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トンデモ判決が生まれる土壌

裁判官たちの奇妙な世界(前編)

2013年7月18日(木)

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 今般上梓した『法服の王国~小説裁判官』の執筆のきっかけは、大手邦銀による脳梗塞患者への過剰融資事件に巻き込まれたことだった。証人尋問の最中に裁判官は居眠りをし、判決文は銀行側の主張を丸写ししただけで、偽造された署名捺印にもとづいて妻の連帯保証を認定し、総額24億円強の融資の大半が違法な両建預金(融資した金で作らせる預金)にされていたにもかかわらず、銀行全面勝訴という驚天動地の判決だった。しかもその裁判官が、司法試験の考査委員(試験官)も務める東大法学部卒のエリートだというのである。

 裁判官はI種(上級職)の国家公務員よりも多い報酬をもらう高給公務員である。しかし、仕事ぶりはこの体たらく。「いったいどうなってんの!?」と叫びたい気分だった。

声はすれども姿は見えず

 この際、裁判官の生態を徹底的に解明してみようと意気込んで取材を始めたが、知り合いに裁判官は一人もいない。そもそも裁判所に勤務でもしない限り、普通の人間が個人的に裁判官に接することはない。これは裁判官たちが、「公正らしさ」(公正な裁判であると世間に認めてもらえること、という一種の業界用語)を確保するために、外部の人たちと接しないようにしているためだ。通勤も、飲みに行くのも、趣味も、裁判官(および裁判所職員)同士というのが彼らの生活である。そして趣味は、テニス、酒、囲碁、将棋、登山、釣り、パチンコ、競馬、読書、音楽鑑賞など、一人またはごく少人数でやれるものが多い。これでは一般人の目に触れないはずだ。

 ちなみに「戦後司法界最大の大物」といわれる故矢口洪一最高裁長官(勲一等旭日桐花大綬章受章)もパチンコが趣味で、サンダル履きの姿で官舎の近所の店に出かけ、小首を傾げるようなスタイルで玉を弾いていたという。マージャンもたしなみ、派手さはないが、裁判官らしい手堅い打ち手だったとか。

 お酒の好きな裁判官は多い。「仕事で堅苦しいことばかり話しているので、飲んで発散するんですよ。泥酔して、何をやらかしたのか知らないけれども、留置所に一晩入れられて、知り合いの検察官に出してもらった裁判官もいますよ」とは、ある裁判官の弁である。

出会いは血も涙もある元裁判官

 最初に取材を受けてくれたのは、関西在住の元裁判官の弁護士さんだった。先の銀行裁判の印象もあり、裁判官というものは、世間知らずで、傲慢なエリートではないかと思っていたが、その方に会って、偏見は打ち砕かれた。遠くを見る眼差しで、「定年退官になる少し前に、残虐な強殺(ごうさつ、強盗殺人)事件の少年犯に検察が無期懲役を求刑し、合議体(事件を担当する3人の裁判官)で色々考えたが、求刑通りの判決をした。昔は無期懲役だと15年くらいで仮釈放になったが、仮釈放中に事件を起こすケースが少なくないので法務省が批判され、現在は高齢にならないと仮釈放しなくなった。本当にあの少年を50歳、60歳まで刑務所に繋いでおくのか、もう少し刑を引き下げる方法はなかったのだろうかと、今でも引きずっている」と話すその姿は、瞼に焼き付いた。

コメント7件コメント/レビュー

弁護士に得意不得意分野があるように、裁判官にもオールマイティを期待するのは難しいと思います。適度に専門化を実施し、法律改定に対する勉強や、進化する世の中の技術への理解も必要でしょう。判事採用の際は、司法試験の成績だけでなく、人格的な適合も十分審査すべきと思います。裁判員制度や諮問委員会制度で裁判官の視野が広がることを期待します。(2013/07/22)

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「トンデモ判決が生まれる土壌」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

弁護士に得意不得意分野があるように、裁判官にもオールマイティを期待するのは難しいと思います。適度に専門化を実施し、法律改定に対する勉強や、進化する世の中の技術への理解も必要でしょう。判事採用の際は、司法試験の成績だけでなく、人格的な適合も十分審査すべきと思います。裁判員制度や諮問委員会制度で裁判官の視野が広がることを期待します。(2013/07/22)

知らない世界の話で大変参考になりました。コメントは2番目の方のものに同意します。マネジメントの不在を精神主義で誤魔化してはいけません。これで戦争に負けたことを日本人はしっかりと記憶にとどめるべきです。(2013/07/18)

今日の裁判に関する報道。■乳がんの女性に対して「放射線治療の実施が3週間遅かった」として損害賠償を命ずる。■中国人実習生が来日半年で妊娠。実習生受入れ契約書に「妊娠した場合は強制帰国」の条項に従って帰国させたら流産。「強制帰国」の条項が違法として損害賠償を命ずる。■今日だけで、一般国民の感覚と異なる判決を行なう裁判が2件発生。果たして本当に裁判官は何を考えて散るのか。■更に、記事内で「顧客(弁護士)」とあるが、顧客は弁護士ではない。特に民事裁判の時は原告が顧客のはず。司法の中の馴れ合いは醜い。■裁判官個人の判断の尊重も良いが、卒業(定年)前に自分勝手な判決を出されてはたまらない。国民の裁判を受けた結果が平等でないことは、一票の格差以上に問題である。担当裁判官によって判決が180度変わるようでは、「国民の法の元の平等」をあざ笑っているとしか思えない。■どんな裁判官に当たるかによって、判決が異なること自体が極めて違憲ではないか。裁判官に個人の判断など必要ない。(2013/07/18)

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