Manjeet Kripalani (BusinessWeek誌、インド支局長)
米国時間2008年7月1日更新 「India's Economy Hits the Wall」
ほんの半年前、インドには心配など無用に思えた。経済成長率は年9%と堅調で、企業収益は2割の増益を達成。株価は昨年50%も値上がりした。個人が旺盛な消費意欲を示す一方、企業も海外企業の買収に果敢に取り組む。おまけに外国人からの投資も増加の一途と、インドは破竹の勢いで突き進んでいるように思えた。
ところがこの快進撃に急ブレーキがかかった。6月には、経済が苦境に陥った国の仲間入りをする事態に至った。11.4%に達するインフレ、巨額の財政赤字、金利上昇のトリプルパンチ。そこに、外国人投資の流出、通貨ルピーの下落、今年最高値から4割も下がった株式市場の低迷が追い討ちをかける。
経済成長率は7%に減速するという予想が大勢を占め、成長の“減速”でなく“加速”が必要なインドにとっては手痛い成長率の低下だ。
「半年前にもてはやされていたインドが相手にされなくなった」と、米メリルリンチ(MER)インド子会社(ムンバイ)の自己勘定売買部を率いるアンドリュー・ホランド氏は語る。国内関係者の間でも、インドはやっと手に入れた投資適格国という評価をすぐにも失い、輝かしい“インド成長物語”も幕を閉じると憂慮する声が多い。
インド経済の悪化は、原油高や外国資本の流れを止めたサブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)危機などの世界的な事情の影響を受けているのは明らかだが、責任はインド政府にもある。入念な対策が練られていたならば、インドが今直面している問題の大半は回避できたかもしれないのだ。
インドの石油需要は経済成長に伴い急増しており、そのうち75%は輸入により賄われている。インド政府はディーゼル油などの燃料価格に対し6割の補助金を支給している。インフレ率が3%と低かった昨年、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のスビア・ゴカン氏らエコノミストは、補助金削減に着手するよう進言した。
だが、大衆迎合的な与党の国民会議派(インド国民会議)は、補助金削減どころか農民向け債務減免措置と公務員給与引き上げに250億ドルを費やした。
政府の無策でチャンスがフイに
今やこうした支出のほか、新たに250億ドルの肥料補助金が加わり、インド政府の歳出は年1000億ドル増加する見込みだ。この金額は国内総生産(GDP)の1割、国の全所得税収入に相当する。
しかも、新しいインフラ設備の整備には5000億ドル、教育・医療施設の拡充にはそれ以上の支出が早急に必要とされている中での歳出増だ。昨年6%以下に縮小した公式政府債務のGDP比は、今年10%近くまで拡大する見通しだ。
インド経済の立て直しに関してゴカン氏は、「昨年以降、政府は重要な改革機会を何度もフイにした。(国民会議派が連立を組んで政権の座に就いて以来)ここ4年間、全く有意義な改革を行っていない」と非難する。
インドの将来性を強く確信する人々でさえ、最近の有意義な経済改革の事例をすぐに挙げることができない。
30の経済特区を設置する計画は事実上、塩漬け状態にある。経済特区に必要な土地の確保には都市でも地方でも根深い利害関係が絡み、インド政府は社会や政治を大きく混乱させずにこの問題を解決する方法を見いだせていない。肥料補助金で市場が歪み、技術の遅れも目立つインドの農業は生産性がきわめて低い。司法制度の強化や裁判官の増員といった単純で政治的利害とは無関係な改革も全く放置されている。
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