「世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」」

中国の貧困人口が倍増する

“くず拾いで学業を続ける貧困女子大生”から中国問題を考える

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2008年4月25日(金)

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 2008年4月15日、福建省福州市の新聞「福州晩報」は、福州市にある「福建華南女子職業学院」に在学中の貧困学生に関する記事、“くず拾いで学業を続ける貧困女子大生”を掲載した。記事は次のように報じていた。

  1. 同学院の学生総数は2300人で、433人の貧困学生が含まれているが、そのうちの275人が“特困生”(=学費の援助を受けられる超貧困学生)である。これら貧困学生のほとんどは遠い辺鄙な農村の出身者であるが、彼らは貧しさにめげず懸命に学生生活を送っている。
  2. 貧困学生たちは学業の合間を縫ってアルバイトをして金を稼ぎ、苦しみに耐えながら学業を続けている。ある貧困学生はペットボトルを拾い集めて生活費を稼ぎ出している。彼女によれば、50個集まったら売りに行くが、学校の付近では大瓶で5分(0.05元=約0.75円)にしかならないが、遠くに行けば1毛銭(0.1元=約1.5円)で売れるという。拾い集めたペットボトルを見ながら、彼女は「これなら少なくとも1日半の食事代になる」と興奮気味に語ったが、友人たちは笑いながら「彼女は空のペットボトルを見ると目が輝く」と述べた。
  3. 貧困学生たちの食事は、学生食堂で3毛銭(0.3元=約4.5円)の米飯と海苔スープだけである。時には生活改善と称して、3人で1皿5毛銭(0.5元=約7.5円)の野菜炒めを買うこともある。ある学生はご飯は飲み込めさえすればよいと食事は節約しており、福州に来て1年半で最大の買い物は手がひび割れたので仕方なく買った3元(約45円)の保湿クリームだったという。

貧困学生を応援したい!

 この記事はインターネットを通じて全国に報じられたが、4月18日に福建華南女子職業学院の責任者がインタビューに答えたところによれば、記事掲載後、多数のメディアが来訪したばかりか、健気に頑張る貧困学生を援助したいと企業や団体、さらには個人からの義捐金申し込みが殺到しているとのことである。

 中国の外貨準備高は2008年3月末時点で1兆6822億ドル(約170兆円)と世界第1位、GDP(国内総生産)は2008年中にドイツを抜いて世界第3位へ、輸出入総額も2008年中には同じくドイツを抜いて世界第2位となることが予想されている。その中国にこのような貧困学生が存在するとはどういうことなのか。それほどまでに貧困層が存在するのか。

 世界銀行が2007年4月に発表した「2007年版世界開発指標」によれば、2004年の調査を通じて、発展途上国において1日1ドル以下で生活している貧困層の人口が、前回調査の2002年から8100万人減って約9億8600万人になったことが確認されたという。地域別では東アジア・太平洋地域での減少幅が大きく、約6000万人減の1億6900万人となったが、このうち中国は約5000万人減の1億2800万人であった。言い換えると、同地域で減少した貧困人口の83%を中国が占めたが、貧困人口の75.7%は中国が占めていたことになる。2004年の調査以降の貧困人口に関する世界銀行のデータは発表されていないので、その後の状況は確認できていない。

 2008年4月、中国国務院の「貧困開発指導小委員会事務室」が農民の貧困基準線を現行の年収1067元(約1万6000円)から1300元(約1万9500円)に引き上げるべく起草作業を行っているとの報道がなされて大きな注目を浴びた。その理由は、この案が国務院で認可されると、中国の貧困人口が現在の4000万人から8000万人へ一夜にして倍増するからである。この数字は上述の世界銀行の数字とは大きく異なるが、とにかく中国は世界銀行からも大幅な貧困人口の削減努力を高く評価されてきたのである。それが一晩で倍増するとは由々しき事態だが、その実態はどうなのであろうか。

貧困人口が減少した形跡はない

 中国は1985年に農民1人当たりの年間純収入200元を貧困基準線として設定し、物価指数に準拠する形で年ごとに金額の微調整を行ってきた。その後、当初の「貧困」基準を「低収入」基準とし、その下に「絶対貧困」基準を設定して、基準線以下の人口を把握してきた。その定義は、「低収入」が“教育や医療などの支払いが困難”であるのに対して、「絶対貧困」は“生存に支障がある”であった。2001年から2007年までの絶対貧困と低収入の人口推移は表1の通りである。世界銀行の2004年調査では5000万人の貧困人口が減少したとしているが、表1を見る限りでは2002年から2004年までに5000万人もの貧困人口が減少した形跡はない。

表1:中国の絶対貧困・低収入の人口推移(2001〜2007年)
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
絶対貧困(A)
年間収入基準(元) 630 627 637 668 683 693 785
人口(万人) 2927 2820 2900 2610 2365 2148 1479
前年比増減(万人) -282 -107 +80 -290 -245 -217 -669
低収入(B)
年間収入基準(元) 872 869 882 924 944 958 1067
人口(万人) 6102 5825 5617 4977 4067 3550 2841
前年比増減(万人) -110 -278 -208 -640 -910 -517 -709
貧困総人口(A+B) 9029 8645 8517 7587 6432 5698 4320

<註>
1:(A)および(B)の人工は年間収入基準以下の人口。
2:(B)の場合、2001年は631元〜872元、2002年は628〜869元が年収範囲となる。
(出所)中国・国家統計局データ

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著者プロフィール

北村 豊(きたむら ゆたか)

北村 豊

住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト
1949年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。住友商事入社後、アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、2004年より現職。中央大学政策文化総合研究所客員研究員。中国環境保護産業協会員、中国消防協会員



このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。

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