「中国

「海賊版」が図らずも定着させた日本動漫

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2008年2月6日(水)

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※本連載にて著者が「海賊版」を取り上げる意図などをお話ししております。ぜひ前回も合わせてお読み下さい

中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす

中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』遠藤誉著、日経BP社、1700円(税別) 発売中

 2000年に入り、中国は新たな局面を迎えるようになった。

 1990年代、「向銭看」(銭に向かって進め)と邁進してきた結果、ご存知の通り、中国にも急激に富裕層が増えた。自宅に固定電話やテレビがあるかどうかなどという段階はとっくに過ぎてしまい、洗濯機や電子レンジはもちろん、マイカー、マイホームと、高度成長期の日本以上の天井知らずの好景気が続いている。

 マイホームだって、ふつうの広さではない。日本人の一般家庭の3倍ほどの広さがあり、豪勢なカーテンや絨毯、そして煌びやかな家具に囲まれている。外車を乗り回したり、別荘を持ったりと、金持ちの生活レベルもケタ外れに上がってきた。

 一方、2001年にWTO(国際貿易機関)に加盟するなど経済面でも国際社会の仲間入りをしたこともあり、経済関連の法整備にも力を入れ始めている。2006年にアメリカから中国のコピーソフトに関する非難があり、2007年にはWTOに提訴されるという事態にまで至った。2008年に北京オリンピックを迎える中国としては、国家威信にかけてでも、この汚名を返上せねばならない。

 いま中国政府はおくればせながら、海賊版の取り締まりに総力を挙げている。好景気の波が、海賊版廃絶の流れの背中を押す。というのも、正規版を購入するという十分なゆとりを持っている家庭が急増しているからだ。

 あれは何年前だったのだろうか、正確には覚えてないが、テレビ局の中央電視台が青少年にインタビューをして、持っている漫画の数を尋ねていたことがあった。それによれば、一人100冊とか200冊などというのはざらで、中には500冊とか、1000冊と答えた子供もおり、一時期話題になったことがあるくらいだ。

 そこまで裕福な家庭が出てくれば、当然のことながら海賊版に走るよりも正規版を買おうという意識も徐々に芽生えてくる。

 そもそも中国には「海賊版だから、違法なので、モラル上購入するのは好ましくない」などという概念は存在していなかった。同じ商品で安いものがあれば、当然安い方を買う。それだけのことだ。それが海賊版かどうかなどということはどうでもいい。機能が同じなら、安い方を買う。機能が劣っていれば、機能の低さと値段の安さを計りにかけ、割が合わなければ多少のお金を支払っても、機能するものを買う。それが彼らの流儀である。

正規版を買わせるには、知名度が必要

 パソコンやパソコンソフト、あるいはゲーム機やゲームソフトならば、機能が関係してくるが、アニメソフトに「機能」はあまり関係ない。もちろん正規版のほうが音も映像もいいに決まっているが、コストパフォーマンスを考えれば目をつぶれる。むしろストーリーを楽しむぶんにはほとんど関係ない。そう思っている中国人は少なくない。

 しかし、取り締まりが厳しくなって海賊版販売や製造が発覚した時に課せられる罰則も厳しくなり、見つかった時には連座制などという芋づる式の処罰法も現われたので、最近では、海賊版はやや鳴りをひそめつつあるようだ。

 いま、正規版DVDなどを購入して再生してみると、まず「いかに海賊版が罪深いことであるか」という寸劇などが最初に入っていて、なかなか本筋に入ってくれないような仕組みになっている場合もある。中国人に対する「著作権教育」もかなり行きわたるようになってきた。

 このように、富裕層の増加とこうした「著作権教育」の影響もあり、正規版を購入する者が増え始めている。海賊版よりはコストがかかるので、当然高額ではあるが、海賊版も最近では値を上げ始め、両者の価格的ギャップは縮まりつつある。

 ただし……動漫のようなメディアコンテンツの場合、消費者に買ってもらうにあたっては、まずその前にある程度の知名度を確立しておく必要がある。逆にいえば、不要不急のメディア商品の場合、消費者は「知らないもの」はまず買わない。つまり、まずは大々的な広告宣伝の類がなければ、消費者に振り向いてもらえない。ところが中国市場には海賊版がある。この海賊版が、おそらくは日本動漫の知名度を中国市場で押し上げる広告宣伝的な役割を、結果的には果たしたのではないか?

 というのも著作権管理に厳しく、中国大陸での海賊版があまり出回らなかったというアメリカの動漫は、日本動漫ほどには普及していない。コンテンツそのものの好みも関係しているのかもしれないが、ともあれ、海賊版が日本ほどには多く出回っていないため、一般大衆の手に届かない。届かなければ、知名度も上がらないし、ファンも増えない、というわけである。

 なんと皮肉な話だろう。が、この皮肉な話が、さらなる想いを私に抱かせる。

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

 1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士、筑波大学名誉教授、東京福祉大学・国際交流センター センター長。(中国)国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、(日本国)内閣府総合科学技術会議専門委員、中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。

 著書に『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書) ほか多数。2児の母、孫2人。

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