海賊版による普及がきっかけだったということもあって、当の日本人もあまり知らぬ間に、中国では日本動漫(アニメ・漫画)が若者文化の核のひとつを占めるようになっている。
ただし、この流れに頭を痛めているのは、著作権の所有者である日本の動漫関係者ばかりではない。もっと危機感を抱いているのが、中国政府である。
自国の未来を担う若者や子どもが、日本から流入した動漫の影響を多大に受けて育っている。
日本動漫が若者たちの精神文化の形成に与える影響力の強さ。日本動漫が牽引する動漫市場の大きさとその成長ぶり。中国政府は、一刻も早く自分の力でサブカルチャーであり巨大産業でもある動漫を育て、中国独自の世界をこの市場でも確立しなければならない、と考えた。
そこで中国では今、日本の動漫に対抗すべく、国を挙げて国産動漫産業の確立に邁進している。政府組織の中でもとびきり保守的な国家教育部までをも含めた、すべての中央行政省庁が協力し、あらゆる側面から中国国産動漫産業を振興しようと必死なのだ。
その象徴の一つが、全国の大学など高等教育機関に動漫にかかわる学科を次々と設置している、という事実である。
全高等教育機関の75%がアニメにかかわりを持つ
2007年2月21日の新華網(ネット)は、テレビや映画等の情報発信を管轄する中国の最高政府機関、国家広播電影電視総局の宣伝管理司長・金徳龍の発言をこう伝えている。
「国家教育部(日本の元文部省に相当)の統計によれば、現在全国には447の高等院校(高等教育機関)が動画専業を設置しており、1230の高等教育機関が、何らかの形で動漫とかかわるような学系を開設している」
「専業」とは日本の大学の「学科」に近いが、少々異なる。というのも、中国の大学には、日本の大学でいうところの「学部」がなかったからだ。1949年の新中国建国以来、中国では、教育研究に関する組織をすべて旧ソ連のアカデミー方式を模倣して設置した。そのため、10ほどの学問領域の下に「学部」を置かず、いきなり「専業」という専門領域を設置した。「専業」の数は最も多い時期では数千に上った。さすがに多すぎるというのでその後整理されて専業の数も減り、また専業の上の分類として学系が、その上の分類に学院などの教育組織が設置されるようになった。
中国においては、大学や専門学校のような高等教育機関を総じて「高等院校」と呼んで分類している。その中には4年制大学のような「本科」と、2年制あるいは3年制の「専科」の学校とがある。2005年データでこうした全日制高等教育機関は1731校あり、社会人向けの成人高等教育機関が505校あるので、先の金司長の発言にあった高等教育機関(高等院校)は合計2236校あることになる。そのうちの1230校が、何らかの形で動漫専業とかかわり、447校が動漫専業を設置しているわけだ。
つまり、中国の全高等教育機関の「75%」が、動漫専業にかかわっていることになる。いかに政府が動漫産業の確立に必死であるか、この「75%」という数字を見ればお分かりいただけるだろう。
海外における日本動漫の勢いを知った日本政府は、今さらのようにあわてて2002年に内閣府が知的財産戦略会議を立ち上げ、2004年にはコンテンツビジネス振興政策を打ち出した。それ以来、経済産業省にもメディアコンテンツ課が設けられ、文部科学省の文化庁芸術文化課では、メディア芸術の振興を図る動きに出ている。その結果、アニメや漫画あるいはデジタルコンテンツ関係の学科を置く大学も増え始めてはいる。
しかし、政府や大学レベルで比較する限り、中国の意気込みや熱気とは性格を異にする。
日本の動漫の影響力が、中国の国策を動かした
繰り返すが、中国では大学挙げての動漫教育が、国家の号令によって凄まじい勢いで進行している。中国政府はまさに国策として中国国産の動漫産業を振興させていこうと考えている。逆に言えば、中国政府がそこまで焦るほど、日本の動漫は、中国産動漫を押しのけて中国全土を席巻し、若者たち子どもたちの頭の中を占めるようになってしまったということなのだ。
私は1980年代の後半から中国国家教育部と提携して『中国大学総覧』(改定後の書名は『中国大学全覧』)を日本で出版し続けてきたが、最初に手がけた時は、中国でようやく各大学に設置されている専業に関する統計が出始めた頃で、「動画」という名称の専業は設置を許されてはいたものの、もちろん盛んではなかった。中国の大学の動画専業分野に変化の兆しを感じ始めたのが、1996年頃のことである。
中国国際放送の日本語課では毎年新年企画として紅白唄比べ知恵くらべ、という紅白歌合戦を参考にした番組をやっています。アニメ主題歌の登場もちかいかな?(2007/11/27)