「ネットは「中国式民主主義」を生むか?」

北京ゲリラ取材 社会制度のモデルコンテスト

「民主社会主義のみが中国を救うことができる」

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2009年2月6日(金)

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「政治体制改革は一刻も遅らせることはできない。もし中国が経済体制改革だけを行い、今すぐに政治体制改革に着手しないとすれば、かつて大陸で滅亡への道を辿った、あの蒋介石・国民党と同じように滅亡の道を辿っていくだろう」

 現政権に対して歯に衣着せぬ批判を行っているのは、中国人民大学の元副学長、謝韜(しゃとう)氏。マルクスレーニン主義教育の砦として政府側に立つことで知られているこの大学の要職にいた経験がありながら、「民主憲政のみが執政党の汚職腐敗を根本的に解決することができ、民主社会主義のみが中国を救うことができるのだ!」と強く主張した「民主社会主義モデルと中国の前途」という論文を書いた人だ(2007年2月、雑誌<炎黄春秋>に掲載)。今年88歳になる。

 2009年が明けるとすぐ、私は北京にゲリラ的に取材に行っていた。目的はひとつ、この謝韜氏に直に会うためだ。

 謝韜氏の論文は、前に紹介した胡錦濤のブレインである兪可平が書いた『民主はいいものさ』とは、かなり異なる。兪可平は現政権の「特色ある社会主義国家」の中における“民主”を求めているが、謝氏の場合は、真のマルクス主義が求めているのは「民主社会主義」であるとする。マルクス主義の枠内といえども、現体制を前提にするか否かにおいて、視点がまったく違う。もちろん謝韜氏のほうがずっとラディカルだし、日本人である私にも素直に納得しやすい。

 いずれにしても、どこもかしこも“民主”という単語に満ち満ちているいまの中国で、いったい何が起きているのか、そしてこの論文を書いた背景には何があるのかを知りたいと、かねがね思っていた。

 そして、彼に会うそのチャンスは、思わぬところからやってきた。またしてもネットである。

08憲章署名者が明かした連絡先

 連載で何度も触れている「08憲章」。2008年12月10日、中国共産党の一党独裁を糾弾し、民主と自由、そして人権尊重等を求め、中国のネット空間に出現したメッセージだ。その憲章に署名した一人が「私はなぜ08憲章に署名したか」という文章を発表した。しかも驚いたことに、本人への連絡先(自分の家と携帯の電話番号)が明記してあるのだ。

 08憲章に関連した記事やサイト、書き込みは、戒厳令でも布かれたかのように一気に削除・封鎖されていったのだが、その寸前に私はこの記事を見つけ、ハードコピーとして打ち出していた。

 なぜ憲章に署名したのかを語った、その人の名は鉄流――。
 ハンドルネームというより、執筆活動もしている人物のようで、どうやらペンネームらしい。

 すでに70数歳となった男性であり、1957年に毛沢東が引き起こした反体制派狩り「反右派闘争(※)」で逮捕され、無実の罪で23年間の牢獄生活を強いられた、という「筋金入り」。

(※)【反右派闘争について】
 1956年、毛沢東は「百花斉放百家争鳴(全ての花が一斉に咲き開くように、さまざまな文化芸術を自由奔放に発展させ、誰でもが自由に意見を述べて論議する)」という運動を展開し、共産党批判さえも奨励した。そこで人々は、毛沢東を信じて思いきり自分の見解を自由に公開したのだが、そのほとんどが党批判だった。この結果を知った毛沢東は、その翌年、一気に方針を転換して、自由に意見を述べた者たちを次から次へと逮捕し労働改造所(激しい労役で思想改造を行う所)という牢獄に送り込んだのだった。その数、約50万人。ほとんどは知識人たちだ。

 鉄流氏は、人生の残りも少なくなったし、もう怖いものはないから、と「08憲章」に署名した理由を書いている。自分の家の電話番号と携帯番号をネットで公開するという大胆な行動に出たのも、公安に対して、いつでも誰でも彼の身の安全を確認することができることによってプレッシャーをかける、逆手のような手段なのだ。さすが23年間も「思想不良」として投獄されていた人の動き方は違う。

 その電話番号をマーカーで囲み、どうしたものかとさんざん考えた挙句、私は遂に思い切って鉄流氏に電話したのである。すでに12月の末になっていた。

 電話はすぐに通じた。ネットで電話番号を知ったと言ったら、ものすごく喜んでくれて、どんな話でも答えてあげるので、何でも聞けという。

 そこで私は厚かましくも、思ったままに以下のようなことを聞いた。

*   *   *

遠藤:では、遠慮なくお聞きしたいと思いますが、あなたはどのようにして「08憲章」に署名したのですか? あれが公開された時には、すでにあなたのお名前は入っていましたよね?

鉄流:ああ、それはですね、仲間たちから個人メールで、こういう動きがあるが、署名しないかって、公開前に誘いがかかったからですよ。

遠藤:そうでしたか…。起草者は公開前に逮捕されていますが、鉄流さんご自身は、公安からは何か…。

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

 1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士、筑波大学名誉教授、東京福祉大学・国際交流センター センター長。(中国)国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、(日本国)内閣府総合科学技術会議専門委員、中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。

 著書に『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書) ほか多数。2児の母、孫2人。



このコラムについて

ネットは「中国式民主主義」を生むか?

中国では憲法上は言論の自由が保障されているものの、それはあくまでも政府や共産党を礼賛する範囲内での自由であって、実際にはかなりの言論規制がなされている。そこで匿名性の高いネット空間を用いて、網民たちは真実の吐露を試みているわけだが、それも政府の検閲に遭い、個人の書き込みが“有害情報”として削除されたり、個人サイトが封鎖されたりしているのが現状だ。しかし、あまりに激しい検閲を行うと、2.5億に上る網民たちが黙っていない。2.5億ともなると、十分に世論を形成する力を持っており、すさまじい言論パワーとなり得る。政府は飴と鞭を適宜使い分けて一定程度の書き込みの自由を与えているため、中国のネット空間は、取り締まる官側と、その検閲を何とか潜り抜けて民の主張を反映させようとする民側との間の、激しい争奪戦の様相を呈している。民側は、これを「ネット空間官民争奪戦」と称し、新時代の文化革命と位置付けている。ここから政治改革が進むのではないかと期待する網民は少なくない。そしてこれを「網絡民主」(インターネット民主)と名付けているのである。この動きは中国の政治に何をもたらすのか、最新情報からリポートする。

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