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「ノーベル文学賞」を決める根拠はどこに?

  • 市川 真人

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2013年11月11日(月)

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 日本で毎年話題になる文学賞といえば、芥川賞と直木賞、そしてノーベル文学賞だ。芥川・直木賞は1月と7月、ノーベル文学賞は10月になると、普段は小説のことなぞほとんど扱われない新聞の社会面やテレビのニュースでも、話題が目立つようになる(近年はそれに、4月の本屋大賞も加わった)。ところで皆さんは、芥川賞が「純文学の新人のための賞」であることや、それと同主旨の賞が他にもふたつあることをご存じだろうか。

 ひとつは毎年5月の三島由紀夫賞、もうひとつは11月の野間文芸新人賞で、それぞれ新潮社と講談社が主催している。芥川賞は日本文学振興会という公益財団法人の主催だが、事務所が同じビル内にあるとおり文藝春秋という出版社と切っても切り離せないのだから、「三島」「野間新人」「芥川」の3つの賞は、「新潮」「講談」「文春」3つの出版社がそれぞれ設置・運営している新人賞だと言っていい。選考委員も候補作も、少なからず重複している(同様に、直木賞と似た賞には山本周五郎賞と吉川英治文学賞がある)。

 けれども、受賞した作家がその後により権威のある賞を受けても「芥川賞作家」の肩書きで呼ばれ続けるように、芥川賞(と直木賞)は、ほかふたつの賞の何十倍も話題になる。そこには、どんな理由があるのだろうか。

 芥川・直木賞の授賞式を訪れると、その理由がよくわかる。

 三島賞や野間新人賞も含めた多くの文学賞の授賞式の来客は、作家や詩人・批評家といった物書きに加えて、新聞記者やフリーの編集者、そして出版社に籍を置く編集者や営業マンなどが多くを占めている(大きな賞だとそれに加えてきらびやかな衣装の女性たちがいたりして、どうやら銀座のお姉様方らしいのだが、下戸の身にはよくわからない)。出かけてみると数百人の来場者の大半が顔見知り、なんてことも珍しくない。

 お祝いの場であり社交の場である授賞式ならば、むろんそんな感じでよいのだろう。だが、芥川・直木賞の授賞式には、顔を知らないひとたちがたくさんいる。それも、きちんとスーツを着た中年男性の姿が多い。いったいなんだろうと不思議に思って聞いてみると、印刷・製本などの関連業界のひとたちに加えて、その少なからずを占めるのが全国の書店の経営者たちで、ここに芥川・直木賞がとびぬけて話題になる仕組みがあるのだった。

経営者を巻き込んで成功した芥川・直木賞

市川真人(いちかわ・まこと) 1971年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業後、百貨店勤務を経て近畿大学大学院文芸学研究科日本文学専攻創作・批評コース修了。現在、早稲田大学文学学術院准教授、雑誌「早稲田文学」編集委員、TBS系情報番組「王様のブランチ」ブックコメンテーターなどを勤める。著書に『芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか』、前田塁名義で『小説の設計図』ほか。(写真:大槻 純一)

 書店の経営者たちを授賞式に招くことは、畢竟、受賞者や受賞作を、さらには賞それ自体を、そのひとたちに身近に感じてもらう契機になる。経営者たちが身近に感じれば、受賞作の掲載された「文藝春秋」や「オール讀物」などの雑誌や受賞作の単行本を、自分の店のいちばんいい場所に置いてくれる。ポスターだって目立つところに張ってよい気がしてくるだろう。結果、日本中の書店が受賞作のショウ・ウィンドウになり、人々の興味を引くのはもちろんのこと、メディアもそれを共通の話題として取り上げやすくなる、というわけだ。

 切り口は違うが同様の手法を用いているのが、この10年ですっかり定着した「本屋大賞」だ。こちらは経営者ではなく現場の書店員たちを巻き込むことで、やはり書店店頭での露出を増やすことに成功している。経営者でなくそこで働く個人を前に出したり、選考自体も書き手や作り手ではなく販売者に委ねることで、後期民主主義と呼ぶべき現代とクラウド化した社会システムむけに巧みにチューニングされてはいるが、「書店」をフロントラインに設定して「賞」そのものと受賞作(受賞者)のプレゼンスを高める手法において、「本屋大賞」と芥川・直木賞の両者はよく似た設計思想を持っている。

 むろん、予備選考から最終選考まで、職業的な読み手・書き手たちが自分たちの文学観をもとに議論を尽くして選ぶ(ことになっている)芥川・直木賞と、小説好きであると同時に無数の読者へのアクセスポイントでもある書店員たちが投票で選ぶ本屋大賞では、賞そのものの性質も選ばれる作品も違っている。だが、作品への価値判断や芸術的評価のスタンスとは別次元で、賞が受容=需要としての商業と切り離せないことを前提に、コンテンツとコマースの相乗作用を有効に活用すること――コンテンツ産業の主軸となりつつあるメディアミックスが持つ「異なる要素を綜合して、足し算を掛け算に変える」手法と同様のたくらみを、そこには見出すことができる。

 そうして、村上春樹が受賞するかどうかでここ数年国内の耳目を集めるノーベル文学賞にも、根本的な構造ではそれらと近い部分がある。

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