• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

「ネット」と「民主」の大変動の中心に座る、胡錦濤

「民主づくめ」と「ネット統制」から見えてきた仮説

2009年1月16日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 前回(基礎コース:中国の「民主づくめ」現象を理解する )は、「民主」を巡る現状を知るために、中国共産党の指導者、鄧小平と江沢民の時代を振り返った。今回はいよいよ、今日に至る「ネット」と「民主」の大変動の中心に座る、胡錦濤について述べよう。そしてお約束通り、彼が「ネット」と「民主」をどう考えているかの仮説提示を行いたい。

*   *   *

 江沢民から権力の座を引き継いだ胡錦濤。彼は、“民生を重んじる主席”として庶民から慕われている。

 私は中国に行くと必ずタクシーの中で運転手さんとこまごまと世間話をし、それを通して庶民の感覚を吸収することにしている。「江沢民は民のために何もやらなかった。ただ腐敗を増やしただけだ。だけど胡錦濤は違う。彼は“老百姓(庶民)”のために何かやってくれる」。彼らの感想は、こうした内容で驚くほど一致している。“民生=人民の生活”を重んじる主席と言われるようになったのもうなづける。 

 事実、胡錦濤は政権に着くと同時に、被搾取階級として奴隷のような最下層に追いやられている農民工問題に着手した。農村から出てきて都市の建築現場で働く農民工は薄給であるだけでなく、給料を支払ってもらえない者が多く、毎年春節が近づき帰郷する頃になると、給料の支払いを求めて建築中の高層ビルから飛び降りようとする者や焼身自殺をする者が続出していた。

 胡錦濤は、温家宝首相とともに、未払い給料に関する調査を実行させ、未払い分を支払うように指示を出した。その調査によれば、2003年までの未払い給料の累計総額は、3千3百66億人民元(約5兆円)に達するという(中国網総合消息2004年1月18日)。

 このうち少なくとも2003年度に発生した未払い分に関して、2004年の春節を迎えるまでに89%を支払わせたというから、これが本当なら胡錦濤は“鉄腕”だ。その後、農民工に対する給料支払いに関して「農民工工資(給料)保証金制度」なる制度を立法化するなど、本格的な改革を推進している。もちろん病根は根深いので一朝一夕に改善されるわけではないが、しかし少なくとも問題解決の方向に踏み出したことは確かだ。

民衆から評判のいい胡錦濤が、ネットには非常に厳しい

 また2006年7月には、「反腐敗」を徹底することを党の重大戦略任務と位置づけ、社会福祉の根本であるはずなのに、すっかり商売化し高騰している教育費や医療費、「乱収費」(適宜理由をつけて、やたらに徴収する費用)にもメスを入れ始めた。

 胡錦濤が行わせた調査によれば、政府高官(それはすなわち共産党幹部)が飲食、接待、公費出張および公用車使用などに使いこむ不正な公金の総額が年9千億元(約13兆円)というから、天文学的数字の腐敗ぶりだ。学者によってはこの数値さえ、実は実際の汚職額の3分の1程度だとする者もおり、庶民に衝撃が走り、ネットは怒りを通り越して呆然とする声が目立つほどだった。私にとって驚くべきことは、このデータを公開したのが、中共中央党校の機関紙《学習時報》(2006年3月)である、ということだったが。

 その胡錦濤がなぜ、前々回まで見てきたような、あそこまで厳しいネット言論統制を行うのか――?

 それをひもとくために、私たちは胡錦濤が2004年1月に手をつけた「マルクス主義理論研究と建設工程」なるものに注目しなければならない。

 マルクス主義理論?
 そんな話は、ちょっと…… と、日本人ならばほぼ誰でもが敬遠することだろう。

 実際、編集者にも「ここでマルクスとか理論のお話なんてどうでもいいのでは…」と言われたのだが、ここには非常に重要な転機のシグナルが含まれているので、少しだけ我慢して頂きたい。何といっても中国の「民主づくめ」の導火線は、ここで用意されたのだから。

 前任者、江沢民時代には「向銭看」(銭に向かって進め)という言葉が流行っていた。
 中国革命時代に毛沢東が「向前看」(前に向かって進め)というスローガンの下に、農奴のような生活を送っていた国民を一身に惹きつけて革命を成し遂げたものだが、両方とも発音が「シャン・チェン・カン」で、発音の声調(四声)の高低まで同じなので、庶民が時勢をもじって自嘲的に言っていた言葉である。

 民主を求めて若者が起こした天安門事件以来、「人民が政治に目を向ければ、必ず政府に対する批判が巻き起こる」として、政治を語る代わりに金儲けに血眼になることを奨励した結果が招いた言葉なのである。それに待ったを掛けたのが胡錦濤、ということもできる。

 たしかに「向銭看」による人心の誘導はある意味では大成功し、中国は豊かになった。平均的に収入は増え、消費の喜びも味わえた。民衆に「こんなに金儲けをさせてくれるなら、共産党政権も悪くない」と実感させることに、政府は成功したと言える。

 問題はその実感を味わえない層が膨大に残ったことだ。

 貧富の格差は増大するばかりで、二極化が進んでいった。政商の結託と腐敗も、目に余るところまで行っていた。このままではオリンピックを乗り切れないどころか、人民の不満を抑えきることもできない。

 網民(ネット市民)は新しい“発言母体”として動かし難い存在感を政府に突き付け始めてもいる。この力を無視することはできない。網民の中には「さあ、立ちあがろう、奴隷になることを望まない者たちよ!」という、中華人民共和国を誕生させるために作られた革命歌で国歌にもなっている歌詞を持ち出してきて、現在の中華人民共和国に抗議する者さえ現われていた。こんな声があふれるような状況になったら、中国共産党はもはや(金儲け以外では)民衆を率いられない。思想的にはおしまいだ。

 「向銭看」の時代は終わった。かといって、江沢民時代を“銭の時代”とするなら、毛沢東時代は継続的(暴力)革命を肯定し金儲けを否定する“精神思想の時代”である。いまさら「向前看」に戻ることはできない。

「金儲け」以外の指針を打ち出せ

 というわけで、胡錦濤は経済発展した現在の中国の精神思想的支柱となり得る「真のマルクス主義とは何か」を再検討するために「マルクス主義理論研究と建設工程」を指示した。と、私は解釈する。

 この影響は当時私がいた教育界にも現われた。2005年5月11日、中共中央宣伝部と国家教育部は共同声明により、「高等教育哲学社会科学学科システムと教材システム建設を強化改善させることに関する意見」なるものを発布し、「マルクス主義理論」に関する学部および学科を大学に新設あるいは増設するよう指示を出す。

 「向銭看」時代にはそれまでの「マルクスレーニン主義」関係の科目の代わりに、経営経済、国際貿易、あるいはIT、バイオといった科目が激増し、政治哲学関係が薄まっていった。1980年代から中国国家教育部との合作で『中国大学総覧』(厚有出版)を出版し続けてきた私は、ひしひしとその変化を現場で感じていたものだ。 

 このようにマルクス主義理論武装を指示していた胡錦濤は、一方では、鄧小平が改革開放の時に唱えていた社会主義民主に、ふたたび言及し始めた。

 2004年1月27日、中仏国交正常化40周年記念に招かれた胡錦濤は、フランス国民議会における講演で次のようなメッセージを発表している。

コメント5

「ネットは「中国式民主主義」を生むか?」のバックナンバー

一覧

「「ネット」と「民主」の大変動の中心に座る、胡錦濤」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

定年後の社会との断絶はシニアの心身の健康を急速に衰えさせる要因となっている。

檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター 講師