• ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

米国の対イラン政策の迷走~背後に在米ユダヤ社会の「分裂」あり

さりげなくも明確な方針転換を宣言したライス国務長官

2007年4月12日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

  2007年2月27日、米上院予算委員会で証言したコンドリーザ・ライス国務長官は、イラク政府が3月10日に近隣諸国を集めてイラクの治安問題を討議する地域会議を予定しており、米国もこの会議に参加する意向であることを明らかにした。

 「イラク政府は広範な近隣諸国との初めての会議を準備しており、それは3月の前半にバグダッドで開催される予定です。招待される国はイラクに近接する国々であり、同じ地域の他の国々、多国籍の国際機関、そして国連安保理の常任理事国のメンバーであり、もちろん米国を含みます。最初の会議に引き続いておそらく4月の前半に大臣レベルでの会議も開催される予定です。ここでは地域の国々、隣接する国々、国際機関や常任理事国に加えて、主要8カ国(G8)のメンバーも加わることになる予定です」

 「イラク政府はシリアとイランも含めたすべての近隣諸国をこれらの地域会議に参加してもらうように招聘していることを指摘したいと思います。私たちはすべての政府がこのイラクとの関係を改善させる機会をものにして、地域の平和と安定のために努めることを願っています」

 こうしてライス国務長官はさりげなく、しかし明確に対イラン政策の転換を宣言したのであった。

ジャーナリストが明らかにした米政府の対イラン秘密工作

 ライス国務長官は年初に行った議会証言では、中東地域が「主流派」―サウジアラビア、エジプトやスンニ派湾岸諸国―と「過激派」すなわちイラン、シリアやヒズボラなどの2つに分裂しているというレトリックを使い、イランやシリアと外交交渉に入るのではなく、むしろ「主流派」との関係を強化・再編成して、「過激派」に圧力をかけて孤立させる方策を取ると述べていた。

 そして米軍は実際にイラクで活動中のイラン人外交官を逮捕・拘束し、またイランからイラクのシーア派武装勢力に渡されているとされる高性能路肩爆弾の部品、迫撃砲やロケット砲を一般公開してイランを非難するなど、一連の「過激派」への圧力を実行に移していた。

 ちょうどこのライス長官の議会証言の行われる直前の2月25日には、辣腕ジャーナリストのセイモア・ハーシュが、ブッシュ政権の対イラン政策に関するセンセーショナルな記事を発表していた。これによると、ブッシュ政権は「方向の向け直し」戦略と呼ばれる新しい中東戦略を実行に移しているということだった。この新戦略によると、サウジ、エジプト、湾岸諸国等の「穏健派」が、イラン、シリア、ヒズボラ、ハマス等の「過激派」の台頭によって動揺しているとして、米国は穏健派勢力との関係を強化し、この国々との同盟を再編成することでイランを中心とする過激派を包囲し、孤立させるというものだった。

 ハーシュはまた、この新たな戦略の一環として、公にはしていないものの、イランを不安定にさせるための秘密工作もあるとしており、実際にチェイニー副大統領周辺が中心となって、サウジアラビアやイスラエルと協力する形でイランに対する秘密工作を開始している、と報じたのである。ブッシュ政権は、中東における最大の脅威をシーア派の影響力増大であると見なし、スンニ派の過激派勢力に肩入れしてでもヒズボラなどシーア派勢力への攻撃の手を強めるという方針を決めたというのである。

 つまり、イランが支援する勢力を弱体化させるために、サウジがバックアップする勢力に対する支援を強化する秘密工作を開始したというのである。

 今年の2月に入ってブッシュ政権は、イラクで米軍を苦しめる爆破装置の部品がイランから入ってきているとしてイランを批判し、とりわけ革命防衛隊が関与しているとして、イランがイラク武装勢力に武器を供給し、訓練を施して米軍の殺害を支援しているという主張を展開していた。ブッシュ政権はつまり、イラクの治安がよくならないのは、イランが介入してイラクの武装勢力への支援を続けているからだという大々的なキャンペーンを行ったわけである。ハーシュ論文によれば、過去数カ月の間に米軍は人道支援活動を行っているイラン人を含めて500人近いイラン人を拘束、逮捕したという。

 またハーシュ論文によれば、「ブッシュ政権はイランの兵器開発プログラムに関するインテリジェンスの分析に力を入れているが、こうしたインテリジェンスの多くはイランで情報収集活動を行っているイスラエルの情報機関からもたらされている」と書いている。さらに米国防総省はイランを空爆するための計画策定にも力を入れている、とハーシュは断言する。

コメント3件コメント/レビュー

ノーマン・フィンケルスタイン(「ホロコースト産業」の著者)やチョムスキーのように、良識あるユダヤ知識人は、イスラエルの現状や米国の中東政策に批判的であることを見ても、このコラムの指摘は的を得ていると思う。ユダヤロビーと在米ユダヤ人の世論の乖離も興味深かった。77%のユダヤ人がイラク戦争に反対であったのならば、大統領選の趨勢は決まったと言えるかもしれない。(2007/04/12)

「世界鑑測 菅原出の「安全保障・インサイド」」のバックナンバー

一覧

「米国の対イラン政策の迷走~背後に在米ユダヤ社会の「分裂」あり」の著者

菅原 出

菅原 出(すがわら・いずる)

ジャーナリスト/国際政治アナリスト

アムステルダム大学政治社会学部国際関係学科卒。在蘭日系企業勤務、ジャーナリスト、東京財団リサーチフェロー、英国危機管理会社役員などを経て、現在、国際政治アナリスト

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ノーマン・フィンケルスタイン(「ホロコースト産業」の著者)やチョムスキーのように、良識あるユダヤ知識人は、イスラエルの現状や米国の中東政策に批判的であることを見ても、このコラムの指摘は的を得ていると思う。ユダヤロビーと在米ユダヤ人の世論の乖離も興味深かった。77%のユダヤ人がイラク戦争に反対であったのならば、大統領選の趨勢は決まったと言えるかもしれない。(2007/04/12)

移民国家であるアメリカにおける世論形成、それが政策決定に与える影響等を、実際に起こっている事象から解き明かし、最近のダイナミックな政策転換を見事に解説している出色のルポだと思う。昨日NB on Lineに掲載された、「上海での立てこもりの解説記事」が指摘していたような、事象を表層のみから扱うような一般の日本のジャーナリズムとは対極にある姿勢だと思う。日本でも今後益々こうした記事が増えることを望みたい。(2007/04/12)

イランに対してアメリカが何故あれほど強硬なのか判らない。この地域がこれほど不安定になったのは、パーレビ国王の亡命を冷淡にはね付けたことに端を発し、その後、フセインにイラン・イラク戦争をさせ、次にフセインが邪魔となり、イラクに侵攻して捕らえ、フセインの絞首刑映像を流す状態になった。今度はイランがアルカイダを支援しているとしてイラン侵攻の体制が整いつつあるようであり、後は何時やるかだ。だが、アフガンも再び不安定化し、パレスチナは相変わらずイスラエルが攻撃の手を止めず、荒れ狂っており、アルジェリアからはテロ発生のニュースが流れ、モロッコのカサブランカでも血なまぐさい事件が発生している。パキスタンも種々の事件が起きている。これではインド洋から地中海の西端まで大荒れと云うことであり、北朝鮮などかまっていられない。今やアメリカはすっかりイスラム世界を敵にしてしまったようであり、いくらサウジアラビアの王族を籠絡しても、もう限界だろう。これではアメリカのユダヤ人達もニューヨークが第2のウィーン・ベルリンとなりかねず、危機感が募って来たのだろう。(2007/04/12)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

日本の経営者は、経験を積んだ事業なら 失敗しないと思い込む傾向がある。

三品 和広 神戸大学教授