「ネットは「中国式民主主義」を生むか?」

オバマ現象に活気づく中国網民(ネット市民)

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2008年11月14日(金)

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 バラク・オバマが次期アメリカ大統領に就任することが決まった。その選挙戦の過程と結果に対して、思わぬ賛辞を送っている者たちがいる。それはネット言論を通して中国の世論を動かしている中国の網民(ネット市民)たちだ。

 2008年7月のCNNIC(中国インターネット情報センター)統計によれば、中国のネット人口は2.53億に達し、アメリカを追い越して世界一に上りつめた。しかも前年度成長率が56.2%というから、勢いは止まりそうにない。

 その網民たちが注目したのは、オバマが選挙資金を集めるにあたり、インターネットを駆使したことと、オバマが平民から立ち上がり、大資本家といったバックボーンなしに不特定の大衆に呼びかけて、草の根運動的に成功への道を歩んでいったことである。

 ネットを通した資金集めは、5ドル10ドルといった僅かな金額の積み重ねにより、1年間で2億ドルにも達し、ヒラリーやマケインの資金を遥かに凌いでいった。そしてネットを通して発せられた彼のメッセージは多くの国民を惹きつけ、ボランティアとしての活動に導いていったことを、中国の網民たちは「ネット上で展開された“人民戦争”」と位置付けているのである。

 これはインターネットの勝利であり、ここにこそ、真の民主主義があると、網民たちの文字は熱く燃えている。

検閲と民の主張がネット空間を巡って争う

 これまでの(筆者の)記事で何度も触れてきたように、中国では憲法上は言論の自由が保障されているものの、それはあくまでも政府や共産党を礼賛する範囲内での自由であって、実際にはかなりの言論規制がなされている。そこで匿名性の高いネット空間を用いて、網民たちは真実の吐露を試みているわけだが、それも政府の検閲に遭い、個人の書き込みが“有害情報”として削除されたり、個人サイトが封鎖されたりしているのが現状だ。

 しかし、あまりに激しい検閲を行うと、2.5億に上る網民たちが黙っていない。2.5億ともなると、十分に世論を形成する力を持っており、すさまじい言論パワーとなり得る。したがって政府は飴と鞭を適宜使い分けて一定程度の書き込みの自由を与えているため、中国のネット空間は、取り締まる官側と、その検閲を何とか潜り抜けて民の主張を反映させようとする民側との間の、激しい争奪戦の様相を呈している。

 民側は、これを「ネット空間官民争奪戦」と称し、新時代の文化革命と位置付けている。ここから政治改革が進むのではないかと期待する網民は少なくない。

 そしてこれを「網絡民主」(インターネット民主)と名付けているのである。

 したがって、オバマが金や富、あるいは社会的特権等においてではなく、その精神性や心というものにおいて多くのアメリカ国民の心に感動を与え惹きつけたという事実は、網民に希望と自信を与え、きっと自分たちのネット民主もいつかはリアル空間における政治改革へと結び着くかもしれないと、熱い視線を送っているのだ。

 オバマの当選がまだ確定していなかった2008年7月10日付の、「烏有之郷」(UTOPIA)(www.wyzxsx.com)は、「アメリカにも、もしかしたら(ベネズエラの)チャペス(大統領)が出現するかもしれない」というタイトルで、オバマの出現を分析している。その中から興味深い言葉を拾ってみよう。作者のハンドルネームは馬門列夫。馬(マー)はマルクス(馬克思)の馬で、列(リェ)はレーニン(列寧)の列をもじったものと思われる。

インターネット時代の平民政治家として立ち上がったオバマは、非常に自然に、そして創造的にネット技術を用いて“大統領への夢”を実現させようとしている。(中略。ネット募金のことを書いた後に)オバマのこの行動は、インターネット上で政治と経済の両方を兼ね備えた“人民戦争”を発動したに等しく、旧態然として富豪たちから政治資金を集める伝統的な政治モデルに従ったヒラリーを落選させた。
中国におけるネット民主は、一つの新しい文化革命を形成するに至っているが、アメリカのネット民主は、なんと、巨大な政治作用まで発揮する役割を果たしたのだ。
オバマが発した“チェンジ”というスローガンは、政治に経済に不満を抱くアメリカ社会の大衆心理にピッタリと合い、(中略)同時に中流および下級階層のホワイトカラーおよびブルーカラーの人たちがネット技術を駆使して、アメリカ史上でも前代未聞の無窮の威力を持つ末端政治地層を積み重ねる新モデルを創り上げた。この快挙はアメリカ現代政治活動の群衆参与性を大々的に高めたのである。

 また翌7月11日の「烏有之郷」は、「ネット新文化革命は政治革命の一場面だ」というタイトルで中国のネット言論闘争を論じたあと、上記7月10日付の記事にさらに加える形で、オバマの闘争形式に関して以下のような見解を述べている。作者は同じく馬門列夫。

世界ネット世代の到来により、ネット民主は人民民主の今の時代の形式となった。それは人民の日常生活や生産活動に影響をもたらすだけでなく、ますます政治の色彩を帯び始めている。
資本主義の中心的な砦であるアメリカにおいて、ネット人民民主が政治の面にも滲入し始めた。
ネット民主は人民の特色、時代の特色そして世界の特色を持っており、連絡が便利で、広範な領域に対して発動することができ、貴賎等級の別が完全になく、ただひとえに自分の観点の十分な表現の自由があるばかりである。このような民主は無限の生命力を持っており、今後ますます発展し、やがてはネット民主がネット文化革命となるまでに至らしめるであろう。そしてそれはさらに進んで、世界の政治革命へと導くに違いない。

 そして、オバマ当選が確定した後の11月6日付の焦点房地産網にある「北野文集」は、「オバマの当選は何を説明しているのか?」というタイトルで、次のように書いている。房地産とは不動産の意味。ちなみに北野とあるが、決して日本人の名前ではなく、個人ブログを持つ北京に住む中国人。ハンドルネームかもしれない。以下に示すのはそのブログの概略である(カッコ内は筆者)。

オバマの当選は、この世界が変わらなければならないことを示している。中国人としても(オバマが示した)“チェンジ”を深刻に受け止めなければならない。(中略)

オバマが当選後のスピーチで言ったように、「われわれの国家の真の力は、武器の威力や財富の規模から来ているのではない。あくまでも、民主、自由、チャンス、そして屈服を知らない希望といった、われわれの理想の持久力から来ている」のである。これはすなわち、“ソフトパワー”から来ており、一つの国家、民族に内在している価値観と信仰(主義主張や理想に対する絶対的信頼)から来ていることを意味する。

(然るに、中国はどうなのか)

こんにちの中国においては、多くの人が財富や権力を手に入れている。しかし彼らが社会全体に対して、いったいいかなるお手本を樹立させたのか? こんにち、経営者群像はすべてこの社会のエリートや成功者たちによって成り立っているが、その結果、何をもたらしたのか? こんにち、中国は財富方面においては前代未聞の富豪が現れ、ほぼ世界で最も金のある国家となったが、その結果はどうなったのか?

人民たちは空前の不満を抱き、社会の矛盾が激化し、貧富の差に至っては何と大きなことか!

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

 1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士、筑波大学名誉教授、東京福祉大学・国際交流センター センター長。(中国)国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、(日本国)内閣府総合科学技術会議専門委員、中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。

 著書に『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書) ほか多数。2児の母、孫2人。



このコラムについて

ネットは「中国式民主主義」を生むか?

中国では憲法上は言論の自由が保障されているものの、それはあくまでも政府や共産党を礼賛する範囲内での自由であって、実際にはかなりの言論規制がなされている。そこで匿名性の高いネット空間を用いて、網民たちは真実の吐露を試みているわけだが、それも政府の検閲に遭い、個人の書き込みが“有害情報”として削除されたり、個人サイトが封鎖されたりしているのが現状だ。しかし、あまりに激しい検閲を行うと、2.5億に上る網民たちが黙っていない。2.5億ともなると、十分に世論を形成する力を持っており、すさまじい言論パワーとなり得る。政府は飴と鞭を適宜使い分けて一定程度の書き込みの自由を与えているため、中国のネット空間は、取り締まる官側と、その検閲を何とか潜り抜けて民の主張を反映させようとする民側との間の、激しい争奪戦の様相を呈している。民側は、これを「ネット空間官民争奪戦」と称し、新時代の文化革命と位置付けている。ここから政治改革が進むのではないかと期待する網民は少なくない。そしてこれを「網絡民主」(インターネット民主)と名付けているのである。この動きは中国の政治に何をもたらすのか、最新情報からリポートする。

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