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「お前の苗字は犬」から1000年

改姓強請から名誉回復までの永い歴史

2006年9月22日(金)

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 2006年9月9日付の米紙「ロサンゼルス・タイムズ」に同紙のスタッフライターであるマーク・マグナイヤー記者の「犬のジョークを抹消する」という表題のコラムが掲載されていた。コラムの内容は、中国の村人たちが“侮辱的な連想を抱かせる姓”から、“敬われる姓”に変えることに成功したというもので、興味を覚えた筆者は全文を読んだ。だが、残念ながら英文では漢字の味わいが表現できず、面白みがいま一つというのが偽らざる感覚だった。

 そこで、早速記事の発信地として記載されていた“Shimengou, China”をヒントに場所の特定を行い、それが陝西省商絡市沙河子鎮石門溝村(石門溝=Shimengou)であることを突き止め、マグナイヤー記者が取材した事の顛末を確認することができた。

「敬」から「苟」にせよ!

 中国の歴史で「五代十国」時代は、唐末に起こった「黄巣の乱」に乗じて反乱軍から唐に寝返った朱全忠が唐を滅ぼして「後梁」を建国した907年から、趙匡胤が「宋」を建国する960年までを指す。この約50年間に、黄河流域を中心とする華北を統治した5つの王朝(五代)と、華中・華南と華北の一部を支配した諸地方政権(十国)とが興亡した。その五代の中に石敬●(●は王+唐で表記)が建国した「後晋」(936~946年)がある。この石敬●(●は王+唐で表記)は後晋の高祖と呼ばれているが、皇帝の位に就いたものの、当時勢力を振るっていた契丹国に圧迫を受け、国土の一部を契丹国に割譲し、契丹国の皇帝を「父皇帝」と呼び、自らを「子供皇帝」(中国語は「児皇帝」)とへりくだったので、中国では石敬●(●は王+唐で表記)を今もなお「児皇帝」或いは「売国奴」とさげすんでいる。
 
 その石敬●(●は王+唐で 表記)の朝廷に「敬」という姓を持つ大臣がいた。契丹国には忍従してひたすら平身低頭だった反動かもしれないが、ある日、石敬●(●は王+唐)はこの「敬」姓の大臣に、「朕の名にある『敬』の字を勝手に姓として使うとは、不埒千万、皇帝に対して不敬なり」とイチャモンをつけた。そこで、朝廷は「敬」姓の一族全員に、姓を「敬」から「攵」を除いた「苟」と改めるよう命じ、これに従わぬ場合は皆殺しにすることを宣告した。「敬」一族は皆殺しを避けて、敬姓一族の血脈を絶やすべきではないと結論づけ、一族の姓を「苟」と変えた。これと同時に、このような理不尽な皇帝には従っていられないと、一族は連日連夜駆けに駆けて各地へ分散した。

中国でイヌ(gou=コウ)に関することを言う時はご注意を

 ところで、「苟」(gou=コウ)は「狗」(gou=コウ)と同じ発音であり、姓を尋ねられて、「gou」と答えると、誰もが「狗」と理解し、「狗」即ち「犬」を連想する。筆者の手元にある藤江在史氏の名著「ことばから見た中国-不同風―」(1971年発行)によれば、「中国では、犬は人糞を食う、下品で汚くて貪欲な動物で、親子の見さかいなく交尾するという、いわゆる畜生のあさましさという所から、下劣なもの、愚鈍なもの、不倫なもののたとえに使われており、犬に関することを言う場合には、特に気をつけねばならない」とある。

 話は変わるが、筆者がかつて駐在していた広州のある広東省では、その「狗」を食べる。中国で「狗」を食べる習慣があるのは、東北地方にいる朝鮮族、安徽省人と広東人と聞いているが、少なくとも広東の「狗」は食肉用として特別に生育されたものである。広東語では「狗」が数字の「九」と同じ発音なので、「九」を「三」と「六」に分解して、「狗肉」を「三六」と呼ぶ。このため、「狗肉料理店」の前には「三六」という旗が立っているのをよく見かけた。日清戦争などで活躍した清末の政治家である李鴻章が英国から愛玩犬を贈られ、「極めて美味であった」と礼状を出して英国側を驚かせたという逸話も伝わっている。ちなみに、中国語(標準語の「普通話」)では「狗肉」を「香肉」という。

 閑話休題、中国における「狗」の評価はひどいものであり、「狗」と同じ発音の「苟」という姓を持つことになった人々がどれほどつらい思いをしたかは想像に難くない。姓を聞かれて「苟」と答えると、相手は薄笑いを浮かべて「珍しい姓だね、あんたは狗か」と来る。若い男女が好意を寄せ合い、結婚を考えるようになった時、相手の姓が「狗」と同じ発音であることを知った途端に、百年の恋が冷めたかのように去ってゆく。こうした姓の故にさげすまれる光景が綿々と1000年以上にわたって繰り返されてきたのである。

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「「お前の苗字は犬」から1000年」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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