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中国「字幕組」の栄光とたそがれ

2008年2月27日(水)

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中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす

中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』遠藤誉著、日経BP社、1700円(税別) 発売中

 2007年5月、中国で初めて日本アニメの海賊版を購入し、つぎつぎと再生してチェックしていたとき、おもしろいことに気がついた。

 中国で流通している日本アニメの海賊版ソフトは、日本のテレビ放送やパッケージソフトをそのままコピーしたものだから、音声そのものは日本語のままである。そこで当然、画面に中国語の字幕がつく。海賊版とはいっても、字幕部分は業者たちがオリジナルで作らねばならない。

 そのためには高度の語学力が要求されるはずだ。しかし、海賊版と聞くと、ふつう連想するのはマフィアか暴力団組織。そういった組織に語学力の高い者がいるとは思いにくい。となると、そこが日本語のわかるプロでも雇用しているのだろうかと想像してしまう。

 しかし、ちがっていた。私は偶然とんでもない発見をしてしまったのである。
 ある海賊版DVDを再生していたときのことだ。

 私の目はパソコンの画面に釘付けになった。番組の冒頭に「字幕組」という文字が現れ、日本語の音声を中国語に翻訳して字幕スーパーを作成したグループの名前が画面の一番上に表示されたのだ。同時に画面の下側に中国語簡体字が現れ、画面の音声を中国語で記した「字幕」が登場した。海賊版にもかかわらず、ご丁寧にも、中国語版翻訳チームの名が堂々と紹介されているではないか。

 もしマフィア等の不法組織なら、堂々と名乗ることはありえないはずだ。
 これはいったい、どういうことなのだろう。
 いや、待てよ──、字幕組……。

 この言葉、見覚えがある。そう、字幕組というのは、大学の日本動漫サークルが関係しているはずだ。「漢化組」とも呼ばれているはず!

 私はあわてて北京にあるいくつかの大学の日本動漫サークルの学生たちに確認してみた。するとこのサークルも字幕作成活動をボランティアでやったことがあるということがわかった。そこで彼らに、どうやって字幕を作っているのか聞いてみた。

 聞いてびっくり。彼らは、インターネットとパソコンを駆使して、いとも簡単に中国語字幕付きの日本アニメソフトをつくっていたという。

大学生を中心とした「字幕組」に聞いた

 手順はこうだ。
 まず、日本国内でアニメ番組をどんどん録画している人たちがおり(著者注:それが誰なのかは調査していない)、連中がウェブ上にこの録画データを流す。中国にはすでにアニメをはじめ、こうした日本のテレビ番組がつぎつぎとアップされるサイトが大量にあり、しかもこれらのサイト自体は裏サイトでもなんでもなく、堂々と表看板を出しているようだ。ピアツーピア(P2P)というファイル共有技術を駆使することで、テレビ番組や映画といった、きわめて大きなデータもウェブを介して簡単に共有し、利用することが可能となっているらしい。

 この時点では、ウェブ上に流されたアニメ番組には当然のことながら中国語の字幕はついていない。そこで彼ら大学生の「字幕組」の登場である。

 「字幕組」のメンバーはそれぞれのパソコンにアニメをダウンロードし、それを再生しながら、耳に聞こえてくる日本語の台詞を、手分けしてどんどん中国語に翻訳していく。耳で聞くだけだから、それを日本語に書き起こすだけでもたいへんなのに、彼ら彼女らは、それを同時通訳のようにして中国語に直しながら、簡体字としてパソコンに打ち込んでいくのである。すさまじい高い語学能力が要求される。しかしグループ作業で一気に作業を進めるから、数時間内で1本の番組を翻訳し終わってしまうこともあるという。翻訳が終わると、今度は映像関連ソフトをつかって、ダウンロードしたアニメの画面に、中国語の字幕をはめ込んでいく。

 これでおしまい。あとは、彼らとファイルを共有できる不特定多数の日本動漫愛好者に「作品」を、またしてもウェブを介して配信する。

 以上だ。この世界に詳しくない私は非常に驚いたのだが、後日、担当編集者に聞いたところでは、米国でも1970年代末頃から日本のアニメ作品などにオリジナルの字幕を付ける活動(「ファンサブ」)が起こり、現在まで続いているという。米国と全く同じ現象が中国でも起こっていたわけだ。

 こうした「字幕組」の人数は数名の場合もあれば数十名の場合もある。中国全土に数え切れないほどの「字幕組」グループがおり、それぞれのメンバーも固定的ではない。大学を卒業して就職し忙しくなれば、「字幕組」から抜ける。代わりに新しく日本語を学んでいる若い学生たちが入ってくるという具合で、まったく拘束性のない団体らしい。

 しかも、彼ら彼女ら「字幕組」の作業はまったくのボランティアで、無償だそうである。1円たりとも金銭の収入はない。むしろ膨大な時間とエネルギーを注ぐのだから、その意味では持ち出しなのだが、中国全土にいる多くの日本動漫ファンに喜んでもらえるならこんなうれしいことはない、と関係者が言っていた。

 彼ら彼女らは、アニメサイトで、ボランティアでつくった自分たちの「成果」を披露することに喜びを感じている。どの字幕組が字幕を入れたかについて、その成果に点数がつき、すべてのネットで評価される。もし報酬というなら、その評価だけが唯一の見返りだろう。

 そこにあるのは無邪気な善意と、アニメ好きとしての「誇り」だけである。

 海賊版業者たちは、善意の成果である字幕つきデータを、こうしたサイトからダウンロードし、それを原盤にして海賊版をつくるらしい。

 海賊版のDVDを実際に生産し、流通させ、販売しているのは、善意の字幕組とはいかなる関係もない、非合法の業者たちである。

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「中国「字幕組」の栄光とたそがれ」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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