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ゴールデンタイムの「外国アニメ放映禁止令」が投げかけた波紋

中国のネット世論が政府直属テレビ局を動かす

2008年1月9日(水)

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 すでに前回で触れたように、中国の映画やラジオ・テレビ等のメディア分野を統括する中国政府の最高機関である国家広播電影電視総局(国家広電総局)は、2006年9月1日から、中国全土の全てのテレビ局において、夕方の5時から8時までのゴールデンタイムに外国アニメ(実質上は日本アニメ)の放映を一律に禁じた。

 中国語ではこれを「禁播令」と略称している。播は「伝播(でんぱ)」の「播」で、放送とか放映を意味する。この原稿でも簡単に「禁播令」と略記することにしよう。

中国の国産アニメが招いた衝撃の事態

 この禁播令は、国産のテレビアニメを振興させることや、中国の青少年が日本文化の影響を受けすぎないようにすることが主な目的だ。また、日本アニメの中には暴力に傾いたものもあり、青少年の情操教育を妨げるのでそれを阻止し、中華民族の伝統的な文化に対する尊敬の念の養成と健全な精神形成を促進する、ということも重要な目的とされていた。

 たしかに『デスノート』は、禁播令が出た後に、大きな騒ぎとなった(『デスノート』は、死神が落としたノートを拾い、犯罪者を次々と殺害していく高校生、夜神月=ヤガミ・ライトと、彼を追う探偵「L」との頭脳戦を描いた物語。週刊少年ジャンプで連載されて大ヒットし、映画化、テレビアニメ化も行われた)。中国で出回った『デスノート』の海賊版『死亡筆記』は、主人公が拾った死神のノートを模して、自分が心の中で憎んでいる相手を殺すための手段と殺害日時などを書き込むもの。少年少女たちが先を争ってそれを購入し、実際に殺したいと思う人の名前と殺害時間、殺害方法などを書き込む「遊び」が流行ってしまった。日本の原作とは全くかけ離れた形で、「売らんかな」精神だけで暴走したのである。(※ 掲載後、記事の一部を修正しました:編集部)

 最も厳格に青少年の健全な精神発達を提唱しているはずの中国において、最も不健全な精神を鼓舞するような現象が出たのだ。しかも実際に、それまでには存在しなかったいわゆる「愉快犯」のような猟奇的殺傷事件が起きたりもした。少年が、生きたままの少女の眼だけをくり抜くというような事件だった。

 こういったことから、2007年6月1日の中国の「児童節(子供の日)」を前にして、中国政府は厳しく『デスノート』の発売禁止を指示し、テレビでは連日のように、このニュースを流していた。ニュースキャスターも冷静さを失い、叫ぶようにしてニュースを報道していた。10月になって、ベルギーでも『デスノート』を真似た猟奇的な殺人事件が起きているので、『デスノート』の本来の目的は別として、このような形で暴力や猟奇的好奇心を青少年に与えるように変形していくことは良くない。これを国家が管理し、青少年の心を健全な方向に導いてあげるのは、青少年たち自身にとっても不可欠なことであろう。

 ところが、である。

 禁播令が発動された直後の9月5日、「中央電視台(中央テレビ局)少児チャンネル」(少年と児童向けの専門チャンネル)で放映が始まった中国国産アニメ「虹猫藍兔七侠傳」は、とんでもない事態を招くに至った。

 このアニメの基本的は登場キャラクターがすべて動物の、シンプルな戦闘ものである。主人公は猫、敵のボスは虎。ストーリーはこんな具合だ。

 ──50年前に黒心虎と呼ばれる腹黒い悪者である虎を首領とする魔教団が、良民を惨殺し、森を支配して王者となろうとするが、森の平和を守るために虹猫の父親と藍(色)兔の母親を含めた7人の任侠者が力を合わせて黒心虎を倒した。ところが50年後、再びその虎がこの世に現れて悪事を働こうとする。正義の任侠者のうち生き残っているのは虹猫の父親一人。そこで、新たな6人の剣者を加えて7名の任侠者が復活して、魔教団を倒そうとする──。

 中国国産アニメとしては、同番組はかなりの視聴率を稼いだ。外国アニメの人気に近づいた唯一の国産アニメと言っても過言ではない。アニメ人気に伴い、このアニメの原作本も1500万部売れ、アニメのキャラクターグッズの売れ行きも良く、商業的には成功しているかに見えた。

 しかし、問題はその内容にあった。毎回、あまりに残虐な闘いの場面が多すぎるのだ。ひたすら殺し合い、血を流し、暴力的に強い者が勝っていく。

 子供たちは、興奮して闘いの場面にのめり込み、テレビを見終わると、「おい、ばばあ、早く死ね!」「お前なんか死んじまえ!」「お前を殺してやる!」等々、口汚く親や祖父母を罵り、アニメに登場した殺人兵器(剣)のおもちゃを買いたがるのだ。

 これは子供の情操教育に不適切ではないか?

 そんな意見が、2007年1月あたりから中国国内のウェブサイトに載るようになり、2月の12日から15日にかけては、「天涯雑談」というインターネット論壇に、子供たちの親の意見として、放映停止を強く求める声が連続して書かれるようになった。

庶民の意見で放映禁止に踏み切った中央テレビ局

 その中の一人に、「老蛋」というハンドルネームの36歳になる男性がいた。実名は劉書宏。10歳と5歳の子供の父親で、何冊か本も書いている文士だ。

 彼はこんな趣旨の意見をしたためた。

 「このアニメは子供たちに、この世の全ては暴力により解決すれば良いという価値観を与える。暴力と口汚い罵倒、恐喝、威嚇等の悪徳に満ち満ちている。中央電視台は、われわれの子供たちをどこに導こうというのか。緊急にこのアニメを放映停止にすべきだ」

 そしてこの意見を、「天涯雑談」だけでなく、「西祠胡同」というサイトにも掲載し、さらには中央電視台のホームページにある自由論議のフォーラム・サイトにも載せた。

 するとたちまち多くの父母たちの反響を呼び、全国津々浦々から、放映停止に賛同する父母たちの意見が寄せられ、みるみるうちに世論となって膨らんでいった。

 「中国の国産アニメは〈ごみアニメ〉だ」「中央電視台は、お金さえ儲ければ、それでいいのか」、「お前らの商売は、子供たちの心や教育の犠牲の上に成り立っている」といった激しい意見も見られるようになった。

 青少年の精神を善導する役割を国家から委託されているはずの中央電視台・少児チャンネルとしては、このようなバッシングを子供たちの親から受けるようなことがあってはならない。しかもこの時期は、立ち上がったばかりの国産アニメが成功するか否かという勝負の分かれ目にある。今まで政府の意向に沿っていれば基本的によかった中央電視台は、視聴者の声を重視しなければ番組が成り立たない、という厳しいところに初めて追い込まれた。

 そして──、2007年2月26日。

 中央電視台は突如、この「虹猫藍兔」の放映を停止してしまったのだ。

 これを受けて、老蛋こと劉書宏はウェブ上にこんな感想を書き込んだ。

 「これはわれわれ父母たちが叫んだ結果だ。インターネットの時代、中央電視台がネット上の世論を重視しない、ということはもはやできなくなっているはずだ」

 ところが話はここで終わらない。

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「ゴールデンタイムの「外国アニメ放映禁止令」が投げかけた波紋」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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