(前回から読む)
中国には全国人民代表大会(全人代)という、国家の立法府としての最高決議機関と、中国人民政治協商会議(全国政協)という、中国共産党指導下の多党協議を担う最高権力機関の二つがあり、日本の国会の役割を果たしている。
これを中国では「両会」(二つの会議)と読んでいるが、2008年3月、この両会の会期中に、全人代の代表の一人が、なんと「高齢のホワイトカラー未婚女性」が増えていくことを憂慮して、「姐弟恋」を奨励したとして、中国のマスコミは沸き立った。私が書いている<A女>のために、ということになる。
「姐弟恋」とは「姐(姉)と弟との恋」。文字通りにとってしまうと近親相姦ということになってしまうが、この人が言いたかったのは「姐弟配」。すなわち姉さん女房のこと。しかしほとんどの報道はあえて「姐弟恋」という言葉を用いたものだから、「なに? 全人代代表が近親相姦を奨励した?」と反応しておもしろがり、話題が話題を生んでいったのだった。
ちょうどこのとき北京にいた私は、泊まっていた北京国際飯店のビジネスセンターでFAXを送ろうとし、その間ソファーに座って待っていたときに、そこにいた女性スタッフたちが苦笑いしながら囁いているのを耳にして知った。
この全人代代表は内蒙古自治区代表の一人で赤峰学院副院長の郭麗虹助教授。彼女は<A女>たちが高齢化して売れ残っていく現象を嘆いて、「姉さん女房だっていいじゃないか」と呼びかけ、中国社会に根強い「男大女小」(夫の年齢が妻より高い)という伝統的観念を打ち破ろうとしたのである。
年上の女性を妻にすることによる、これだけのメリット(?)
彼女の提案を、箇条書き的にまとめてみよう。
1.性別比のアンバランスは「兄妹式」婚姻の継続を困難にする
中国の婚姻法では、最低結婚年齢を「男22歳、女20歳」と規定している。これを「男女同年齢」あるいは「女の年齢を男より高くする」というように改正すべきだ。婚姻法は早婚により人口が増加するのを抑えるため、結婚可能年齢を高く抑えているが、そんなことをしなくとも、現在は晩婚型が流行っている。おまけに法律で男が女より高年齢であることを決めているので、これは中国の「男大女小」という「兄妹式」伝統概念を、より強固にさせ、法律で奨励しているようなものである。
だから「兄妹式」婚姻を奨励するような婚姻法を改正すべきだ。
2.「兄妹式」婚姻は、女性の未亡人時間を長引かせる
女性の平均寿命は男性より長いというのが人類社会の普遍的法則だ。20世紀末の統計によれば平均寿命は「男63.3歳、女67.6歳」と、女が4.3歳も長く生きている。それなのに夫の年齢の方が高いとすれば、夫が先に他界し、妻が長い時間一人残されることになり、さびしい老後を送ることになる。現在すでにそういう現象が普遍化している。だから逆に「姐弟恋」であるなら、ほぼ同じ年齢に他界することができて、女性に老後さみしい思いをさせなくてすむ。
3.「男大女小」は男性優位の世界観の表れ
なぜ中国の長い歴史上、「男大女小」という観念が根強く引き継がれてきたかというと、それは男性優位の観念に基づく以外の何ものでもない。もし「姐弟式」婚姻へと移っていけば、女性の地位向上にも有利となり、それは性別比バランスの改善にも役立つことになろう。
4.「剰女余男」を解決する一挙両得の方法
国家統計局の2005年統計によれば、21歳、22歳、23歳という三つの年齢段階を対象に詳細に調査したところ、「100人の女性に対して92人弱の男性しかいない」という結果が出ている。これは「大齢(高齢)未婚女性」の増加の原因となっていく。もし婚姻法改正により社会通念の変革を誘導していくことができれば、配偶者選びのときに「女性が男性より年齢が高い」というふうに持っていくことが可能だし、「大齢未婚女性」の問題と20歳以下の男性比率が大きいという事実がもたらす将来の婚姻問題の両方を同時に解決させる一挙両得の方法である。これにより社会通念の変革をももたらすことができるだろう。
これが郭麗虹女史の提案の趣旨である。
それに対して反対意見を表明した者は少なくない。
たとえば同じく全人大代表の広東省汕尾市委員会共産党学校の蒋海鷹・副校長(女)は、「姐弟恋」婚姻は悪いことではないにせよ、法律を改正する必要などはないという意見だ。
その理由がおもしろい。
ネット世論は「逆ギレ」
「生活条件の改善により、美容製品や美容に関する知識が豊富になってきたので、現在女性の老化速度は明らかに緩慢になってきた。男の人が姐弟恋的婚姻を歓迎しないのは、妻が先に年をとっていくのを見たくないからだろう。自分に似つかわしくないと思うわけだ。しかし今は社会の競争が激化して、同年齢の男女を比較すると、男性の方が年を取って見えるようになってきた(競争の激化との因果関係は不明。著者注)。
したがって、法律を変えなくても、男性側の心配は自然に薄まっていくことだろう。一方、社会通念の改革はメディア報道によって、その目的を達成することができる。たとえばタレントの王菲と李亜鵬のような姐弟カップル(姉さん女房カップル)がいかに幸せに暮らしているかを大々的に宣伝すればいいのではないか」
とまあ、これがいわゆる日本の国会議員にほぼ相当する人が言う内容かと思われるような主張なのだ。
それに、と彼女は続けた。
「もし今後男性が余るというのなら、同年齢の中からではなく、もっと低い年齢層から若い女性を選べばいい。そもそも婚姻法で男性の結婚最低年齢を22歳と定めたのは、生物の科学的根拠に依拠したもので、その年齢に達してないと、男性は成熟していないし、また次世代の養育も負担しきれないからだ。この22歳という年齢を女性と同じ20歳に引き下げるというのは、絶対に不適切だ」
これが共産党学校の副校長の反対意見であるというわけだ。
美容技術の発展とか、老化の速度などと言われると、そういうことに対して無頓着に生きてきた私としては、ハッとしてしまうのだが、こんな主張を発表されて、世間が騒ぎ立てない方がおかしい。ネット言論の賑やかなこと。
「仮にあなたが10歳年上の女性と結婚したとしよう。あなたが50になった時には、妻は60、60ですよ。そんな老化してしまった妻を見て、あなたは耐えられますか?」
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