「茂木崇の「タイムズスクエアに魅せられて」」

CNBCはなぜマーケットに影響力を持つのか

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2008年7月11日(金)

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 米国のビジネスニュースチャンネル「CNBC」は1日中見ていても飽きない。初めてCNBCでマリア・バーティロモを見た時に受けた衝撃は、今でも覚えている。

 喧騒のニューヨーク証券取引所(NYSE)のフロアからの生中継で、彼女は相場の動きを絶叫するかのような調子で伝えていた。パワフルかつ早口、そしてリアルタイムで相場の動きを伝えていくビジネスニュースは、それまで米国に存在しなかった。

CNBCのアンカー、マリア・バーティロモ

CNBCのアンカー、マリア・バーティロモ

 CNBCが登場するまでの米国のテレビのビジネスニュースといえば、PBS(公共放送)の「ナイトリー・ビジネスリポート」「ウォールストリートウィーク・ウィズ・ルイス・ルーカイザー」が代表的な番組だった。前者は今でもファンの多い番組だが、株式市場が取引を終了した午後6時30分から1日のビジネスニュースを地道に伝えるものである。後者は金曜夜の放送で、金融アナリストがマーケットを論じる番組だった。金融情報番組の草分けとしての功績は大きいものの、お歴々の会合といった雰囲気の番組で、ウォールストリートを身近に感じるには難しいものがあった。

 「経済ニュース番組は地味」という既成概念を打ち砕いたのがCNBCである。番組を見ていると、自分もNYSEのフロアに立ち、アドレナリンあふれる熱気を共有しているかのような気持ちになってくる。そして、株価が上がると考えるアナリストと下がると考えるアナリストの主張がぶつかり合い、その間にも株価は刻々と推移し、画面下をティッカーシンボルと株価の数字が流れていく。

 かねて私はニュージャージーにあるCNBC本社を訪れてみたいと思っていたが、このたび私はマーク・ホフマン社長にインタビューし、スタジオを含めて本社を見学してきた。今回はCNBCがマーケットに大きな影響力を持つ理由についてお伝えしたい。

金融市場のライフラインとして、富裕層の投資家向けに情報提供

 ホフマンはCNBCを投資家のためのチャンネルと規定している。米国の60%の世帯が株・債券・投資信託を所有しており、CNBCは投資家に対して、迅速、正確に、行動に移すことのできる、偏見のない情報を提供することをモットーにしていると語る。

 そのうえで、視聴率が上昇しているものの、洗練された投資家に深い情報を提供することをミッションとしているため、CNBCはニッチなメディアだとする。ニールセンによると、米国におけるCNBCの視聴者は現在31万人である。ただし、ニールセンは富裕層の家庭、証券取引所のフロア、オフィス、ホテル、カントリークラブなどを調査していないので、実際の視聴者数はもっと多いであろう。

 また、CNBCの視聴者の90%は大学学部卒以上の学歴を持ち、典型的な視聴者の年収は15万6000ドルである。視聴者に富裕層が多いため、CNBCはNBCユニバーサルが所有するケーブルチャンネルの中で2番目に利益が多いチャンネルになっている。

 金融市場に関わりのある人にとって、CNBCは金儲けに欠かせない情報を得ることができるチャンネルである。「ウォールストリート・ジャーナル」が1面トップで企業の不祥事を暴けばその記事を書いた記者が登場してアンカーの質問に答え、さらには問題とされた企業のCEO(最高経営責任者)と中継でつないで質問攻めする。ウォーレン・バフェットが出演したかと思えば、インデックスファンドの父ジョン・ボーグルが視聴者からの質問に答えている。1日に110人に及ぶゲストが登場するCNBCは、ウォールストリートの金融パーソンからデイトレーダーに至るまで、金融市場のライフラインとして機能している。

 CNBCが成功した理由の1つは、「ワシントン・ポスト」のメディア担当記者ハワード・カーツが著した『フォーチュンテラーズ』(ダイヤモンド社)によると、スポーツ番組から学んだところにあった。引用しておこう:

「CNBCの成功の秘訣は、数字が並ぶ無味乾燥な金融の世界をスリル満点のゲームに変えたことにあった。スポーツ専門局ESPNの人気番組「スポーツセンター」を意識的に真似して、スポーツ記者が野球のワールドシリーズやフットボールのスーパーボウルについてしゃべるような感じの番組づくりを目指した。ニューヨーク証券取引所の取引開始のベルは、大々的に盛り上げて、プレーボール第1球のように演出した。試合前のショーもあれば、実況アナウンサーもいる。スターティング・ラインナップの発表もあれば、ハーフタイムのレポート、試合終了後にゲームを振り返るコーナーもある。相場のテクニカル分析をおこなうコーナーは「TKO(テクニカル・ノックアウト)」と名づけられた。記者たちは上着を脱いでワイシャツ姿になって、電話取材をしたり、コンピュータでなにかを調べたり、冗談を飛ばしたり、食べ物の好みを話し合ったりして、気軽におしゃべりを楽しむ。」(同書75-76ページ)

 ただし、CNBCは派手な演出だけで今日の地位を築いたのではない。CNBCが頼りにされるようになったのは、あくまでその報道のレベルが高いからである。

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著者プロフィール

茂木 崇(もぎ・たかし)

茂木 崇

1970年生まれ。東京工芸大学専任講師。専門はマス・コミュニケーション論、アーツ・マネジメント論で、守備範囲はニューヨークの新聞・雑誌・テレビ・デジタルメディア・広告・音楽・ブロードウェイ。1年のうち2カ月ほどをニューヨークでの取材と調査にあてている。



このコラムについて

茂木崇の「タイムズスクエアに魅せられて」

 世界の文明の十字路、米ニューヨーク・タイムズスクエア。この地に魅せられ、研究を重ねる筆者が、米国のメディア、エンターテインメント、ファッション産業などについて、縦横無尽にテーマを選び、最新動向をリポートする。

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