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妊婦が本土からやって来る 
香港が頭を抱える「新生児による占領」

2006年12月1日(金)

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 2006年11月19日午後、香港で大きなお腹を抱えた妊婦20~30人とその夫達を含む70人程の小規模なデモ行進が行われた。彼らは「地元香港の妊産婦の権利を守れ」というスローガンを掲げ、「生みたい時にベッドなし」などとシュプレヒコールを唱えながら、香港の立法機関で議会に相当する「立法会」から香港政府本部までの約1キロの短い距離を、妊婦を気遣いながらゆっくりと進んだ。このデモ行進は「地元香港の妊産婦の権益を勝ち取れ」と主張するグループがインターネットで集会とデモ行進を呼びかけたのに呼応した妊婦たちとその夫たちによるものであった。

11月19日のデモ行進に参加した妊婦達
11月19日のデモ行進に参加した妊婦達

 彼らが唱える「守られるべき妊産婦の権利」とは何か。実は、香港では2001年7月以降、妊産婦を取り巻く環境が徐々に悪化しており、妊婦の定期健診は従来4~6週間に1回だったが、8~9週間に1回と延長され、超音波検査すらまともに受けられない状況が続いている。妊婦が産気づいて慌てて病院に駆けつけても、ベッドの空きがないことを理由に入院を拒絶される。運よく入院できたとしても、出産の翌日にはベッドの明け渡しを要求されて、廊下に設けられた臨時テントに母子ともに移動を要求される、といった事態が多発している。このため、多くの妊婦が帝王切開を選択して出産日を確定することで、病院のベッドを予約せざるを得ない状況に陥っていると言う。

新生児3人に1人が本土から来た母親が出産した嬰児

11月19日のデモ行進の呼びかけ広告
11月19日のデモ行進の呼びかけ広告

 原因は何か。中国本土から妊婦たちが大勢、香港に押し寄せてきているからなのだ。2005年に香港で生まれた嬰児数は5万7098人であったが、この内、中国本土から来た妊婦が香港で出産した嬰児の数は1万9538人で約34%を占めた。新生児3人に1人が中国本土から来た母親が出産した嬰児である、という事実は、地元の香港人にとっては驚異的であると同時に脅威的な数字である。

 中国本土から来た妊婦が香港で出産した嬰児数は、2001年には7810人に過ぎなかった。それが2005年には2.5倍に増加した。この1万9538人のうち9273人は両親ともに香港の居留権を持っていない(ということは、1万0265人は両親の少なくとも一方が、香港居留権を持っていることになる)。中国本土から来た妊婦の出産数は今後も増大する可能性が極めて高く、地元香港の妊産婦が「安心して出産できる環境を取り戻せ」と言う声は切実なものとなっているのである。

香港で生まれさえすれば、居留権が認められる

 香港基本法(正式名称:中華人民共和国香港特別行政区基本法)は、1990年4月4日、中国の第7期全国人民代表大会第3回会議で承認され、香港が英国から中国へ返還された1997年7月1日に発効した。

 この基本法の第3章「住民の基本的権利と義務」にある第24条は、「香港特別行政区住民、略して香港住民には、永久性住民と非永久性住民が含まれる」と規定し、永久性住民を6項目で規定しているが、本稿に関係するのは次の3項目である。

[1] 香港特別行政区成立以前或いは以後に、香港で出生した中国国民
[2] 香港特別行政区成立以前或いは以後に、香港に連続7年以上居住した中国国民
[3] 上記[1]、[2]の両項目に該当する住民が香港以外で生んだ中国籍の子女

 2001年7月20日、香港終審法院(=最高裁判所)は「荘豊源事案」の判決を下した。事件の主役となった「荘豊源」は当時わずか4歳。彼の両親は中国国民で、1997年に旅行者として往復入境査証(香港へ入境した後に中国本土へ戻ることが義務づけられた査証)を持って、親族訪問を目的に香港へ来た。同年9月29日に母親が「荘豊源」を出産。その後、両親は「荘豊源」を香港在住の祖父に預けて中国本土へ戻った。香港政府は「入境条例」に基づき、「荘豊源」を中国本土に送り返そうとしたが、祖父は支援者の協力を受けて、「香港基本法」第24条の規定に基づき「荘豊源」に香港の居留権を賦与するよう訴訟を起こした。

 この事案は2000年に香港高等法院(=高等裁判所)で審議され、「荘豊源」勝訴の判決が下された。だが、香港政府はこれを不服として上告したことで、香港終審法院に最終判断を仰ぐこととなった。香港終審法院は5人の裁判官が全員一致で、「中国国民であっても香港で出生してさえいれば、その両親が香港人であるか否かに拘らず、『基本法』第24条の[1]項に基づき香港の居留権を享有する(=生まれながらに持っている)」との判決を下した。

 要するに、両親が中国国民であっても、その子供が香港で生まれさえすれば、香港の居留権が認められ、香港人とみなされることが法的に認められたのである。

 この判決は人道的観点に立ち、香港人の度量の広さを示した画期的な判決として、当時は海外からも高く評価された。しかしながら、この判決がそれ以降、香港を中国本土の妊婦たちにとっての「出産天国」に変えることになろうとは、判決を下した裁判官たちも夢想だにしなかっただろう。

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「妊婦が本土からやって来る 
香港が頭を抱える「新生児による占領」」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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