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世界で大論争、大著『21世紀の資本論』で考える良い不平等と悪い不平等

フランス人経済学者トマ・ピケティ氏が起こした波紋

2014年6月3日(火)

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 フランス人経済学者トマ・ピケティ(Thomas Piketty)氏が書いた『21世紀の資本論(Capital in the Twenty-First Century)』が今、米国をはじめ世界中で注目を集め、売れに売れまくっている。700ページ程の分厚い経済書としては異例の出来事だ。皮肉にも、ピケティが上位1パーセントの高額所得者に仲間入りするのは確実だ。『資本論』出版のタイミングと誰にでも理解できる大胆な政策提言(富裕層から富を税金で奪い取れ)は、米国政治の右派と左派の感情を刺激するには完璧であった。

 2008年に始まった世界金融危機以降、一般大衆は失業や低賃金など経済苦境を長く経験してきた。同時に、かれらは金融危機を引き起こした張本人であるはずの、投資銀行の最高経営責任者(CEO)達が一般労働者の1000倍近い超高額報酬を得ているのを見ている。

 そして、多くの人びとが資本主義そのものに疑問を感じ始めた丁度その時、ピケティの『資本論』が店頭に出てきたのである。それは多くの人びとが感じていた貧富格差拡大の事実をデータで裏打ちし、しかも不平等是正のための政策提言を積極的に行ったのである。すなわち、「富裕層の所得と富に高い税金をかけて奪い取れば不平等は解決するのだ」と。

データ不備の指摘は本筋にあまり影響がない

 そのメッセージはあっという間に、近年ますます顕著になってきた米国政治の右派・左派対立の火種に油を注ぐことになった。ポール・クルーグマン米プリンストン大学教授やジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授などの左派有名人がピケティの『資本論』を褒め称えると、右派はさまざまな側面から攻撃を始めた。

 例えば、右派は1980年以降の不平等拡大を示すデータの不備を指摘している。ただし、これはピケティ以前に多くの研究者が異なる資料を使って示していた点であり、今後事実として覆る可能性は小さいと思われる。いずれにせよ、論争は激しさを増しており、まさに乾いた薪に一気に火が燃え広がった状況にある。

ピケティの論点とは?

 世間の政治的大騒ぎから距離を置いて見ても、ピケティの『資本論』は学問的に吟味するに値する本である。それは今までになかった欧米諸国の長期データに基づいた研究の集大成である。『資本論』は大きく分けて3つの部分からなる。

 第1は、所得と富の歴史的分析、第2は所得と富の不平等が21世紀に拡大していくという予測、第3は拡大する不平等をくいとめるための政策提言である。私は、第1の部分を高く評価、第2の部分もおおむね賛成、第3の部分には反対である。まだ本を読んでない人のために、そして私が批評を始める前に、ピケティの『資本論』を要約しておこう。

 『資本論』は、数世紀にわたる膨大なデータ分析に基づいて、産業革命以降の所得と富の変動を分析した研究である。それによると、18-19世紀のヨーロッパは不平等が非常に大きな社会であった。硬直的な階級社会の下で、富は少数の富裕家族の手に集中していた。(富/所得)比率は高く、産業革命以降賃金は少しずつ上昇していくが、不平等社会はそのまま存続した。

 不平等な社会構造は、20世紀に起こった2つの世界大戦と大恐慌によって初めて崩れることになる。戦争による資本破壊、戦争をファイナンスするための高税率、高インフレ、企業倒産、そして戦後多くの先進国が採用した福祉政策によって(富/所得)比率は低下し、戦後は18-19世紀とは大きく異なる比較的平等な社会が生まれてきた。

コメント19件コメント/レビュー

経営者が「金を儲けて何が悪い。」とうそぶくのではなく社員など利害関係者、消費者、社会から真に尊敬される存在となるためには「功成り名を遂げたら、あとは社会貢献・還元する。」ことなのだろうと思う。このような社会還元はかつては宗教が担ってきたが、グローバル化により変質した。今や宗教に変わる新たな社会規範(富める者の規範、為政者の規範、国民の規範など)が必要となっている。 そのような観点から富を得た者に対する「ノブレス・オブリージュ政策」の提案は一つの解決策だと思う。 コメントを書かれた方に反対者が多いものの、やってみる前提で議論し、改善してみてはどうだろうか。(2014/08/31)

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「世界で大論争、大著『21世紀の資本論』で考える良い不平等と悪い不平等」の著者

澁谷 浩

澁谷 浩(しぶや・ひろし)

小樽商科大学商学部教授

1988年、米プリンストン大学からPh.D(経済学)取得。米インディアナ州立大学、IMF(国際通貨基金)、日銀金融研究所などを経て現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

経営者が「金を儲けて何が悪い。」とうそぶくのではなく社員など利害関係者、消費者、社会から真に尊敬される存在となるためには「功成り名を遂げたら、あとは社会貢献・還元する。」ことなのだろうと思う。このような社会還元はかつては宗教が担ってきたが、グローバル化により変質した。今や宗教に変わる新たな社会規範(富める者の規範、為政者の規範、国民の規範など)が必要となっている。 そのような観点から富を得た者に対する「ノブレス・オブリージュ政策」の提案は一つの解決策だと思う。 コメントを書かれた方に反対者が多いものの、やってみる前提で議論し、改善してみてはどうだろうか。(2014/08/31)

筆者が提案されている高い相続税負担により寄付を促す「ノブレス・オブリージュ政策」は、筆者が想定しているような「悪い不平等」を是正するのではなく、下記の点から、経済格差拡大の主原因となる経済成長低下を招くリスクの方が高いと思われます。(1)心理学の研究などによると、相続税負担という負のインセンティブ(罰)を与えて人を誘導する効果は長続きしないため、抜け道(例:寄付金を企業グループ内の循環取引に回し、企業グループ内に留保する)を探すことで、効果が薄れる(2)高い相続税負担により、日本の経済活動の半分以上を担っている中小のファミリー企業が、世代を超えて安定的に事業継続することが難しくなり(既に大きな問題になっています)、未来に向けた投資へのインセンティブが薄れる相続税負担増という「ムチ」ではなく、資産家の善意を促すような「飴」の政策によって、短期利益視点&自社利益優先の企業には期待できない、社会インフラや教育のような長期視点&公共利益視点の投資行動を、政府ではなく民間の意思と資金で行うことを促すことには、意義があると思います。どなたかが指摘されていたように民間の寄付行為が定着していない日本で、筆者が提案する寄付行為を促すには、例えば、命名権のように、寄付した人の名前を社会インフラや教育サービスに付ける、勲章好きな日本人の国民性を活用して、一定以上の金額の寄付金を累積で行った人を叙勲するといった、費用はあまりかからないが、寄付した人の自尊心を高めるような施策を打ってみてはどうでしょうか。人類が存続するには、悪い不平等を是正し、本来人類が持っている利他性を満たし、社会不安を和らげるべきだという筆者の基本スタンスには、共感します。税負担という罰よりも、人の手助けをした自分を褒めてほしいという自尊心に訴えた方が、筆者の基本スタンスに合っていると思います。(2014/06/08)

上層貧困層と中間層から富が移転され富裕層と貧困層が形成されたように思う。健全な中間層を失えば、”顧客を失う”、”政治的不安定が来る”という懸念が大きい。このままでは、自由主義、市場経済、民主主義を失う結果になると思う。(2014/06/07)

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