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第1回 上海の公園で婿を探す、A女の父母たち

2008年2月15日(金)

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 あれはたしか、2005年の晩秋だっただろうか。

 そのとき私は中国政府の国家教育部(日本の元文部省に相当)との打ち合わせで北京にいたのだが、上海に行かなければならない急用が生じて、何とか土日を挟んだ夜の時間を使って「とんぼ返り」をすれば北京における業務に差し支えないだろうと、急遽上海に飛んだ。仕事は効率よく進み、土曜日の夜にはおおかた終わらせることができた。万一日曜日までずれ込んだ時のために、翌日の北京に戻るフライトは、やや遅めに取ってあったので、私にはめずらしく、午前中が空いたのだった。

 そこで上海の仕事上の知人が、「どうですか。せっかく上海にいらしたのなら、みやげ話にひとつ、おもしろいものを見ていきませんか」と誘いをかけてきた。

 「おもしろいものって…」
 「ええ、それがね。最近になって出現した現象なんですが、公園に父母たちが集まって、自分の娘の婿探しをしてるんですよ。娘の略歴、希望する相手の男性の学歴、年収とかを書いた紙をぶら下げて」

 「父母が? 本人ではなくて?」
 「ええ、そうなんです。本人たちは、そういうことをいやがっているようなんですが、親にしてみれば、優秀な娘が婚期を逸してしまうなんてことは、もう考えられないことですよね。特に一人っ子だから、跡継ぎがいないと、いったい誰が親の面倒を見るのかって問題も出てくるし。また子孫がそこで絶えてしまうっとことになるわけですから、そりゃあ、親としてはもう、気が気じゃないんでしょう。そういう親たちが集まってるんですよ」
 それはおもしろい!

 私は飛行場に行く前に、その公園に社会勉強に行くことにした。そこは上海市の市政府がある人民大道にある人民公園というところだった。公園の入口を入って右に曲がったところに人だかりができていた。見れば揃いも揃って、60歳前後の男女ばかり。すでに退職して、時間も、心のゆとりも、持て余している年代といったところか。

「あなたのお子さんは、男の子?」

 夫婦でベンチに座ったり、木に寄り添ったりして、何やらA4サイズほどの紙を持っている。白い固い紙を持っている者もいれば、ダンボールにA4サイズのコピー用紙を貼り付けて、それを胸に抱いている者もいる。近づいて見てみると、そこには女性の名前と年齢、学歴、職業、収入そして身長などが上半分に書いてあり、下半分には「要求」という文字のあとに、希望する「婿どの」の年齢、学歴、職種、収入、(結婚して入居する)マンションの有無、自家用車の有無、そしてこれまた身長まで列挙してあるではないか。

 おお……!
 なんという光景だろう!

 中国で生まれ育ち、日本に帰国して働き始めてからは、もう数え切れないほど中国と日本を行き来しているが、さすがに見たことのない光景だ。

 その紙に書いてある情報を詳細に見ようと、ある、人のよさそうな老夫婦の前に立ったときだ。

 「あなたのお子さんは、男の子?それとも女の子?」

 いきなり質問された。私も彼らとちょうど同じような年齢。60歳は過ぎている。きっと私自身も嫁さん探しか婿さん探しに、ここに立ち寄ったのだろうと勘違いしたに違いない。

 「あ、あのう・・・」

 私は関係ない者だと答えようとしたが、咄嗟に探究心が頭をもたげてしまった。
そうか――、私もこの仲間の一人だということにすれば、もう少し立ち入った事情を知ることができるかもしれない。

 「あ、私の子供は男の子ですよ」
 「まあ、男の子?それは良かった。私の子供は女の子。で、齢はいくつですか?」
 「ええ・・・、そうですねぇ・・・」

「身長170cm以上、学歴は修士以上、年収10万元以上…」

 私は子供が二人いる。二人とも男の子だ。長男は早くに結婚し、子供も二人いるが、次男は独身だ。まだ25歳。こういうときに嘘をつくのはなかなかできないものである。思わず、独身の方の子供の年齢が口を突いて出た。

 「あのう…、彼はまだ25なんですが…」
 「なんだ、25!それでもう焦ってるのかい?いやだねぇ、うちの子はもう30だよ。少なくとも2,3歳は年上でないとね」

 そういうなり、そっぽを向いてしまった。さあさ、用はないからあっちへお行き、と言わんばかりだ。

 しめた。
 こういう調子で話をすればいいのなら、社会勉強のためだ。私は別のカップルの前に進んでいって、そこに掲げてある条件をまず熟読した。

 年齢32、修士学位を持っている女性で、外資に勤務している販売部経理。年収は★9万5千元。身長1.65メートル。

 要求(つまり婿どのに対する条件):年齢33歳から35歳前後であること。学歴は修士学位以上であること。年収は10万元以上。身長は1.7メートル以上。

 うーん、要求が高い。

 「おたく、男の子?それとも女の子?」

 さっそく同じ質問が来た。

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「第1回 上海の公園で婿を探す、A女の父母たち」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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