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一般庶民にはもう「上海蟹」は食べられないのか

富裕層の拡大で人気は上昇するも、産地の汚染で供給が減少

2007年10月5日(金)

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 中国では毎年9月下旬頃から「上海蟹」の季節が始まる。「上海蟹」は日本での通称であり、英語も"Shanghai hairy crab"と「上海」を冠するが、中国では「大閘蟹」(だいこうがに)と言う。

 「大閘蟹」は学術的には「中国藻屑蟹」(ちゅうごくもくずがに)であり、同種の蟹は中国各地に生息するが、特に美味とされる江蘇省の「陽澄湖」及び隣接する「太湖」などで産出されるものを「大閘蟹」と呼んで他地域産の蟹と区別している。当然ながら、「大閘蟹」は販売価格も他地域産に比べて大幅に高い。

美味しい蟹の季節到来

 大閘蟹は蒸して食べるのが通例だが、死んだ蟹はヒスタミンという毒素による中毒が起こる可能性があることから食べない。従い、大閘蟹は鋏を縛って生きたまま売られているが、かつての北京では何匹もの大閘蟹を藁で括ったのを道端で売る蟹売りが秋の風物詩となっていたものである。蒸し上がった大閘蟹の肉が美味であることは勿論だが、醍醐味は何と言っても蟹味噌と卵である。体形の大きな雄は蟹味噌、小振りな雌は卵が特長である。

  1997年の秋だったと記憶するが、中国の広州に駐在していた筆者は香港で「大閘蟹宴会」に参加する光栄に浴した経験がある。この宴会は、親日家で香港の大手建設会社の経営者であった于元平氏が香港の日本人社会との懇親を深める目的で毎年開催していたものである。

 「大閘蟹宴会」は大閘蟹の季節になると于氏が経営する香港島の繁華街にある中華料理店で約1カ月間にわたって連夜開催され、香港に駐在する日本総領事館や大手企業などの日本人が組織毎に10人くらいを一組として順番に招待された。筆者は幸運にも招待客の1人に加えて頂き遠路はるばる広州から参加したものであった。

椀子そばのように蟹を食う

 「大閘蟹宴会」は実に変わった宴会であった。すべての招待客がテーブルの上に中皿と箸、さらに生姜と酢が入った小皿が置かれた席に着くと、サービス員の女性がマンツーマンの形で客の横に立つ。宴会が開始されるや、女性は用意された蟹の山から攫み出した1匹の蟹から8本の手足を鋏で器用に切り落とし、胴体だけを客の皿に置く。

 客は皿に置かれた蟹の胴体から箸で蟹味噌、卵、肉を摘んでは口に運ぶ、蟹料理の常だが、この間誰もが無言で食べることに集中している。客が1匹を完食するや、女性が待ってましたとばかり、既に手足を切り離した蟹の胴体を皿の上にサッと載せる。

 美味いから客は透かさず新たな胴体の解体作業に取り掛かる。招待客の誰もがひたすら蟹に貪りつくといった表現がぴったりの情景が続く。それはあたかも強飯式(ごうはんしき)とか椀子蕎麦(わんこそば)という感じで、蟹の胴体を食べ終われば新たな胴体が皿に置かれるのだ。

上海蟹

 最初は美味しいと頬張っていた客たちも蟹が5匹目くらいになると解体作業の速度は緩慢になり、6匹目になると脱落者が出始める。筆者は8匹を完食した時点で傍らの女性に満腹宣言を行って蟹の供給を止めてもらったが、その日は若手の10匹完食が最高だった。

 招待客が蟹を食べ終える時刻になると宴会の主人である于元平氏が現れ、客たちと一緒に腹ごなしのお粥を食べながら懇談して宴会は終了した。宴会のお土産は切り落とした蟹の手足を箱詰めにしたもので、スープの出汁用として全員に手渡された。

 招待客は1晩のことだが、于元平氏の会社に数人いた日本人役員は、毎晩開催される宴会に主人側として交代で参加することが義務づけられていたようで、「1カ月間の半分は夕食が大閘蟹宴会で、夢の中にまで蟹が出てきます」と苦笑いしていたのが思い出される。

高温が続きアオコが異常発生

 さて、大閘蟹の産地である「陽澄湖」や「太湖」では、今年の春から続いた高温により5月頃から湖水の富栄養化が進みアオコ(=藍藻類)が異常発生した。このため「太湖」を水源とする江蘇省無錫市では5月末に水道水が汚濁して異臭を放ったことから給水が停止され、200万人以上の市民が1週間以上にわたってペットボトルの水に頼る生活を余儀なくされた。

 この原因はアオコが取水口にまで進入し浄水場が機能しなくなったことであり、アオコが生産する毒素の水中濃度が高まったことにあった。無錫市政府は取水口周辺からのアオコの除去に最大限の努力を傾け、給水停止から1週間後には安全宣言を行って給水を再開したが、水道水の水質に対する市民の不信感はいまだに払拭されていない。

 市民生活に直結する水道の給水停止という非常事態の発生を重く見た江蘇省政府は、富栄養化の原因である工場廃水や生活汚水の監視を強化し、太湖周辺で環境基準を上回る廃水を垂れ流していた工場の強制閉鎖を指示した。

 これらの状況は中国メディアによって大きく報道されたが、富栄養化の重大な要因の1つが大閘蟹であるという事実は隠蔽され、婉曲な形でしか報道されていない。湖水の富栄養化と大閘蟹との関係とは一体何なのか?

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「一般庶民にはもう「上海蟹」は食べられないのか」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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