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基礎コース:中国の「民主づくめ」現象を理解する

三人の指導者から読み解く「先富論」後の流れ

2009年1月9日(金)

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 いま中国では、前回(「やはり現れた、ネット文化革命「08憲章」 」)紹介したように、「08憲章」の登場と中心人物の逮捕や、ネット上での強力な言論統制が行われている。

 ところが一方で中国はここのところ、「民主づくめ」とでもいいたくなる現象も続いているのだ。

 今まで何回かご紹介したように、胡錦濤国家主席は訪米中のエール大学の講演で「民主がなければ、現代化はない」とスピーチし、胡のブレインの一人と言われている中共中央編翻局副局長の兪可平が『民主はいいものさ』という本を著し、そしてマルクスレーニン主義教育の砦である中国人民大学の前副学長・謝韜が『民主社会主義モデルと中国の前途』という論文を発表する、という具合だ。

 日本人にしてみれば、<中華人民共和国>という国名が連想させる印象とは乖離しているように思われるが、それは中国人民に対しても複雑な反応を呼び起こした。刺激された彼らは、中国語のネット上で賛否両論を噴出させ、激しい民主論争が展開する。

 言論統制を加えるくらいならば、余計な刺激をしなければいいではないか。
 いったい中国政府は何をしたいのだろうか。
 そう思われる方が多いにちがいない。

 私はそのあからさまな矛盾の底に潜む意図を、解き明かしていきたいと思っている。

正月取材の成果を…と思ったら編集者から泣き言が

 今回からはこういった一連の民主論争の正体とは何か、そこにはどのような背景と胡錦濤のシグナルが潜んでいるのかを慎重に分析してみたいと思う。個人的な経緯や興味はもちろんあるが、世界一の人口を持ち、世界経済に甚大な影響をもたらす中国の「民主」は、中国と関わっている個人、企業、そして日本をはじめとした多くの国家に大きな影響をもたらすだろう。「隣国の民主なんてどうでもいい」という方もいるかもしれないが、現在はグローバル化の時代。現状理解と、未来予測は、きっと皆さんのお仕事にもお役に立つのではないかと期待したい。

 さて、実は私は正月三が日を返上して中国の「民主」の動きの鍵を握る要人に直接会ってきた。一刻も早く皆さんに報告したいと思っていたら、編集者からストップがかかった。

 「まず、“民主”を巡る現状までのざっくりした流れや、登場人物の位置取りが分からないと、せっかくの話がちゃんと理解できません」と悲鳴を上げられてしまったのだ。どのくらいから始めたらいいのかと聞くと「そもそも“社会主義”の国で、どういう理屈で“市場経済”が成り立っていて、しかも“民主”という言葉までが熱く語られるのか、そこからして分かりません。どうか徹底的に初心者向けに、しかもかいつまんでお願いします」と涙目で言う。

 そうまで言われては仕方がない。連載をお読みになる方にはすでにご存じのことも多いかと思うが、今回は中国での「社会主義」と「民主」という言葉を巡る基礎編をお送りしておきたい。座標軸として、3人の主役、鄧小平、江沢民、胡錦濤を考えると分かりやすい。

*   *   *

 中国はいうまでもなく、社会主義国家。その思想基盤は「マルクスレーニン主義」。平たく言えば「資本家による工員や農民などの労働者への搾取を許さず、労働者自身が主人公となって、完全平等による労働者だけの国を作る」ことを理想として、中国共産党が指導する国だ。

 ところがその中国は、「富の再配分」において絶対平等を理念としてきた共産主義理論から離れていく。このきっかけを作ったのが最初の主役、鄧小平だ。1978年に始まった改革開放から1985年にかけて彼が唱える「先富論」により改革開放の門を開き、市場経済を導入して、激しい競争社会へ突入した。

 先富論というのは、「先に富める者が先に富んで良い」という意味だ。そして「先富者」が、まだ富んでない残りの多くの群衆を牽引して「共富」状態に持っていく。そうでもしなければ文化大革命(1966~76年)で廃墟のように荒廃しきった中国を立て直すことはできない。白猫でも黒猫でも(思想のカラーは何色でも良い。要は)鼠を捕るネコが良い猫だ。このような指示を出したのである。

社会主義国家と「先富論」の矛盾から全ては始まった

 ではそれまではどうだったのか。個人的に金儲けをした途端に「走資派」(資本主義に走る一派)として糾弾され生存権を奪われるような形で葬られてきた。そんな社会の束縛を一気に解き放ったわけだから、中国人民は金に向かって猛進していくこととなった。

 その結果、中国が凄まじい経済成長を遂げたことは、ご存じの通りである。
 鄧小平の先富論は正しかったということになる。

 しかし、そうなると「社会主義国家」という定義はどこに行ってしまうのか。
 これは非常に矛盾に満ちた、苦しい弁明を要求する。

 そこで中国政府は、市場経済をひた走る社会主義国家中国を、「中国有特色社会主義国家(中国の特色ある社会主義国家)」と名付けて、「社会主義国家においても、市場経済による自由競争は存在して良い」という概念を導入した。後に「有」という字がなくなって、中華人民共和国憲法には「中国特色社会主義国家」と記されるようになったが、内容的には変わらない。

 もっとも中国政府側による「中国特色社会主義国家」の定義には、「中国共産党の指導の下で、基本的国情に基づき、経済的建設を中心として」という枕詞の下に多くの国家理念が盛り込まれているが、スローガンとして新たに入ったのは「改革開放と市場経済」だ。簡単にいえば「社会主義国家における市場経済の導入」が“特色”なのだと考えれば、日本人には分かりやすい。

 平等を旨とする社会主義の下で、自由競争にさらされた13億の人民。その結果、激しい貧富の格差が生じ、農村と都市の格差も目に余るようになってきた。

 平等の建前が守れなかった理由は簡単だ。先富論があるからだ。

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「基礎コース:中国の「民主づくめ」現象を理解する」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官