• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

第4回 「不婚セレブ族」の誤算
――住宅制度激変が招いた「結婚の自由」とその結末

2008年3月28日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

前回から読む)

 中国ではいま、男であろうと女であろうと、結婚しようとしないセレブな若者たちが増えている。若者といっても結婚適齢期を過ぎたセレブ族だ。中国語ではこれを「不婚族」と称することもある。ここでは「不婚セレブ族」とでも定義しておこうか。

 実はその背景の一つに「中国の住宅制度の変化」がある、と申し上げたら、日本人の中には「はて?」と首をかしげられる方もおられるかもしれない。もう少し具体的に申し上げると、お金さえあれば自由に家を購入することが許される時代になったことが「不婚セレブ族」を増やす原因の一つになったのである。

 そこに中国の社会制度の特殊性があるので、今回は、中国の「住宅」という概念に関する変革がもたらしたものを、お話ししたい。これは中国人にとっては、国がひっくり返るような大きな変革だっただけでなく、ここにこそ、<A女>の悲劇の幕を開けさせた立役者の一人が隠れているからだ。

 ご存知のように、中国では1978年末に改革開放が始まった。それ以来、国民経済だけでなく、国民生活すべてを支えていた国営企業がつぎつぎと経営破綻に追い込まれ倒産していったのは、いまや昔話とさえなっている。それを法人化したり株式会社化したりして「国営企業」が「国有企業」と改称されたりしたが、その結果、中国は国家の基本構築の改革を余儀なくされた。

大学から就職、住居まで「五星紅旗」丸抱えの時代があった

 基本構築というのは、こうだ。

 かつて中国の大学や専科学校(日本の専門学校に相当)等の高等教育機関はすべて国営あるいは公営で、それらを管轄する行政省庁は、原則として、同時に国営企業も管轄していて、大学や専門学校の卒業生は、就職先として、卒業と同時にその行政省庁が管轄する国営企業に配属されていた。これを「分配」という。

 分配されるときには、中国のどこに配置されるかは分からない。その行政省庁が管轄する国営企業は、本部とともにブランチが全国各地に網の目のように張り巡らされていたからだ。

 だから若者たちは大学にいる間は恋愛をしないようにしていた。もっとも、毛沢東時代(改革開放前)は恋愛の自由はなかったから、そういう心配はなかったものの、心の中で好きな人ができても、卒業時には互いにどこに飛ばされるかは分からないので、異性を好きになるという心を芽生えさせないように抑えていたのだ。

 しかし、ひとたび分配されたら、墓場までのすべてが一生涯保障されている。給料以外に医療手当ても住居の配分も、そして子育てまで、何もかも保障されて、退職後も死ぬまで生活を保障してくれていたのだ。

 ここでキーポイントとなるのが、ほとんどの職場において、「結婚すれば、必ず新居があてがわれた」という事実である。

 たとえば職場の分配先が地元で、両親とともに生活していた青年がいたとしよう。両親の家は、当然、国営企業からあてがわれた家。その青年が結婚するとなったときには、政府は新居のために、青年の職場の既婚者宿舎を青年に提供する。だからその「家」が欲しいために、その理由だけで、「結婚」という手段を選ぶ若者は多かった。

 少なくとも改革開放前までは、「結婚しない」という道を選択する若者は、ほとんどいなかったと言っていい。誰もがさっさと結婚し、新居の配分を自分のものとした。もっとも、前回でも触れたように、改革開放までは結婚相手の選択に関しても結婚許可に関しても、さまざまな制限がありはしたが、ともかく人生のサイクルだけは保障されていたのだ。

 揺り籠から墓場まで「五星紅旗丸抱え」という国家構造の中で守られていた。結婚相手に関しても職場やその周辺の関係者が縁談を持ってきてくれて、相手に過度の注文さえつけなければ、結婚相手にあぶれることはなく、誰もがこのサイクルの中で社会生活をはじめ、そして齢をとって生涯を終えていたのだった。

「家は自分で買う」という、常識の大変化

 この国民生活の大黒柱のような国営企業が経営破綻を起こして倒産したら、どうなるだろう。大変な事態が来るだろうことは容易に想像いただけると思うが、1980年の中ごろから、それが現実のものとなり始めたのである。

 国営企業が消えてなくなるのだから、結婚しても新居が与えられないどころの騒ぎではない。大卒者は分配されるべき就職先を失い、医療保障、住居の確保、育児、老後保障、高齢者の看護…、何もかもが「個人」に委ねられるような国営グループが続出した。

 そこで、1995年、中国政府は教育大改革を断行して、大学や専門学校等すべての高等教育機関を国家の行政省庁の管轄から切り離すという大鉈を振るったのだった。これによりすべての教育研究機関は政府から独立して、自己責任において運営すべく法人化され、それと同時に、「五星紅旗丸抱え」サイクルは消滅した。

 就職先を自分で探し、家を自分で購入するなどということは、中国国民にとっては、天地がひっくり返るような大変革である。この大変革により、それまで国家から(直接的には職場から)配分されていた家は、安値で居住者に買い取らせるという制度が実行された。

 たとえば中国社会科学院の仲間たちの場合を例に取ると、ゆったりとした4LDKほどの家を、およそ15万人民元(日本円でおよそ200万円強)で買い取るように指示された。ベランダが広い、けっこう贅沢な家だ。ベランダの窓は寒さを防ぐために二重になっていて、どの家庭もその中に野菜を貯蔵したり、洗濯物を干したりしている。この家を200万円強で自分のものにできるのだから、悪くはない。現金がなければ、毎月の給料から差し引くという形も許される。ほとんどの人が、この制度に乗り、それまであてがわれていた家を買い取った。

 若い人たちはどうだろう。

 中には、結婚しても新居がもらえないので、親の家の一室だけを寝室にもらって親と同居する者もいたが、現在結婚適齢期にあるような一人っ子世代の若者たちの中には、サクセスへの階段を駆け上がっていった者もいれば、親がビジネスチャンスをつかんでリッチになっている者もおり、いずれにせよ「セレブ族」の仲間入りをしている者が少なくない。

 となると、どうなるか。

コメント10

「中国“A女”の悲劇」のバックナンバー

一覧

「第4回 「不婚セレブ族」の誤算
――住宅制度激変が招いた「結婚の自由」とその結末」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

面倒くさいことを愚直に続ける努力こそが、 他社との差別化につながる。

羽鳥 由宇介 IDOM社長