David Kiley (BusinessWeek誌、デトロイト支局上級特派員)
米国時間2008年6月24日更新 「Michigan: Epicenter of Unemployment」
6月19日の朝、米ミシガン州サウスゲートにある旧高校校舎の正面入口前で人々が50メートル近い行列をつくっていた。駐車場は早々に満車となり、脇道や少し先のサムズ・クラブ(米ウォルマート・ストアーズ傘下の会員制スーパー)に駐車した人たちが、ノースライン通りを急ぎ足で進む。期待を抱いた表情で殺到する人の群れは、米ロックスターのブルース・スプリングスティーンのコンサートチケットの前売りでも始まるのかと思わせる。
だがそんなお気楽な話ではない。苦境に喘ぐデトロイト郊外で、また1つ就職フェアが開かれるのである。
かつては米国の工業の中心地だったミシガン州が、今や全米最悪の失業率という不名誉に甘んじている。5月の失業率は8.5%(前月比で2ポイント上昇)と、全米平均の5.5%を大きく上回る。
原因は言うまでもない。デトロイトの米自動車各社は大型トラックやSUV(多目的スポーツ車)の生産に賭け、そして負けた。ガソリン価格が1ガロン(約4リットル)=4ドルを超える中、米ゼネラル・モーターズ(GM)、米フォード・モーター(F)、米クライスラーの「ビッグスリー」は、相次いで大型ピックアップトラックとSUVの生産縮小や工場閉鎖を発表した(BusinessWeek.comの記事を参照:2008年6月3日「GM: Small Is the New Big」)。3年前には1700万台だった全米新車販売台数は、今年は1500万台を割り込むと予想されている。
政府の公式統計の数字では失業の実態は分からない
見た通り失業率はかなり悪いが、実態はそれ以上だ。政府の公式統計の数字は、各世帯における無職で求職中の人の数を調査して算出している。そのため求職をあきらめた人や、今は違うが近々職探しを始める予定の人は数値に反映されない。後者に含まれるのが、早期退職手当を受け取って自動車会社や部品会社を退社する数千人の労働者だ。
中には自営を始める人や引退する人もいる。が、多くは遠からず再び職探しをすることになる。
「実態は統計数字以上に厳しい」と指摘するのは、今回サウスゲートの就職フェアを主催した地元公共機関ダウンリバー・コミュニティ・カンファレンス(DCC)のジム・ペリー事務局長だ。
ミシガン州の就職フェアに行くと、公式統計には含まれなくとも、“失業者”と呼べる人々であふれ返っている。ここでは、1000人を超える求職者が、米サンドイッチチェーン大手アービーズから米連邦捜査局(FBI)まで、50以上の企業・団体のブース前に長蛇の列を作っている。彼らに共通するのは、絶望的に思える状況の中で一縷の望みを求めているという点だ。
コンピュータープログラマーでIT(情報技術)専門家のグレゴリー・ボイドさん(50歳)は、3年前、フォードで担当していた業務がインドに外注されてしまい職を失った。その後、ミシガン州最大の電力・ガス会社、米DTEエナジーで仕事を見つけられたものの、それも昨年秋に失業。以来、フリーランスの仕事で食いつないでいるが、正規雇用を希望している。
「何度かあと一歩というところまで行ったけど、競争は熾烈だ」と語るボイドさんは、湾岸戦争で「砂漠の嵐作戦」にも参加した元海兵隊の退役軍人。独身なのでいざとなればミシガンを離れることもできるが、ここにいたいというのが本音だ。ミシガン州サギノーで生まれ、現在はデトロイトから南へ22マイル(約35キロ)の町トレントンに住み、親族も州内にいる。「ここを離れたとしたら、完全に負け犬のような気分だろうな」とボイドさんは言う。
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