「2007→2010 上海マーケティングツアー 」

中国「消費革命」最前線!(2)
上海のメイドカフェに行ってみた【後編】

中国版「電車男」に戸惑うメイドたち

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2008年4月8日(火)

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 前回、上海のメイドカフェを実況報告した。そこは、日本のアキバとはまったく別物のオトボケ脱力スポットだった。バイトをしているのは地元の女子大生で、彼女らにとってはコスプレを楽しむ期間限定おたわむれの場所、生きた日本語を学べるほとんど学習塾みたいな世界だった。

「ニャオハイ」オープン時のチラシ。きわどい煽り文句が笑える

「ニャオハイ」オープン時のチラシ。きわどい煽り文句が笑える

 彼女らの中には上海で名門と呼ばれる大学の学生もいた。一般に中国では大学の序列がきわめて厳格に階層に反映される。だから、日本の大学の教壇に立つ学者や気鋭のジャーナリストを輩出したことで知られ、中国でもトップクラスの大学の学生がメイドにいることを知った際は、いろいろ考えさせられた。

 中国のエリート大卒の諸先輩方の中には、文革中に辺境へ「下放」され、十分な教育機会を受けられないまま青春時代を過ごし、やっとつかんだ日本留学後も苦学して、現在の地位を得たという人が多い。自分たちの後輩がメイド服に着替えて「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」をやっていると知ったら、ショックのあまり卒倒してしまうのではないか、なんて思ったものである。

 また、そこそこ豊かになった中国の都市部で暮らす若者が、はたしていまの中国社会の未来に希望を感じているのか。苦労人だった年長世代の中国人には理解できないであろう重苦しさや諦念が若者社会を覆っているとしたら……(などと日本人であるぼくがもっともらしいことを言うのは気が引けるのだが、彼女らと話していると、なんとなくそんな気もしてくるのである。後述する)。

メイド喫茶の客層が変わったとの噂

 さて、「秋葉系珈琲店@ニャオハイ」だが、ぼくが訪ねた2007年9月以降、いろんなことがあったようだ。ひとつは、テレビ朝日のワイドショー「スーパーモーニング」の取材を受け、今年1月25日に放映されたことだ。そこでは、アジア各地でメイドカフェが出現していることを面白おかしく紹介していた。「ニャオハイ」代表として大学3年生の女の子が登場し、カメラは大学の寮まで映し出していた。

ささちゃん。前回紹介した特製「メイドイン上海クッキー」のパッケージの裏に書かれたプロフィールよると、「血液型=AB 出身地=上海市虹口 特技=料理 好きな食べ物=すし 嫌いな人=高飛車な人 マイブーム=日本の携帯」

ささちゃん。前回紹介した特製「メイドイン上海クッキー」のパッケージの裏に書かれたプロフィールよると、「血液型=AB 出身地=上海市虹口 特技=料理 好きな食べ物=すし 嫌いな人=高飛車な人 マイブーム=日本の携帯」

 その彼女こそ、「ニャオハイ」看板娘のささちゃん(1987年上海生まれ)である。

 今年2月、上海を訪ねたとき、現地の事情通から「最近、あの店、客層が変わったみたいですよ」という話を耳にしていた。どういうことなのか。もう一度覗きにいこうと思って、前回お話を聞いたオーナーの才木嘉子さんに打診したところ、彼女のセッティングでささちゃんの話を聞くことになった。

 2月下旬平日の午後5時、ぼくは再び「ニャオハイ」を訪ねた。前回来たとき彼女にはすでに会っていて顔見知りだったので、「テレビ見たぞー」と最初に声をかけると、緊張気味の表情はすぐにほころんだ。

 才木さんはもうひとり大学生を呼んでくれていた。たけちゃん(1987年上海生まれ)である。彼女は3年制の大学で日本語を学んでいる。

 そんなこんなで「ニャオハイ」再訪は、「看板娘インタビュー」みたいなノリでふたりの学生さんとおしゃべりすることになった。場所は「ゲーム・カラオケ」用の別室。テーマはほとんどその場の思いつきだったが、「最近のお店の様子や大学生活について」。

看板娘にインタビュー

―― ふたりはバイトにはいつ来てるの?

「平日は学校があるから週末が多い」(ささ)
「私もそう」(たけ)

―― ここに来る前はなにか別のバイトをやってた?

「私はリーボックの販売コンパニオンを1か月だけやったことがある。でも、こっちの方がずっと面白いから好き」(たけ)
「私はここが初めて」(ささ)

 中国の大学生は勉強が忙しくてアルバイトをやる人は少ない(特に地方都市)と以前は聞いていたが、上海ではそうでもないようだ。たけちゃんの友達もマクドナルドやケンタッキー、ハーゲンダッツなど外資系チェーンでバイトをしている。ここ数年大学や専門学校の数が急増し、高等教育が大衆化した上海では学生を取り巻く状況が日本に近づいているようだ。日本の感覚ではふたりのバイト経験は大学生というより高校生に近い感じだが。

―― 最近のお客さんはどんな感じ?

2008年3月現在、この店はすでになく、5月に場所を替えてリニューアルオープン予定

2008年3月現在、この店はすでになく、5月に場所を替えてリニューアルオープン予定

「ニューオープンの頃は日本人が多かったけど、最近中国の若者が多くなった。日本のアニメが好きで、年齢的には私たちよりちょっと年上の人たち。お店のことはみんなブログを見て知ったみたい」(ささ)
「ニャオハイはインターネットでは有名ですから」(たけ)

―― ふたりは人気者みたいだね。ブログにいっぱい写真も出てるし。お客さんとどんな話をするの?

「やっぱり、萌えの話かな。コスプレとか。女の子もよく来るんです。私もこのメイド服試着したいとか言われる」(ささ)

―― コスプレは好き?

「メイド服を着るのは好きだけど、コスプレには興味ない」(ささ)
「実は私も」(たけ)

―― でも、バイトの子の中には好きな子もいるでしょ。

「オタクの子ね」(そして、ふたりは顔を見合わせて笑った)

まだ少ないが、上海でも芸能界を目指してメイドになる子もいるという

まだ少ないが、上海でも芸能界を目指してメイドになる子もいるという

 ここでバイトをする子の大半は大学生だが、なかには専門学校生もいてコスプレにはまっている子もいるようだ。才木さんによると、「そういう子は自前で衣装をつくり、芸能界デビューを夢見てるようです。日本に行きたいといつも言ってますよ」。

―― 中国にもオタクって多いのかな。

「いっぱいいる。ここにもよく来ますよ」(たけ)

―― どんな感じの人たちなの?

「お話してて、この人ちょっとヘンだなと思う。外見も見たらすぐわかる。雰囲気がフツーの人と違うんです」(ささ)
「そういうお客さんは私たちにもっと優しくしてと言うんです。“お帰りなさいませ、ご主人様”というのを何度も言わせたり。もう一回、もう一回って……おかしいでしょ」(たけ)

―― 日本語で言ってるの?

「そう、日本語じゃないとダメっていうの。ああいう人って家にDVDやフィギュアがいっぱいあるんじゃないかな。PSPは必ず持ってそう」(ささ)
「そうそう、オタクっておかしな文化だと思う。よくわからないけど、私からするとすごくヘン」(たけ)

 なんてことだ。この数か月の間に、この店には中国人オタクが急増していたのである。

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著者プロフィール

中村 正人(なかむら・まさと)

編集者。1963年生まれ。立教大学社会学部卒。出版社勤務などを経て2004年からフリーに。専門は観光関連業界のビジネス動向、最近は訪日中国人旅行市場に関心を持つ。また東京池袋界隈の在日中国人事情にも詳しい。主な著書に、『最新データで読む産業と会社研究シリーズ トラベル・航空』『ホテル』『図解 中国の地域性がわかる本』(産学社)『行きたい街を歩く 上海・蘇州・杭州』(西東社)など



このコラムについて

2007→2010 上海マーケティングツアー 

生産拠点から巨大市場として注目されてきた中国。そこで何が、どうして、支持され、売れていくのか。2010年の中国市場を先読みするための、最先端市場現地レポート。

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