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「クレヨンしんちゃん」盗作疑惑の背景に見えてくるもの

国産アニメ生産量指標が現場を「金縛り」にする

2007年12月12日(水)

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 2007年4月11日、中国共産党の機関紙「人民日報」のウェブサイト「人民網」をはじめとする中国国内の数多くのウェブサイトが、先に「新聞午報」が伝えた国家広播電影電視総局(国家広電総局)の公開情報を、一斉にアップした(「新聞午報」というのは、元「解放日報」管轄下の晨報(朝刊)、晩報(夕刊)等の区分のうち、「正午」に出される新聞のこと)。

 その内容の大部分は、「2006年度全国テレビアニメ発行許可証審査状況に関する国家広電総局による通告」(以下2006年度通告と略称)の中に書いてあるものである。

 つまり、前項ですでに紹介した「国家動画生産基地に対し毎年成績評価をすることと、毎年3000分間のアニメ生産量という生産指標を課す」というものだ。以上の生産指標に達しない“不良基地”に関しては、他の要素も勘案しながら基地資格を剥奪し、国産テレビアニメ発行許可証を取り上げるという、関係者にとってはかなり厳しい「通告」である。
 私は、この「通告」自体ではなく、通告に関する新聞の評論記事内の表現、“緊箍咒”という言葉に注目した。

人民日報が取り上げた「金縛り」とは

 その言葉は、こんな一文の中にあった。

「国家広電総局は、全国の各動画産業基地に“緊箍咒”を与えた」

「緊箍咒(Jin-Gu-Zhou、ジン・グー・ゾウ)」とは、西遊記の中で三蔵法師が孫悟空に言うことを聞かせるために唱える呪文で、いわゆる「金縛りの術」のことである。中国では「人を服従させるための有効な手段」の喩えとして、よく用いる言葉だ。

 冒頭に記したように人民網は人民日報のウェブ版である。かつて中国の庶民たちは「人民日報に書いてある記事で正しいのは日付だけ」というブラック・ユーモアを用いて揶揄するほど、人民日報は政府側の広報機関紙とみなされていたが、最近の人民日報、特にそのウェブ版である人民網は、政府の耳に多少痛いことでも、真実を求めて、けっこうズバズバ書くようになってきた。

 その人民網に、「新聞午報」からの転載記事ではあるものの、こういう政府批判的な表現を平気で載せるというのが、私の注意を惹いたのである。すなわち、これはよほど看過できない現象である、ということを意味しているからだ。そうでなければ、さすがの人民網も取り上げないだろう。

 2006年度通告には、「海外のアニメに加工や修正を施すようなことは絶対にしてはならない」と厳しく書き、かつ八一電影制片廠(制作所)が日本のアニメを改修して「玲歴冒険記」を制作した罪により、「国産テレビアニメ発行許可証」を剥奪したと明記している。

 「八一」という文字が記されている、ということは、これは中国人民解放軍系列のアニメ制作会社だということになる。8月1日は中国人民解放軍の建軍記念日だからだ。それが日本アニメを盗作して国産アニメを制作していたというのである。政府の許可番号は「軍動審字〔2006〕第001号」(軍は解放軍の軍、動は動画の動、審は審査の審、字は編成番号を指す)。ちなみに盗作された日本のアニメの名前は書いてない。

 2006年通告は、ほかに上海録像影視公司・上海文広新聞媒傳集団・広東安利偉影視制作有限公司の提携により制作されたアニメ「虚幻勇士」(許可番号:動審字〔2006〕第008号)も偽の国産アニメ、すなわち日本アニメの盗作であるという理由で、発行許可証を取り上げられたとある。

 2007年7月27日、日本の読売新聞でも、中国における「クレヨンしんちゃん」に関する盗作疑惑が報道された。読者の方の中には、中央電視台が放映した中国産アニメ「大嘴巴」(大きな口のドゥドゥ)が、日本の「クレヨンしんちゃん」の模倣ではないかという疑惑が起きていることをご存知の人もいらっしゃると思う。それ以外の中国産アニメに関しても日本アニメからの盗作疑惑はいくつも起きている。日本ではあまり報道されてないが、中国では、若者たち子供たちが日本のアニメと中国のアニメの両方を直接見ているので、ウェブ上でも厳しい批判が飛び交っている。

「クレヨンしんちゃん」問題はなぜ起きたか

 特に「クレヨンしんちゃん」は、連載(「クレヨンしんちゃん」にハマる中国の母娘)でも触れたように、中国では親子いっしょに楽しめるアニメとして大人気である。中国では「しんちゃん」の下半身が丸出しになるような「きわどい画面」にはあらかじめモザイクが大きくかかっていて見えなくなるため、日本のPTAが激怒して「ワースト・アニメ」のレッテルを貼った、といった事態も起きていない。

 かくして、中国では親も子どもも「クレヨンしんちゃん」を熱心に見ており、その一部始終を詳細に記憶している。そのため、2007年5月にそっくりの国産アニメ「大嘴巴」が放映されると、中国のネットは「中央電視台ともあろうものが、なぜこんなことをするのか」「国家の恥だ」「私たちは国の何を学べばいいのか」といった激しい非難で埋め尽くされたのだった。

 なぜ、こんな盗作問題が頻発するのか。

 それこそはまさに、政府による「金縛りの術(緊箍咒)」があるためだと、先の新聞報道は示唆しているように読み取れる。

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「「クレヨンしんちゃん」盗作疑惑の背景に見えてくるもの」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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