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「富める者」を教育せよ

“富”であると同時に“貴”でなければならない

2008年10月3日(金)

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 2008年9月24日、中国共産主義青年団(略称:共青団)が発行する全国紙「中国青年報」は、南京大学教授の潘知常の「厳重的問題是教育“富人”」(=重大な問題は富める者を教育することである)という論文を掲載した。

「先に豊かになった」人に物申す

 潘知常は南京大学“新聞傳播学院”(=新聞報道学部)の有名教授であるが、過去に一度ならず論文の盗用が指摘され、南京大学から懲戒処分を受けたことのある人物である。そうした意味の著名人がこのような精神論的な論文を全国紙に堂々と発表するということ自体にも、筆者は興味津々なのだが、それはさておき、潘知常の論文を抄訳すると次の通りである:

 2008年は中国の改革開放[註1]から30周年に当たるが、私は講義や講演を行う際に、常に1つの質問をしている。それは、この30年間を通じて最も馴染み深い、あるいは最も好きな言葉は何かというものである。大多数の人の答えは、あたかも申し合わせたかのように、“譲一部分人先富起来”(=一部の人を先に豊かにさせる)[註2]である。この言葉の影響は極めて大きく、この言葉に鼓舞されて多くの中国人が「一部の人」になって確かに先に豊かになった。

[註1] 1978年に鄧小平の指導の下で開始された中国国内の体制改革および対外開放政策
[註2] 鄧小平の開放政策の基本理念、いわゆる“先富論”の根幹を構成する言葉

 それ自体は良いことであるが、先に豊かになった「一部の人」の態度は決して満足できるものではない。相当数の「先に豊かになった」人は、「倉廩(りん)実ちて礼節を知る」(=倉が穀物でいっぱいになることで礼儀と節度を知る。出典『管子』)ではなく、なんと「暖衣飽食(=衣食足りること)で淫欲を思う」で、愛人を囲ったり、一人っ子政策に違反して子供を複数生んだり、賭博に手を染めたり、暴力団と手を組んだりしている。

 中国の「先に豊かになった」世代の人は“富人”(=本当の意味の金持ち)になることを学ばなければならない。“富”(=豊かなこと)は即ち“貴”(=貴いこと)を意味するものではなく、本当の“富人”は“富”であると同時に“貴”でなければならない。

 ここで言う“貴”は、学識があり、品格があり、教養があることを意味するが、“富”であると同時に“貴”であるとは一体どういうことを指すのか。

 世界一の株式投資家で世界第2位の富豪であるウォーレン・バフェットは、310億ドルもの私財を慈善団体「ビル・ゲイツ基金会」へ寄付した。これに対して中国の大多数の金持ちは自分の子供に財産を残すことや、欲しいままに浪費することしか考えず、社会的貢献など思いもよらない。

 バフェットは、「市場経済は勝者の天国に過ぎず、敗者である貧者の問題を解決する術を持ってはいない。従い、貧者の問題の解決には、勝者である“富人”が道徳を自覚して、主動的に社会のために富を再配分するか否かにかかっている」と考えている。

 中国の「富める者」の多くは、合法的に金を稼ぎ、合法的に納税しさえすれば、それが社会に対する貢献であると考えているが、これでは全く不十分である。西側諸国では、“富人”(=本当の意味の金持ち)は「懸命に金を稼ぎ、懸命に倹約し、懸命に寄付する」でなければならない。

 米国政府の毎年の財政総収入に占める“富人”からの慈善献金は9%にも達するが、中国では国家財政収入に占める「富める者」からの献金の割合は0.1%にも達しないし、献金する「富める者」は1%にも満たない。

 私は中国の「先に豊かになった一部の人」のすべてに問題があるとは言わないが、相当多くの「一部の人」に問題があることは間違いないと考える。

 西側諸国の“富人”の多くは、社会の発展に伴い、学識水準を高めたり、経営能力を高めるなどの努力をして財をなしたものであり、“富人”になれたのは、道徳的な自覚、学識、社会的責任感の賜物であることを誰もが知っている。従い、彼らは財をなした後も自分を律することを緩めないばかりか逆に強めている。

 ところが、中国の場合はこれと全く異なる。中国の「富める者」のかなりの部分は、“双規制”(=計画経済から市場経済への転換期に取られた価格の二重構造)や株・不動産売買などによって一夜にして成金となったものである。彼らは、往々にして財産を創造することで「富める者」になったのではなく、財産の分配や移転によって「富める者」になったのである。

 彼らは、後にも先にもどのようにすれば“富人”になれるかというようなことを考えたことはなく、“不仁”(=思いやりの心ないこと)で富んだだけであり、社会に報いるという意識もなければ、道徳の自覚を高めたり、学識を高めたり、社会的責任を自分に求めるなどという気持ちもない。結果としては、富んで不義(=道に外れること)となり、甚だしくは富むために不仁となったのである。 

 前世紀の50年代に、毛沢東は“厳重的問題是教育農民”(=重大な問題は農民を教育することである)という有名な言葉を残しているが、開放改革から30年の今日、我々もまた大声で、「重大な問題は富める者を教育することである」と叫ばねばならない。

 以上、ちょっと長くなったが、潘知常が引用している毛沢東の言葉は、1950年代の当時、中国の農民はマルクス主義の中核であるプロレタリア階級(=都市の賃金労働者階級)に比べて思想的に大きく立ち遅れていたことから、「中国共産党が中国の農民を教育すれば、彼らは世界中の誰よりも良い革命家になる」ということを意味したものであった。そこで、潘知常はこの毛沢東の言葉に擬(なぞら)えて、中国共産党が中国の「富める者」を教育すれば、彼らは世界中の誰よりも良い“富人”になり得ると言っているのである。

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「「富める者」を教育せよ」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター 講師