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レジャー超大国、中国(2)
~外灘で記念撮影する特別な意味

  • 中村 正人

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2007年11月12日(月)

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 (前回から読む)

 前回、上海を代表する観光スポット、外灘に集まる中国人観光客の実況を試みた。彼らの見せてくれた古き良き大陸的な土の匂いやほのぼのとした風情は、中国に対して何か物申してやりたいという日本人の心にも、どこか届くところはなかったろうか。

 こうした光景は、中国最大級の歩行者天国・南京東路や人民広場あたりでもお目にかかれるのだが、その密集度でいえば、外灘の遊歩道にはかなわないだろう。

外灘の遊歩道は人ごみでぎっしりだが、地方の人間ばかり

外灘の遊歩道は人ごみでぎっしりだが、地方の人間ばかり

 それにしても、だ。なぜ彼らはわざわざこの場所に来て記念撮影をするのか。

 あらためて中国人の上海旅行における外灘の位置づけを整理しておく。

 目指すは「Better City, Better Life(より良い都市へ、より良い生活へ)」(2010年開催予定の上海万博のテーマ)。そんな中国の近未来を、先取りしてストレートに実感できるのが、外灘から眺める浦東地区の摩天楼群だ。まさにそこは中国の夢を映し出す巨大なオープンシアターだ。

 巨大な地球儀のようなプレスセンターやロケット型をした東方明珠電視塔の「レトロモダン」な風景を目にするたび、そういえばぼくらもかつてこんな近未来を夢描いていたっけかな。そんな感慨をある年代以上の日本人は覚えるかもしれない。それをどこまで承知か知らないが、上海人もこの世界的に有名な景観を、ちょっと傍観者的に「阿童木的世界(アトムの世界)」と呼んでいる。

 上海市政府は旧市街の外灘を歴史保護地区に指定し、夜にはライトアップするなどショーアップを試みた。それでも、浦東の高層ビル群の現代的な鮮やかさに比べ、年代ものの石造建築はかえって貧相に見えてしまう。この新旧中国を象徴する「歴史的景観」を一目見ようと全国から観光客が集まってくるわけだが、彼らはたいてい黄浦江を挟んで対岸の浦東地区を背景に記念撮影を楽しんでいる。過去ではなく未来の風景と一緒に写真に収まるのである。

自分の未来と記念写真

 だが、そんなに素直な人種ではない上海人たちは、たいていこう言う。「外灘? あんなところ、私は絶対行かない。だって田舎モンばっかじゃん」。田舎嫌いの上海人にとって、冗談抜きで、外灘は決して足を踏み入れたくない場所のひとつらしい。

 そうでなくとも、外灘からの摩天楼の眺めについて上海人がイメージするのはもっとシニカルなものだ(【わかるかも中国人】~新しい摩天楼のリアルとは何か?)。彼らはまっすぐに未来を信じているわけじゃないから。

 ただ、地方からやって来た観光客は違う。彼らがここで記念撮影することには特別な意味があるのだ。

 どんな意味があるというのか。種明かしというわけではないが、今回の外灘の観光客撮影には前例がある。写真集『胡同―北京の下町の路地』(平凡社刊)で知られる北京在住の写真家・徐勇氏が、2006年に発表した作品集『布景和布景(Backdrops and Backdrops)』で行った方法をそのまま採用させてもらったのだ。

『布景和布景(Backdrops and Backdrops)』の作品展は、2006年9月北京の大山子芸術区の「Timezone 8 Art Books」画廊で開かれた

『布景和布景(Backdrops and Backdrops)』の作品展は、2006年9月北京の大山子芸術区の「Timezone 8 Art Books」画廊で開かれた

 徐勇氏は、天安門事件の翌年(1990年)から再開発の進む北京の古い下町(胡同)の写真を撮り続けてきた。その彼が昨年に発表したのは、北京の天安門広場と上海の外灘という中国を代表するシンボリックなスポットで、無邪気に記念撮影に興じる何百組もの観光客の姿を撮り集めたものだった。

 彼は何を意図したのか。作品集の解説によると、さまざまな土地から来た年齢も職業も階層も異なる観光客の表情や服装、しぐさといった身体言語を通して中国の現代社会生活を記録するエスノグラフィー(民族誌)の試みだったという。旅行中という日常から切り離された瞬間に見せる、現代中国人の素顔を通して彼らの実像を捉えたいと思ったのだ。

 ここで重要なのは、撮影の舞台に中国政治の中心・北京、経済の最前線・上海という両極を選んだことだ。作品集のタイトルで使われる「布景」は、日本語でいうと、写真館のセットのような意味合いである。

 作品をお見せできないのが残念だが、北京と上海、この両都市の観光客たちが見せる表情やしぐさは明らかな違いを見せている。

「オレって勝ち組?」

 北京では、観光客たちは(背後に警備兵がいるせいもあるのか)政治的儀式を執り行うような「庄重(まじめで慎重な)」表情を見せる。なかには地方の共産党の幹部だろうか。毛沢東の肖像写真を片手に掲げる女性もいる。その表情からは偉大なる中華人民共和国建国の「歴史的時間」を追体験するかのような、ある種の高揚感が読み取れる。

 対して、上海の観光客たちはリラックスそのものだ。なかには恋人を抱き上げる浮かれたカップルも登場する。「ニューリッチ」消費の最先端・上海は、まだそれが実現していない地方からやって来た観光客にとって未来の象徴なのである。いつか自分たちもその豊かさを手に入れられるはずだと信じるためにこそ、外灘で記念撮影をするわけである。

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