「山崎養世の「東奔西走」」

山崎養世の「東奔西走」

2008年11月7日(金)

オバマは“太陽経済”をもたらすのか

最大の岐路に立たされた世界、そして日本経済の行方

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 多くの読者の皆様から、世界の経済と市場についてのコメントが欲しい、という声を頂きます。新たなビジネスの立ち上げに奔走せねばならず、9月にいったん、休載のお知らせをした当コラムですが、今回は特別版として、世界経済の素描をお届けしたいと思います。

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 世界経済の恐怖の10月が終わりました。11月5日、米国には、全く新しいタイプの大統領が誕生しました。どんな世界が始まるのでしょうか。

 10月の世界は、戦後最大クラスの、株式市場の大暴落を味わいました。あっという間に1000兆円を超える株式の価値が世界で失われました。いよいよ、世界大恐慌が始まったという言葉が勢いを増しています。さて、それは本当でしょうか。

当面の物価上昇でパニックを起こしたECBの間違い

 10月までの出来事を振り返って見てみましょう。9月からの株式暴落は、政策当局の失敗から起きました。もちろん、その底流には戦後最大の金融機関の危機があり、当局の危機への対処の誤りが暴落を呼んだのです。

 まず間違えたのは、7月に1バレル150ドルに近づいた石油価格に恐怖を感じ、利上げに踏み切ったECB(欧州中央銀行)でした。石油や食料品の価格上昇が、次には需要を落ち込ませ、デフレを生むという、35年前のオイルショック時に日本の高橋亀吉氏が指摘したメカニズムを無視しました。当面の物価上昇にパニックを起こして、金融危機が始まったのに金利を引き上げたのでした。

 しかも、オイルショック当時とは違い、先進国から途上国への労働流出が起きているから、賃金面からのインフレ圧力がない、というこれまでに私が指摘した点への洞察もなかったのです。1999年の大底である1バレル9.9ドルから150ドルにまで石油価格が上昇しても、先進国でインフレが起きないのは、人件費という、最大の物価決定要因が上がらないからなのです。

幻のインフレより怖いものを悟り協調利下げ

 次に、米国当局も決定的な誤りを犯しました。9月中旬のリーマン・ブラザーズの破綻を放置し政府系金融機関のファニーメイ、フレディマックの株式の価値がゼロになることも放置しました。戦前の経済体制なら、完全に大恐慌に突入していたような重大なミスでした。

 これによって、世界の金融市場は全面マヒ状態になりました。銀行も証券会社も相手がいつつぶれるか分からないから、お互いに資金を貸さなくなりました。資金は国債に逃避し、米国債の利回りはゼロに近づきました。

 反対に、民間の銀行間取引金利であるLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)はわずか20日間で、2.7%から4.7%にまで跳ね上がったのです。巨大銀行でも市場から資金が取り入れられない状態が続きました。米国政府が約70兆円の金融機関救済策を発表しても、全く効き目がありませんでした。

 戦前との違いが出たのがここからでした。事態の重大さにやっと気がついた欧州諸国が、いっせいに銀行と預金者の保護に回り、400兆円を超える前代未聞の救済策を発表しました。ようやく、幻のインフレの恐怖よりも、本当の恐怖が金融危機と景気の大幅減速であることを悟ったECBは、米国のFRB(連邦準備理事会)と一緒に協調して金利引き下げを行ったのです。

90年始初めの「失敗」に学ばなかった日銀

 事ここに至っても、世界の流れの外にいたのが日銀でした。昨年の8月以来の金融危機、株式、不動産の暴落が日本経済にも大きな影響を与え、不況に突入しているのが明白なのに、1年2カ月にわたって、金融緩和に抵抗し、インフレの懸念ばかりを強調してきました。不動産と株式バブルが崩壊を始めた90年初めから、1年半にわたって金融引き締めを続け、深刻な不況をもたらした失敗から学ばなかったのです。

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著者プロフィール

山崎養世(やまざき・やすよ)

山崎 養世

1958年生まれ、東京大学経済学部卒。カリフォルニア大学ロサンゼルス校でMBA(経営学修士)取得。大和証券勤務を経て米ゴールドマン・サックス本社パートナー、ゴールドマン・サックス投信社長などを歴任。2002年に退社後、「高速道路無料化」をマニフェストに掲げて、徳島県知事選挙に挑戦。現在はシンクタンク山崎養世事務所で金融、財政、国際経済問題などの調査研究を行っている。著書に『日本列島快走論』(NHK出版)、『大逆転の時代』(祥伝社)、『チャイナ・クラッシュ』(ビジネス社)、『投資信託革命』(共著、日本経済新聞社)、『米中経済同盟を知らない日本人』(徳間書店)、『道路問題を解く』(ダイヤモンド社)などがある。


このコラムについて

山崎養世の「東奔西走」

イラク戦争を機に世界の枠組みは大きく変わった。東西冷戦が終わり米国による世界覇権の時代が訪れたものの、わずか10年で終わりを告げた。戦争はできても世界に覇を唱える力がないことをさらけ出してしまったからだ。その間、ユーラシア大陸の西ではEU(欧州共同体)が世界における政治・経済の新しい軸として存在感を増し、一方、大陸の東では中国が急成長、アジアはもとよりラテンアメリカ、アフリカとも強い絆を築きつつある。その変化の意味を意外に分かっていないのが日本である。国際的に日本はどのようなスタンスを持つべきなのか、また地方を活性化するにはどうすべきかなどについて、歴史的視点から日本の政治・経済のあり方を厳しく問う。

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