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中国に残る 髪の毛で造る「醤油」

政府の摘発追いつかず いまだに屋台で使われる

2006年6月9日(金)

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「毛塵屋」という商売をご存じだろうか。
 
 これを「けじんや」と呼び、これは理容室や美容院を回って頭髪の切り屑である「毛屑」を集める商売で、既に日本ではこの商売は消滅したものと思われる。

 かつての日本でこの毛塵屋さんが買い集めた毛屑をどうしていたのかは分からないが、恐らく買い集められた毛屑は専門の業者の所に集められて、長さのある良質の髪はカツラや「髪文字(かもじ)」という女性の添え髪の材料となり、それ以外の毛屑は工業用のアミノ酸の原料となっていたものと思われる。旧知の美容師さんに聞いたところでは、美容室が毛塵屋さんに毛屑を渡すとお金を支払ってくれるのではなく、「髪文字」と交換してくれたという。

 ところで、今回のテーマである「毛髪醤油」とは何か。「毛髪」と「醤油」に何の関係があるのだろう。上述したように、毛髪がアミノ酸の原料であり、醤油の原料がアミノ酸であることが分かれば、自ずと毛髪から醤油ができることが理解できよう。
 
 日本でも戦中から戦後の物不足時代には「毛屑から代用醤油が作られた」との毛髪研究家の記述が「ニューヘアー」という雑誌の1982年9月号に掲載されている由で、その作り方は、毛屑を10%の塩酸の中に入れて24時間ほど煮沸した後に濾過して苛性ソーダで中和させるとのこと。

 また、日本の企業が頭髪から工業用アミノ酸を製造していたことは事実だが、毛塵屋を経由して毛屑を集めると人件費がかさんで採算に合わず、現在では製造していないようだ。

密造されている毛髪醤油

 さて、中国では政府により毛髪醤油の生産禁止命令が再三出されているが、毛髪醤油は依然として全国各地で密造され、低級醤油として販売されているという。中国では2004年1月に国営テレビ局「中央電視台」の「毎週質量報告」(質量は品質の意味)という番組で毛髪醤油問題が取り上げられたが、それほど大きな問題とはならなかった。

 ところが、2005年10月に遼寧省瀋陽市(中国語では沈陽市)の新聞「沈陽今報」の記者が毛髪醤油のできるまでを追跡報道したことから、中国全土で大きな反響が巻き起こった。

 記者の論点は、中国の醤油の一部には毛髪から作られた醤油があるが、これらの醤油にはガンを誘発する物質が含まれており、政府により再三の生産禁止命令が出されているにもかかわらず、欲に目がくらんだ悪徳商人は今もなお毛髪醤油を生産しているというもの。

 記者の追跡は、瀋陽市内の理髪店に毛屑を買いに来る毛塵屋との接触から始まる。毛塵屋から東北地方の毛屑買いう付けの元締めへの接触に成功する。記者は、醤油製造用アミノ酸の買い付けを口実にアミノ酸工場の紹介を依頼するが元締めは煮え切らない。そこで、最初の毛塵屋から聞いていた、元締めが買い付けた毛屑の搬送先であり、元締めの故郷である河北省新楽市へ行くことを決意する。

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「中国に残る 髪の毛で造る「醤油」」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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