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成長著しいイスラム金融に乗り遅れるな

  • 田中 保春

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2007年8月9日(木)

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 近年の原油高を背景とする湾岸産油国の好調な経済成長に伴い、イスラム金融市場が急拡大している。日本でも今年1月に「イスラム金融セミナー」が国際協力銀行の呼びかけで開かれ(イスラム金融サービス委員会主催)、250人の参加者を集めた。またイオンの金融子会社、イオンクレジットサービスが今年1月に日系企業としては初めてイスラム金融型の手法で資金調達をして注目されたのも記憶に新しい。

 しかし、改めて現実を見ると、イスラム金融を戦略的にとらえる日本の民間企業は、タカフル(イスラム保険)をサウジアラビア、マレーシア、シンガポールなど現地の市場で元受け事業や再保険を展開している東京海上日動火災保険などごく一部の企業で、あとは皆無に等しい。

 サウジアラビア王国の首都リヤドに勤務する筆者は、今夏に日本へ一時帰国した際に東京の大手書店に足を運んだが、イスラム金融に関する日本語の書籍は皆無であった。書籍がないからどうだとは言えないが、欧州、とりわけ英国に比べると、日本ではイスラム金融の認知度がまだまだ低いと実感した。筆者は、このままでは、成長著しいイスラム金融でのビジネスチャンスが欧米の有力銀行や地元の金融機関にすべて占有され、日本企業が参入できる余地はほとんどなくなるのではないかという懸念を持っている。

イスラム金融の中心はバーレーン

 ブルームバーグの報道によれば、イスラム銀行の資産やイスラム型運用資産の世界のイスラム金融資産の総額は3000億米ドルと推定される。シンガポール金融監督庁(MAS)の推計による数字だ。
 イスラム金融の中心拠点はバーレーンである。中東では1990年代からバーレーンに、欧米系の有力金融機関がイスラム専門の銀行を設立しイスラム金融を展開してきた。バーレーン中央銀行によると、バーレーンにはイスラム金融専門の銀行が24行(5商業銀行、3オフショア銀行、16投資銀行など)があり、資産総額は44億ドルに達している。

 そのため、イスラム金融の国際基準や国際協力などを機能とするイスラム金融サービス委員会(Islamic Financial Services Board 、IFSB)やイスラム債券の格付け機関である国際イスラム格付け機関(International Islamic Rating Agency 、IIRA)など多くのイスラム金融の国際機関がバーレーンに拠点を構えている。近年ドバイにおけるインフラの発展は目覚ましいものの、イスラム金融ではバーレーンが先進国であり、湾岸産油国にあるイスラム金融機関の3分の2はバーレーンに拠点を置く。インフラ・情報面からもバーレーンは依然優位なポジションにあると言える。

 バーレーンのインターナショナル・イスラミック・ファイナンシャル・マーケット(IIFM)によると、世界のイスラム債券(Sukuk)の発行額が近年急増傾向にあり、2006年度には241億米ドルに達した。米格付け機関ムーディーズ・インベスターズ・サービス、ドイツ銀行などの公表予測によると、2007年には500億米ドルに達すると推定されている。(2007年7月30日付日経新聞)

非産油国に広がる「イスラム債」

 こうしたイスラム債(Sukuk)はイスラム諸国の金融機関、投資ファンド、個人投資家などに販売されているが、イスラム国内での発行にとどまらず近年はロンドンなど、非イスラム諸国で起債されるケースも増えてきた。
 例えば英国ではイスラム金融が急拡大しており、英政府も「イスラム諸国との関係を強化し、ロンドンをイスラム金融のゲートウェイにする」と公表。また、今年4月にはシャリア(イスラム法)に即した英国債を発行する方針まで決めた。

 そこには、イスラム金融の規模拡大を通して、ロンドンの国際金融市場の競争力をさらに高めようとする英国政府の狙いがある。

アジアの主役はマレーシアとシンガポール

 アジアでは、今年3月にクアラルンプールでマレーシア中央銀行主催による「グローバルイスラム金融セミナー」が開催され、中東諸国とアジア諸国とのハブ機能をマレーシアが担い、発展させていくというマレーシア政府の明確な戦略が公表された。

 ブルームバーグの報道によれば、マレーシアは1990年代から官民挙げてイスラム金融を育成しており、2000年から2004年までのイスラム銀行産業の成長率は年率19%に上った。Public Ittikal Fundなど、規模の大きなイスラム金融型の投資ファンドの大半が、マレーシアで組成運用されている。 

 マレーシア中央銀行は、国際通貨を使ったイスラム金融による収入に対して10年間免税とする方針まで発表しており、ウェブサイトでもイスラム金融に関する統計を公表している。またイスラム開発銀行など世界中のイスラム型金融機関に専門家を派遣しており、多くのイスラム金融機関がマレーシアをモデルにしている。

 一方、シンガポール政府もマレーシア政府同様に、官民挙げてアジアのイスラム金融センター(ハブ)を目指し、マレーシアと競合している。(インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの記事「Singapore to cultivate Islamic finance sectorと、国際品質生産性センターのホームページ」参照)。

 経済発展が続くアジア諸国のインフラ整備には多額の資金調達が不可欠なため、中東産油国からの資金を最大限に活用するのが主な狙いである。

 また、中東産油国の運用資産拡大も大きな狙いだ。リテール分野では、15%を占めるイスラム人口に対して、オーバーシーズ・チャイニーズ銀行(OCBC)は「ザカート」(喜捨)をイスラム銀行口座から自動的にイスラム宗教委員会に振り込む制度を2004年10月から開始した。また、シンガポール政府は従来型の金融取引に対するインセンティブをイスラム金融取引にも適用し、ユーザーがどちらを選択しても不利にならないようにしている。

発展途上のイスラム金融

 各国が対応にしのぎを削るイスラム金融だが、その歴史はまだ浅い。サウジアラビアのイスラム型最大手銀行アル・ラジヒ銀行の幹部の話によると、「イスラム金融は1970年代から始まったとされており、いまだ試行錯誤の段階にあり、現在の形が完成形ということは全くない」という。 

 歴史をひもとくと、1973年の石油ショック後、サウジアラビア・ジェッダに世界中のイスラム諸国への経済援助・支援を目的にイスラム開発銀行(Islamic Development Bank=IDB)が設立された。その後、1975年にはドバイで民間イスラム金融機関であるDubai Islamic Bank (DIB)が設立された。このDIBが、イスラム金融型の預金・貸し出しの原型と言われている。

 そもそも、イスラム金融は不労所得である金利を禁止し、シャリア(イスラム法)に反する概念を排除するものであるが、例えば新商品を開発するために使われる金融手法がシャリアに反するかどうかはシャリア学者によっても意見が分かれることが多く、絶対的なものではない。時代の変化とともに解釈が変わることもあり得る。

 イスラム金融と利潤追求は矛盾するものでは決してなく、むしろ利潤追求は美徳と認知される概念もある。問題は、資金提供者がリスクを冒さずに利子のような不労所得を得ないシステムを構築することになる。

イスラム金融が注目される背景

 イスラム金融が近年大きく注目されるようになった一番の理由は、湾岸諸国の原油収入の拡大と域内経済の活況という背景があったからであろう。そのうえで、おおむね、以下の3つの要因が考えられる。

(1)2001年の米国同時多発テロ事件後、湾岸産油国の民間資金は資産凍結を恐れ、欧米市場、とりわけ米国市場には向かわなくなり、アラブ域内に投資される傾向が続いた。
 これは単に金融資産だけの問題ではなく、人的交流についても同様だ。テロ事件までは米国の大学などで学ぶ中東産油国からの学生数はサウジだけでも年間数万人という規模であったが、米国の対中東政策・外交方針に対するアラブ社会からの反発や、欧米におけるイスラム社会に対する対応変化などから、イスラム回帰とも言える傾向がアラブ社会で強まっている。

 こうした状況の中、ムスリムとしての遵法精神が近年ますます重視され、従来型のファイナンスよりもイスラム型金融を選択するという傾向が強まっている。

(2)5年程前には従来型(非イスラム型)の金融商品や金融スキームしかなかったが、近年様々なイスラム金融商品が開発され、商品化された。その結果、投資家および資金調達者は従来型商品とイスラム金融型商品の両方を比較検討できるようになっている。またイスラム金融型商品が多様化されるにつれて従来型に比較しても遜色なく、従来型よりも有利な条件で資金調達ができるケースも出てきた。そのため、イスラム金融への需要がさらに強まっている。

(3)湾岸産油国の経済が急拡大した結果、域内の有力企業による資金調達規模が急速に拡大している。例えば、近年欧米の有力企業や事業を積極的に買収しているサウジアラビアの上場企業SABICは、2006年発行の総額30億ドルのイスラム債(Sukuk)に続き、今年7月には総額22億ドル規模の第2回イスラム債を発行した。
 
 SABICは今後2年間に総額200億ドルの資金需要を見込んでいるが、すべてイスラム金融型で対応する予定である。また、サウジ電力が発行する総額50億サウジリヤル(13.7億ドル)規模のイスラム債券発行についても、HSBCサウジアラビアがアレンジを進めている。

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