10月に入って日経平均が1万円を割った後、乱高下を繰り返している。米国のダウ株価平均も4年ぶりに1万ドルを割り、次に円高がやってきた。収益の予想を下方修正する企業も相次いでいる。株価下落と円高を貫く金利に、筆者は“攘夷”の心を感じるのである。
ドル金利と一定の差を維持してこそ為替安定
通常、金利を上げると円高に振れ、下げると円安になる。今回の金融危機で、日銀は金利を一切いじっていない。世界の株価が下落した10月8日、欧州と米国を含む10の中央銀行が協調利下げをした時も、日銀は動かなかった。また中川昭一財務・金融担当大臣はG7財務相・中央銀行総裁会議を終えた後もまだ、具体的な市場安定化策を発表しなかった。日本政府は円高を希望したのだろうか。
現在の円高傾向の原因として、次の3つが考えられる。
1)円キャリートレードを中止して円を戻しているから
2)「相対的に金融システムの健全さに支えられた円の需要が高まっている」という印象があるから
3)金利が他の国のようには下がらなかったから
1)は正しいだろう。
2)の、日本の金融システムが健全かどうかは疑問があるので、別の機会に書くが、“ミスター円”を標榜する榊原英資氏など、金融専門家が繰り返し「日本経済はバブル後に健全な体質になっているので、大丈夫。だから円は買われるんです」とテレビの画面で訴えている。どこに論拠があるのか、不明である。
さて、問題は3)である。金利の設定は為替相場に直接響くため、各国とも真っ先に手をつける。
金利を上げるか下げるかは、その国の経済状態による。上げる場合は基本的に経済が好調な局面で、スピードが早過ぎる成長(=インフレ現象が顕著になる)を抑制して、民間経済全体の浮揚(=企業収益だけでなく個人の所得水準が上がっていく)のスピードとのマッチングを図ることに主眼が置かれる。資金流動性の市場への供給を絞って、過剰な成長を抑える時に使う対策だ。
一方で金利を下げるのは、景気後退が顕著な時に、流動性を潤沢にして設備投資や経済の活性化を刺激する時に行う。この金融危機(どころか金融恐慌)の到来にあたって日本が出遅れたのには、2つ理由があると筆者は考えている。
1つは、日本ではサブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)問題の根深さについて、理解できていなかったこと。もう1つは、日銀特有の組織の理論が市場原理を超えて優勢だったことだ。
前者については、日本の金融の舵取りだけを考え、国際市場の深い考察ができなかったために、サブプライム証券化商品の「ツケ」が保険会社にまで及ぶというような、Wall Streetの“Deal”(ごまかしの意味を含んだ取引)についての理解ができていなかった。
世界的に懸念される、「金融システム全体の流動性不安」が心理的に波及し、世界中の株価を押し下げることが明白な段階であっても、である。だからこそ欧米の中央銀行は利下げに踏み切っているのだが。よその国が利下げをしたからといって「おつき合いでの利下げ」をする必要もないものの、流動性不安の問題をきちんと理解していれば、即時対応できたはずだと思う。しかし、白川方明日銀総裁は動かなかった。ここで、後者の理由(日銀特有の組織の理論)が浮かんでくる。
以前から言われているが日銀には、利下げは「負け」、利上げは「勝ち」という世界観が根強く染み込んでいる。外国に虚勢を張り、身内の組織維持を真っ先に考えるという2つの意味で、「日銀帝国陸軍論」とでも言いたくなる。白川総裁はこの「帝国陸軍」きってのエリートだ。利下げや金融緩和は、日銀マン(日銀帝国陸軍)として着手したくない。世界中で日銀だけが協調しない状況にあるのも、なにやら「帝国陸軍は孤高を貫くべし!」「苦しくても耐えろ!」と叫ぶ直情軍人を思わせる。
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



1958年生まれ、法政大学大学院修士課程修了。スウェーデン国防軍国際センター民軍協力コース修了。広告代理店、出版社勤務を経てフリージャーナリストとして独立。1989年より国際協力の取材を始め、現在では世界の紛争地に赴くかたわら、発展途上国の開発・援助政策、コミュニケーション戦略を作成する。拓殖大学国際学部非常勤講師も務める。







