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「オリンピック選手に体罰」が行われる謎を解く

甲野善紀×小田嶋隆 アウトサイダー対談

2013年2月14日(木)

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 先週の小田嶋隆さんの連載「ア・ピース・オブ・警句(あの動画についてやはり触れざるを得ない)」は、非常に多くの読者の方に読んでいただいた。その中でオダジマ氏は女子柔道のオリンピック選手への、コーチによる体罰に論を進め、

「どうして五輪代表に選出されるような一流のアスリートを暴力で従わせねばならないのだろうか?」

 と問いかけた。思わず頷いた方もいるのではないだろうか。

 そんな折り、メルマガサイト「夜間飛行」の井之上達矢編集長から、「こちらで連載中の甲野善紀さんが、ぜひ広く言いたいことがあるので、日経ビジネスオンラインで取材してもらえないか」と打診を受けた。甲野善紀さんは、伝統的な武道の世界からはアウトサイダー視されているが、その視点のユニークさと指導実績から、武術、スポーツの世界のみならずロボット工学などの専門家に高く評価され、柔道界の選手たちにも支持者が多い武術家だ。

 武術の世界と、ビジネス社会の「アウトサイダー」な論客同士を絡ませたらどうなるか。そう思った編集Yは、記事を書き終えて青息吐息のオダジマ氏を伴い、東京郊外の甲野氏の道場に向かった。以下は、その(ほぼ)全貌だ。

原子力ムラならぬ柔道ムラ状態

小田嶋:柔道女子日本代表の園田隆二監督が、女子選手たちに対して暴力を振るったとして辞任しました。1月31日に行われた記者会見の中では、「あなたの指導法は特殊なのか」という質問に対して、「柔道界で選手を叩いているのは私だけなので、特殊だと思います」と答えた。まずこれに、ものすごく違和感を覚えた。

甲野:そもそも、質問自体が「聞くだけ野暮」というものです。あのように答えたのは、園田監督が(柔道の世界の)「仁義だけは守ろう」としたという事でしょう。

小田嶋:柔道界としては、「トカゲのしっぽ切り」でもあったわけです。しかし、彼のコメントを柔道界が認めてしまうと、今後、「私も殴られました」という選手が出てきたときに、「(他の監督やコーチは)殴ってないって園田監督が言ったじゃないか」という話になってしまうのでは、と、普通は考えると思うんですが…。

甲野:そこまで考えていないんだと思います。

小田嶋:そんな…。

甲野:要するに、物事の基本的なところが見えず、取り敢えず目先の問題を何とか覆い隠すことに必死なのでしょう。柔道に限らず、武道、ひいてはスポーツ関係者も、原子力ムラならぬ柔道ムラや◯◯ムラ状態になっていると思います。ですが、まあ、とても園田監督だけの辞任では済まず、いろいろこれから出てくると思いますけどね。

制度で体罰を禁止してもムダ

小田嶋:「近所の小中学生を教えている指導者が、ふざけている子供をコツンとやる」というのであれば、それがいいか悪いかは別にして、そういう動機があるのはわからないでもない。でも、オリンピックに出よう、金メダルを取ろうというレベルの人に対して「指導者が暴力で言うことを聞かせる」という動機が、そもそも理解を絶しているんですが。

甲野:柔道の指導者が体罰をするのは、「自分も叩かれて育ったから、叩くのが当たり前だと思っている」ということ以外にはないでしょうね。

小田嶋:「強くなってほしいから、心を鬼にして叩いた」とか、「叩いているこっちも、本当は心が痛んでるんだ」という言い方があるけれど、あれ、嘘ですよね。

甲野:そうですね、完全に嘘だと思います。叩く以外の指導方法を知らないか、カッとして衝動で叩いているのかのどちらかでしょう。

 最近、現役選手も含めた柔道家が私の技に関心を持って訪ねてくるようになりましたが、1年ほど前に、その中の一人のある有名選手が、「上の人は『しっかり掴め』と『死ぬ気でいけ』としか言いませんからね」と言ってました。

小田嶋:よりによって「死ぬ気でいけ」か(笑)。

甲野:そうやって教わって来た選手は、私の技を受けて、これまで知らなかった世界に触れると、とても混乱するようです。有名選手は背負っているものが重いので、すぐ気持ちを切り替えられないのでしょう。ただ、最近は「また来させて下さい」という人も出始めましたが。

甲野善紀(こうの・よしのり)
甲野善紀(こうの・よしのり) 1949年東京生まれ。武術研究者。武術を通じて「人間にとっての自然」を探求しようと、78年に松聲館道場を起こし、技と術理を研究。99年頃からは武術に限らず、さまざまなスポーツへの応用に成果を得る。介護や楽器演奏、ロボット工学、教育などの分野からの関心も高い。著書『剣の精神誌』『武道から武術へ』、共著『身体から革命を起こす』など多数。ツイッターのアカウントは、@shouseikan。甲野善紀のメールマガジン『風の先、風の跡』はこちらから。

 その点、つい先日初めてやってきたレギュラー外の選手達は、当初は混乱していましたが、やがて、これまでやってきたこととはまるで違う私の技に、何か希望を見出したのか、無邪気な顔になって生き生きと稽古するようになりました。

小田嶋:(上層部から)期待されていない選手の方が、違う考え方を理解する余裕があるわけだ。

甲野:これは私が昔から何度も言っていることですが、いわゆる「鬼コーチのしごき」でも、そこそこうまくなることはあるんです。でも、今までの常識を超えたレベルまで上達するようなことは「しごき」では決して出来ません。

 一方で私は、「体罰禁止を法的にさらに厳しくしよう」という動きには反対です。大阪の高校で体罰による自殺があったということで、学校での体罰禁止を強化して、徹底的に取り締まろうという気配がありますが、そういうやり方がいいとは思えません。

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「「オリンピック選手に体罰」が行われる謎を解く」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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