「2007→2010 上海マーケティングツアー 」

レジャー超大国、中国(5)
〜空気を読まない中国人、空気しか読めない日本人

デジイチぶらさげ、街角モデル撮影会。上海人の初々しいホビーライフ

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2007年12月4日(火)

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 前回は、上海にある“日本の80年代”的な場所を訪ね歩いてみた。巨大な屋内スキー場など、いかにもバブリーなスポットだった。

 象徴的な場所を押さえると、確かに話はわかりやすい。だが、「上海マーケティングツアー」のガイド役としては、もっと人間寄りの日常的な風景から時代の気分を感じ取ってみたい。そこで、今回は上海人がたしなみ始めた趣味の世界を覗くことにする。人が何かに夢中になってる姿というのは素直な気持ちが見えやすいから。彼らの“80年代”的世界とぼくらのそれのどこが似て、どこが違うのか。そんなこともミクロな視点で考えてみたい。

 こんなエピソードから始めよう。昨年の夏、上海の街角で偶然見かけたものだ。

 路上に人が群がっていた。上海では道端の口ゲンカや交通事故なんて日常茶飯の話。彼らの流儀は口論しても手は出さないことだ。審判の判定に抗議するサッカー選手みたいに、顔を突き合わせ、ののしりあう光景がよく見られる。

おなじみの口げんかかと思いきや

 気がつくと、見物人がののしり合いを取り囲んでいる。当事者らは、自分の正当性を観衆に向かって主張し、見物人はにわか裁定役になる。現場はいっそう盛り上がる。もっとも、こういう流儀は上海人同士の場合に限られる。もし、相手が地方出身者とわかれば、上海人はめったに口撃を仕掛けたりしない。相手が手を出すことを怖れるからだ。

 そうした場面に出くわすと、野次馬気分になって、つい覗いてみたくなるものだ。その夏の日も、遠目には口ゲンカかと思われた。ところが近づくにつれ、「??」。人混みをかきわけ中に進むと、「おやっ」。ちょっと意外、女の子がモデル立ちをしているではないか。

人混みの先にあったのは、モデル立ちの女の子

人混みの先にあったのは、モデル立ちの女の子

 場所は、国営工場跡に地元の美術家たちのアトリエやデザイン事務所が並ぶ莫干山路(「わかるかも中国人」第6回で紹介)の一角。外国人や上海のおしゃれな若者が集まるスポットだ。なのに、そこにいた一群の人たちは、普段このあたりで見かけるタイプとは違う、ちょっとサエない感じだったので、何事だろうかと思ったのだ。

 上海市内のカメラ愛好会が主催するモデル撮影会だった。ネット上で出会った趣味のサークルだという。そのオフ会で、いま上海で最もクールといわれる莫干山路にモデルの子を呼び、写真を撮りまくろう、という企画だったのである。

 モデルの子たちを取り巻く人の群れは、カメラ小僧だったのだ。みんなキヤノンやニコン、ソニーといった高級デジタル一眼レフカメラを手にしていた。小僧というには、結構歳を食っていそうなオジサンも交じっていたけれど。女性会員もいたし。

 日本のモデル撮影会は、通常、多数のモデルを抱える芸能事務所や撮影スタジオが企画する。システム完備、料金も明朗会計の世界。この妙に手馴れたビジネスライクな感じはおそらく日本独特だから、外国人が見たらさぞかし好奇心をそそられてしまうに違いない。

 それに比べて、上海のモデル撮影会は、初々しさにあふれていた。

 カメラ小僧たちは、ふたりのモデルにあれこれ注文をつけ、彼女たちも愛想よくそれに応え、気持ちよさげにバシバシ撮られまくっていた。「こんなことできちゃう、ボクたちって楽しそうでしょ」。厭味はないけど、傍で見ていると、どこか得意げな雰囲気。最近は安価になったとはいえ、コンパクトデジカメではなく、デジタル一眼レフを手にできる彼らは、それなりに経済的に余裕のある層だろう。

 ぼくもデジカメをポケットに忍ばせていた。ここはオトボケ外国人の悪ノリということで、ずうずうしくも彼らの列に加わり、撮影をさせてもらうことにした。

最近は中国にもモデル養成学校がある

最近は中国にもモデル養成学校がある

 撮影場所は次々に移っていく。モデルたちは廃墟然とした倉庫の前に立たされ、物憂げな表情を見せたり、レンガ造りのカフェの前でアイドル風のポーズを取ってお茶を飲んでみたり。ふたりの女の子のタイプは対照的で、ひとりは小柄な妹系、もうひとりはスタイルのいいアネゴ系。これは日本でもいえるのだろうが、こういうアマチュア撮影会に現れるモデルには、どことなくB級感が漂っている。

 写真を撮るのも、撮られるのも大好きな中国人のことだから、撮影会は和気あいあいとした雰囲気のなかで順調に進んでいくものと思われた。ところが、次第に状況は変わり始めた。一部の小僧たちが妹系の子にばかりカメラを向け始めたからだ。

モデルのご機嫌がだんだん悪化

 これはどうしたことか。もともと上海人男性の女性の好みは、成熟したタイプをよしとしたのではなかったか。以前なら日本のアイドル歌手を見て、幼すぎるとバカにしていたはずだったのに。消費社会の進展とともに、彼らの男性性もまた脆弱化してしまったのか。

妹系のモデル撮影に熱中する上海のカメラ小僧たち

妹系のモデル撮影に熱中する上海のカメラ小僧たち

 理由はさておき、だんだんアネゴ系の彼女が不機嫌になっていくのはわかった。そして、突然フンとその場を立ち去ってしまったのである。

 いったいどうなるのか……。部外者ながら、ぼくはハラハラした。誰が彼女を引き止めるのか。でも、誰もそうしなかった。何事もなかったように撮影は続くのだった。

 カメラ小僧たちのあまりの無頓着ぶりに、これはどうしたこと? とその場に居合わせた女性会員に目配せしたら、彼女はしらけた感じでこう言った。

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著者プロフィール

中村 正人(なかむら・まさと)

編集者。1963年生まれ。立教大学社会学部卒。出版社勤務などを経て2004年からフリーに。専門は観光関連業界のビジネス動向、最近は訪日中国人旅行市場に関心を持つ。また東京池袋界隈の在日中国人事情にも詳しい。主な著書に、『最新データで読む産業と会社研究シリーズ トラベル・航空』『ホテル』『図解 中国の地域性がわかる本』(産学社)『行きたい街を歩く 上海・蘇州・杭州』(西東社)など



このコラムについて

2007→2010 上海マーケティングツアー 

生産拠点から巨大市場として注目されてきた中国。そこで何が、どうして、支持され、売れていくのか。2010年の中国市場を先読みするための、最先端市場現地レポート。

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