影響も無視できない。

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著者プロフィール

小黒 一正

小黒 一正

法政大学経済学部教授

1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。専門は公共経済学。

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