黒田東彦・日銀総裁は2%のインフレ目標を2年程度で実現すると述べている。それでは、アベノミクスに伴う資産インフレ効果で恩恵を受ける地域はどういった地域なのか。本誌は不動産マーケティング会社、アトラクターズ・ラボ(東京都千代田区・沖有人社長)と組み、アベノミクスで上がる地域、下がる地域を徹底分析した。結果を見てみよう。
(篠原 匡)
10年の歳月を経て、首都圏の不動産市場は再び転換期を迎えつつある。
日経ビジネスは2002年7月22日号で「不動産大革命」という特集を組んだ。この特集では、金融商品となった不動産の実情をつぶさに取材、すべての不動産を投資利回りで見るべきと主張した。今でこそ当たり前になった、周辺物件の賃料と分譲価格を基に算出した「駅別利回り」という概念を初めて提示したのもこの特集である。
この10年で消えた“オイシイ物件”
「不動産大革命」を掲載した2002年は、まさに日本の不動産市場の転換点だった。
不良債権化した割安不動産を買い漁るために、外資系ファンドが押し寄せたのは1990年代後半のこと。それ以降、「収益」で不動産価格を見る収益還元法が急速に浸透した。特に、2002年を境に、収益還元法は不動産市場の「常識」と化している。
例えば、2002年の単純利回りとマンションの坪単価を見ると、近似線に対してばらつきが少なくない(散布図2002年)。「不動産大革命」で掲載した「利回りベスト100駅」を見ても、水天宮前9.95%、神泉9.54%、築地8.90%と今の基準に照らして明らかに割安と思われる駅がいくつもあった。
当時は近隣の取引事例を基にした取引事例比較法から収益還元法に切り替わる移行期だったため、すべての不動産が収益還元法で評価されていたわけではなかった。ゆえに、探せば利回りの取れるオイシイ物件が“放置”されていた。
ところが、ミニバブル状態にあった2008年を見ると、多くの駅が4~6%の利回りに収斂している(散布図2008年)。近似線も坪単価にかかわらず5%近辺でフラットに。これは、市場参加者が同じモノサシで不動産を評価するようになったことで、裁定取引の機会が失われたということだ。まさに、収益還元法が常識になった証左だろう。
この10年を振り返ると、首都圏の中でも便利な地域、すなわち東京駅など核となる場所からの距離が近いところから利回りが低下(物件価格は上昇)していった。
「投資尺度としての利回りは死んだ」
2002年のランキングで水天宮前や築地、東向島などの利回りが高かったのは、様々な理由で住宅適地と思われておらず、利便性の割に坪単価が低く抑えられていたためだ。こういう場所は例外なく不動産価格が上昇した。利便性はいいが、工場立地や倉庫立地だった東京都東部や北東部が当てはまる。
その後、リーマンショックを巡る混乱もあったが、収益還元法が一般的になったため、利回りを見るだけでは異常値(つまりオイシイ物件)を見つけることは難しくなった。「利回りで差がつかなくなった以上、投資尺度としての『利回り』は死んだ」とデータを解析したアトラクターズ・ラボの沖有人社長は言う。
ただ、ここにきて首都圏の不動産市場が大きく変わり始めた。そのトリガーはアベノミクスである。
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