「中国“A女”の悲劇」

第2回 北京の親たちも、公園で娘の嫁ぎ先を探す

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2008年2月29日(金)

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 北京に戻ると、私は鬼の首でも取ったかのように、中国社会科学院社会学研究所の研究員である王震宇に電話をかけ、上海で見た光景を話した。彼女とはもう30年来の付き合いで、私は中国社会科学院の客員教授として、いくつもの共同研究を二人で行ってきた。私にとっては欠かすことのできない親友だ。婚姻問題が専門なので、彼女にとっても興味深い話題だろう。

 すると電話の中の王震宇は豪快に笑った。

 「何を言ってるのよ。最初に始まったのは、たしか北京だと思うわよ。(北京の)中山公園なんかに行ってみてご覧なさいよ。すごいから。やはり、多いときは数千人の規模。ここ1、2年の現象だわね。たしか去年から始まったと思う。もう上海とか北京のような大きな都市では、毎週、どの公園でも大変よ」

働く女性の結婚は、どの大都市でも「課題」だけど…

 「まあ、北京でもそうだったの?これは驚いたわ。それにしても、すごい現象だわねぇ」
 「でも、ロンドンでもニューヨークでも、結婚できない女強人(ニュイ・チャン・レン)が増えてきたっていうじゃないの」
 「あら、東京だってそうよ。女性がバリバリ働き始めた大都市では、どこでもそうなんだと思うけど、まさか北京や上海もとはねぇ」
 「そりゃあ、中国は発展のスピードが速いもの。もう世界で起きている現象は、何でもかんでもあるわよ」
 「そうねぇ、たしかにそれはそうだけど、でも、親が自分の娘の情報をしっかり書いた紙を抱えて、公園で公開して婿さんを探すなんて光景は、世界ひろしといえども、こればかりは中国だけにしかない現象だと思うわよ。少なくとも、日本人だったら、ここまで開けっぴろげな行動には出ないと思う」
 「ああ、それはたしかに……。でも、悪いけど日本だけじゃないわよ。この間、フランスから研究仲間が来たんだけど、やはり公園の親たちの集団見合いを見て、ギョッとしてたわ。どんなに独身の働く高齢女性が増えたとしても、フランスには絶対に出現し得ない光景だって……」

 「でしょう?私もそう思う。その人に同感だわ。ね、あなた、なぜだと思う?なぜ中国だけ、こんなことをするんだと思う?」
 「そうねぇ・・・、まあ、何もかもがいきなり集中して発展してしまったから、へんてこな現象だって起きるわよ」
 「それはたしかに分かるけど、でも、それにしても、恥ずかしいって思わないのかな……。ふつうなら、できるだけ人様には知られないように、こっそり探すことなのに、こんなに何もかもあけすけに書いて、しかも公園で公開して、不特定多数に呼びかけるのよ。『どなたか、娘の婿になってくれる人はいませんか』って……」
 「でも、一人でやるんなら、そりゃあ恥ずかしいだろうし、それに一人なら絶対にやらないと思うけど、何せ数千人が一緒にやるんだから、怖くはないでしょう」

 たしかに……!

 私はそう言って、この日はとりあえず電話を切った。何せ彼女は昨日、アフリカから帰ってきたばかりだとのことで、時差で疲れているだろうと思ったからだ。もっとも、わが親友、王震宇は、いつも朝方の3時か4時ごろまで論文やら原稿やらを書いて、昼ごろに起きる習慣をつけているので、時差といっても、ちょうど北京時間の正常なサイクルに戻って逆にいいのではないかなどと、憎まれ口を心の中でたたいて、思わず笑ってしまった。

 そうか――。
 北京の公園でも、同じ現象が起きていたのか・・・。

 昨年から? ということは2004年ということになる。そのきっかけを探し出せば、なぜこんな怪現象が起き始めたのかが、ひょっとしたら分かるかもしれない。

 さあ、戦闘開始だ。私もまた、同じ場所で時差を生み出すような仕事に手をつけ始めた。

2004年秋から始まったらしい

 ネット検索を始めると、ほとんどの場合、エンドレス。体がついに降参するか、夜が明けるか、そのどちからの状態が来るまで、やめはしないのだから。自分の年齢を考えろと、自らに言い聞かせはするものの、探究心には、どうしても勝てない。ときどき「もう十分生きた。死んで、もともとだ」と居直ることさえあるのだから、ほとんど病気だ。

 しかし、その「病気」のお陰で、ついに見つけた。

 父母による公園見合いが始まったのは、王震宇が言った通り、去年からだった。すなわち2004年9月とのこと。

 そのきっかけも詳細に書いてある。

 中国では朝早くから公園で老人たちが太極拳などの鍛錬をする習慣があるが、太極拳が終わると、当然日常生活に関して花が咲く。こういう場に集まるのは、当然、退職して暇を持て余している連中だ。

 私がまだ小学生だったころ、夏休みには公園の清掃活動をすることが宿題となっており、朝早くから天津市の中心にある「中心花園」という公園にボランティア活動に行ったものだが、そういうときも必ず老人たちが集まっていて、太極拳をやる者もいて、中には鳥篭を持ってきて小鳥の鳴き声を自慢しあう老人たちもいた。この人たちが吸ったタバコのカスや鳥の羽などを片付けるのが私たち小学生の清掃活動だった。1950年代初めのころだから、こういう習慣は中華人民共和国が誕生するずっとずっと前からあったのだろう。

 ところで、2004年9月のある朝、北京の龍潭(ロンタン)公園では、太極拳の舞いを終えた退職老人たちが、いつも通り三々五々かたまって四方山話を始め、その中の数名が、自分の家にいる「大齢未婚白領女士」(未婚の高年齢ホワイトカラー女性)に関する悩みを話し始めたらしい。その数名の中には娘ではなく未婚の息子を持っている老人夫婦もいた。

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

 1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士、筑波大学名誉教授、東京福祉大学・国際交流センター センター長。(中国)国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、(日本国)内閣府総合科学技術会議専門委員、中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。

 著書に『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書) ほか多数。2児の母、孫2人。



このコラムについて

中国“A女”の悲劇

中国にも「負け犬」はいた。自らの力で高い社会地位を勝ち得、年収も男に負けない。容貌も美しい。そんな隙がない彼女=「A女」たちには、なぜか結婚相手が見つからないのだ。悩みは深く、自慢の娘に結婚相手を探そうと、数千人の父母たちが、日本で言うところの「釣書」を持って公園に集まるほど。この現象の背景にはなにがあるのか。大好評の連載『中国動漫新人類』に続き、遠藤誉博士が中国社会にふたたび挑む。

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