「中国

中国"動漫"新人類

2008年1月30日(水)

「海賊版」初体験で見えた、日本動漫浸透のメカニズム

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 中国における日本の動漫ブームを語る上で、絶対に避けて通ることのできないものがある。それは、「海賊版」の存在だ。

 中国では、日本の漫画を翻訳した単行本や日本のアニメを収録したDVDやVCD(注:CDに映像と音声をMPEG1方式で録画したもの。日本ではまったくといっていいほど流通していないが、コピーのしやすさからか、アジア各国ではかつてのビデオテープ並みに流通している)が街のそこかしこで売られている。

海賊版について慎重に考察を試みたい

中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす

中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』遠藤誉著、日経BP社、1700円(税別) ※1月31日発売予定

 ただし、日本の出版社や著者、テレビ局などと正規の版権契約をとりかわして作られた「正規版」はほんのわずか。大半は、中国大陸あるいは台湾などで勝手にコピーしたいわゆる「海賊版」だ。最近では政府の取り締まりが厳しくなったので、多少は減ってきたとは思うが、それでも中国市場に流通する日本動漫ソフトの90%は海賊版だと言われている。

 こうした話は読者のみなさんもすでにメディアを通じてご存知だろうし、憤りを覚える方もいらっしゃるだろう。

 「中国ってなんでもコピーしちゃうんだから!」
 「著作権の概念なんてまるでない!」

 そんな声が聞こえてきそうだ。たしかに。私もそう思う。

 しかし中国での日本動漫ブームをさまざまな角度から取材し、調査し、分析してきた結果、非常に興味深い事実が見えてきた。

 すなわち、「中国全土を席巻するほどの、ここまでの激しい日本動漫ブームは、結果的に見るなら海賊版がなかったら到来していなかったはずである」ということだ。

 それは「海賊版が跋扈したからこそ、いま流通し始めた正規版のソフトも人気を勝ち取ることができたのではないか」という仮説にもつながる。つまり、「海賊版」が、日本動漫という「文化」の中国における普及にきわめて大きな力を持っていたのかもしれないのである。

 ここまで言うと、事実からいささか飛躍しすぎた極論に聞こえてしまうかもしれない。

 私の集めた事実と私が立てた仮説がどれほど現実を反映しているか、そしてそれが現実であれば、その現実はどういう社会的意味を持っているのか。

 ひとつずつ順を追って考察していきたい。

*  *  *  *

 2007年5月に訪中したとき、今回の仕事のために初めて海賊版を購入した。

 場所は北京駅の前にある大きな地下道の出口。市の中心の目抜き通りである。地面に布を敷き、その上に露天商がDVDを並べている。公安が取り調べにきたら、すぐに布で包んで逃げられるように、地下道の出入り口付近に陣取っているのだろう。政府の取り締まりが厳しくなったことをなんとなく物語る。

 私はふと、サンフランシスコのゴールデンブリッジのたもとで地面に大きな布を敷き、そこで密売品らしい服やらバッグやらを売っていたメキシコ人を反射的に思い出していた。『中国がシリコンバレーとつながるとき』(日経BP社刊)という本を執筆するためにカリフォルニアを訪れたときのことである。トラックを脇に置き、一人が見張りをして、一人が売りさばく。警官が来たら見張りが知らせ、その大きな布で一気に荷物を巻き込みトラックに詰めてドロンする。その現場の一部始終を見たときの、あの驚きは印象深い。

 北京駅前の地下道で風呂敷を広げている若者にそんな緊張感はない。しかしそれでも、どことなくそわそわした気配が、ああ、海賊版を売っているんだと、気づかせてくれる。

 私の視線に気づいた露天商の若者が、すぐに声をかけてきた。

 「どう? 買わない? 安いよ」

 敏感なものである。私が「買ってみようかな」と心のどこかで思ったのを、すばやく見抜いたのだ。

 「そうね……、いくら?」

 「1枚10元(約150円強)。10元で、どんなアニメだって見られるんだから、安いものだよ。どれにする? 10枚買えば、1枚おまけするよ」

はじめて買ってみて、驚いた!

 めったにない機会だ。もう何百回も中国と日本を往復しているが、海賊版の漫画やアニメなどを買ったことなど、一度もない。しかし今、私は中国における日本の動漫ブームの研究をしているのだ。そのうえ、帝京大学では「中国文化論」という講義を持ち、日本人学生に中国の若者の精神文化を紹介している。違法コピー商品を購入するのはいささか気が引けるが、取材資料として、教材として、やはり現物に勝る資料なし。ここは買うしかないだろう。

 私は正当な口実をいろいろと見つけては自分を説得し、10枚買い、1枚のおまけをもらって、内心、ワクワクしながら戦利品を持ち帰った。

 ホテルの部屋でノートブックパソコンを立ち上げ、DVDをトレイに入れて、再生する。

 驚いた。

 いきなり巨大な音で日本語の歌が流れてきたのだ。もう夜中だったので、私は慌ててパソコンのボリュームを下げた。

 「播出開始」(放送開始)というボタンをクリックする。

 さらに驚いた。

中国動漫新人類  日本のアニメと漫画が中国を動かす

遠藤誉著、日経BP社、1700円(税別) ※1月31日発売予定

 「たかがマンガ、たかがアニメ」が中国の若者たちを変え、民主化を促す−−? 日本製の動漫(アニメ・漫画)が中国で大流行。その影響力は中国青少年の生き方を変え、中国政府もあわてて自国動漫産業を確立しようとやっきになっているほど。もはや世界を変えるのは、政治的革命ではなく、サブカルチャーの普及による民衆の生活意識の変化なのだ。しかも、それを手助けするのはたやすく手に入る「悪名高き」海賊版なのである!

 連載中から大反響の本企画がいよいよ単行本化。現代中国論としても、日中関係論としても、そして何よりサブカルチャー論としてもこれまでにない論点を提示し、かつ、膨大な取材に基づき驚くべき事実を掘り起こしたノンフィクションの決定版!

 タイトルは『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』。1月31日発売予定です。ぜひお読み下さい。
(日経ビジネスオンライン編集部)

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

1941年、中国長春市生まれ。筑波大学名誉教授、留学生教育学会名誉会長、理学博士。著書に『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学総覧』(第一法規)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国教育革命が描く世界戦略』(厚有出版)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社) ほか多数。当サイトの連載「中国動漫新人類」と「中国“A女”の悲劇」が大きな注目を集めている。「動漫」の連載を始めた詳しい経緯は、こちらの同連載第1回に。二児の母、孫二人。ユニバース株式会社留学事業最高顧問

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